マスカレイド・オブ・ニンジャ #5
(あらすじ:ネオサイタマが誇るアクション俳優、ジェット・ヤマガタの正体はニンジャソウル憑依者「オウガパピー」であった。だがこの秘密を知られた時、ヤマガタはセプクして死なねばならぬ。彼は正体を隠したままオウガパピーとして戦い、第二の故郷、オールド・カメ・ストリートを襲撃から救った)
2015-09-30 22:40:50(あらすじ続き:だが彼が撃退したアンタイブディズム・ブラックメタリスト軍団「ドクヘビ・サークル」の背後には、コブラ不動産の邪悪なニンジャ集団「スネイクピット」の影が!怒りに燃えるディスポイラー、ホワイトパイソン、サーペンタインの三人は、反ブッダ兵らを伴って総攻撃に乗り出す……!)
2015-09-30 22:47:17「オッ!ジーザス試写見たよオ、ヤマガタ=サン!イケてるじゃない!相当イケてるじゃない!!」バンダイが豪快に笑った。彼は大物豪腕プロデューサーだ。金色のジャケットを着て、クセの強いサングラスをかけている。横にはアイドル候補生ゲイシャが四人も。それは彼の誇示するパワーの証なのだ。 1
2015-09-30 22:53:17「ドーモ!」ヤマガタはサイバーサングラスをかけたまま深々とオジギして微笑んだ。彼はステージでのネコネコカワイイとの共演を終え、二人のADマイコに汗を拭かれながら控え室へ戻るところだった。「ドーゾドスエ」最高級イオン飲料水がストロー付きで供され、もう片方のマイコが汗を拭き取る。 2
2015-09-30 22:57:22「美容師マイコに聞いたんだけどサ、同業者のヤサキ=サンと控え室でアクションしちゃったンだってエ〜?」「アッハイ」ヤマガタは苦笑する。内心では、冷汗を垂らす。彼はバンダイが好きではない。だがこの男の機嫌を損ねれば、今のネオサイタマ芸能界で仕事を取るのはいささか難しくなるだろう。 3
2015-09-30 23:03:34もしや花輪を蹴倒した話が伝わったのか。ケジメを強いられてもおかしくない。……だが予想に反し、バンダイはサングラスを上げ、軽薄な口調から深い声に変わってこう言った。「……イイ!凄くイイ!その話を聞いて、ビビッと来た」「何ですって?」「映画のアイディアだよ!君が俳優役で主役だ!」 4
2015-09-30 23:08:44「俳優役で…主役!?」ヤマガタは目を白黒させた。「そう!君が売れないアクション俳優役で主役!アイドル俳優役のクミコ・サカイと禁断の恋に落ちる!彼女はヤクザに狙われていて君がボディガードになる!」バンダイが肩を叩いた。嫌な予感がした。「ムネコ・シマタダも共演させて三角関係だ!」 5
2015-09-30 23:14:21ヤマガタは一瞬声を詰まらせた。まるで日刊コレワ芸能スキャンダル記事のイミテーションだ。あるいはもしかすると、この出来すぎた成功話は全てクミコ・サカイの張り巡らせた罠なのかもしれない。だが突っぱねればどうなる?全てが消える。「スゴイ」ヤマガタは言った。「そうだろう」とバンダイ。 6
2015-09-30 23:18:49ヤマガタは唾を呑み、剛胆にも言った。「でももっといいアイディアが」「何だって?」バンダイは耳を疑う。「キャスティングに不満があるとでも」「まさか!付け足すだけです!敵役としてヤサキ=サンを出すんですよ」「何を言ってる。奴は落ち目だ」バンダイは悪臭を払い除けるように手を振った。 7
2015-09-30 23:23:18「引退するそうです」「そりゃそうだろう」「勿体ないですよ」「そうは思わんね。ピークを過ぎたアクション俳優なんて」バンダイは急激に熱を失ったように、冷淡な口調になった。「確かにアクションは衰えましたが、そのぶん……深みがあるんですよ」ヤマガタは自分が思っている通りの事を言った。 8
2015-09-30 23:29:54「凄いアクションになる自信があるんです。彼をライバル役か師匠役にしてくれるなら、どんな危険なスタントだってやりますよ!」ヤマガタは拳を握った。「何だって!?どんな危険なスタントでも……!?」豪腕プロデューサーの目が光った!「ハイ!」「どんなロマンスシーンでもやるかね……!?」 9
2015-09-30 23:34:20(((全ては、本物のアクションスターに上り詰めるためだ)))……ヤマガタには夢があった。我ながら馬鹿げた夢だ。その夢は、この2ヶ月で具体的な更新を得た。アクションスターになって地位を不動のものにし、尊敬できる俳優仲間を集め、オールド・カメ・ストリートで何本も映画を撮るのだ。 10
2015-09-30 23:40:52……そして街並みを守ったまま、一帯を新たなアクション映画の聖域にし、自らの映画スタジオとドージョーを築く。誰にも強制退去などさせない。世間の目を集めストリートの商業価値を高めれば、ヤクザも地上げ屋も手を出せない。これが、第二の故郷の未来と己のエゴを両立させる最高の夢であった。11
2015-09-30 23:46:37ヤマガタは弱者を助けるヒーローなど信じていない。だがアクションの力はずっと信じ続けているのだ。ゆえに彼はアクションスターを目指す……「ええ、そうですね、演技の幅を広げるためにロマンスも……」彼が返事をしかけたその時、サイバーサングラス視界に映るTV番組の端に、不穏な文字列! 12
2015-09-30 23:56:08「トリツ・ディストリクトで停電継続中」それだけの文字列。だがヤマガタはニンジャ第六感によって何かを感じ取り、声を詰まらせた。頭がカッと熱くなり、何も聞こえなくなり、視界が真っ白に染まりかけた。「ロマンスも可かね!?」バンダイが問う。ヤマガタは彼に背を向け歩き出した。シツレイ!13
2015-10-01 00:03:14「おいヤマガタ!いい視聴率だったぞ!あとは1時間後のグランドフィナーレだけだ!その後のパーティーも当然出席だぞ!マメさがスターを生むんだ!」通りがかったマネージャーが背中をどやす。ヤマガタには聞こえなかった。彼は他の誰も見えていないかのように廊下を進み、やがて、駆け出した。 14
2015-10-01 00:07:20「おい!この俺を誰だと思ってる!」バンダイの傲慢な怒声が響いた。四人のアイドル候補生オイランが恐ろしさのあまり震え上がった。「アイエエエエエエ!もしやお話の途中でしたか!?」マネージャーが血相を変え、ドゲザする。そして後方へと叫んだ。「おい、ヤマガタ!ヤマガターーーーッ!」 15
2015-10-01 00:11:34ヤマガタは関係者や報道陣をも荒々しく押し退け、サングラスを放り投げ、ネクタイを捨てて走った。それでも今の彼には、邪魔な者たちを殴り飛ばして進まなかっただけ上出来であった。全身を燃えるような焦燥感が灼いていた。彼はもどかしい人間の速度で走り、カメラをかいくぐり、暗い駐車場へ! 16
2015-10-01 00:18:16冷たい重金属酸性雨が降り始めていた。ヤマガタは自分がしでかした事の重大さを知っているだろう。だが、今の彼はこの得体の知れぬ衝動を信じた!「ハイヤアーッ!」鋭いシャウトととももに、誰もいない駐車場の壁を駆け上った!ビル屋上に回転跳躍着地すると、彼はオウガパピーに変わっていた! 17
2015-10-01 00:21:30彼は遠く東の空を睨み、駆けた!まっしぐらに故郷を目指す!何故もっと早く気付かなかった。いや、街は二ヶ月の間無事だっただろう。無事であってくれ。……様々な声と焦燥感が、胸を灼く!……急げ!オウガパピー!急げ!「ゴースト・オメーン!」彼は変面し、ビルを飛び渡る風の幽鬼と化した! 18
2015-10-01 00:34:04突然の停電事故に襲われた過密居住区画、トリツ・ディストリクト。取るに足らぬ区画であり、マッポは未だ動かず、報道ヘリは飛びもしない。暴動や略奪を引き起こしかねない危険アトモスフィアの中、そこかしこで僅かな予備電源の光がホタルめいて瞬く。例外は、オールド・カメ・ストリートだ。 20
2015-10-01 14:58:52