ある太郎の悲劇、あるいはオルタオルタ焼肉食べ放題90分

なんだこれ。
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里村邦彦 @SaTMRa

オルタさんとオルタさんと焼き肉三時間食べ放題 #というタイトルでどうか #やおいやおい

2015-10-03 00:57:03
里村邦彦 @SaTMRa

付き合うんじゃあなかったと、ジャンヌは顔を顰めた。隣近所の村がふたつみっつはガメラに轢き潰されたような仏頂面であった。我が神仏はここにある。彼女について、ほんらいは黒ジャンヌと呼ばれるべきではあるが、白いのがこの場にいないためこのように略する。いまは著しく不本意であった。

2015-10-03 01:01:28
里村邦彦 @SaTMRa

焼肉屋である。九十分食べ放題である。肉は劣悪であり、掴めば皿の上一塊で持ち上がる氷の塊であり、いったい百年戦争の頃でもここまで良からぬ肉があったものだろうか。肉というよりもニンニクと醤油のにおいしかしない。寿司やらアイスクリームやらもぼちぼちの量が用意されていたがお察しである。

2015-10-03 01:05:35
里村邦彦 @SaTMRa

酒は別料金であった。なのでジャンヌの手元には緑色の炭酸水があり、それを適当に煽っている。黙々と悪い肉を焼いては、生焼けでかっこんでいた方の連れが顔を上げた。「どうした。食べないのか」死人のような顔色はジャンヌと同じであり、彼女は便宜上オルタと呼ぼう。何しろ呼び名がややこしいのだ。

2015-10-03 01:08:49
里村邦彦 @SaTMRa

「よくそんなものを喜んで食べること。龍種じゃあなくて、犬っころの血でも入ってるんじゃあないの」人も殺そうという凶相に、オルタはどこ吹く風とばかり、肉を網の上にぶちまけた。凍っている。塊である。煙が上がる。「どうでもいい。問題は実用性だ」「ああ、そう」メロンソーダを呷る。

2015-10-03 01:12:53
里村邦彦 @SaTMRa

トングも使わず凍結肉の山を掻き回すオルタの、目線は当然ながら肉にある。このクソ英霊が。それでも英霊か。人を呼びつけておいて。「それで。要件は」「肉は食わないのか」「要件は!」「食事に決まっているだろう。黒の聖女よ、お前は莫迦か」「はあ!?」ジョッキを叩きつける。言うに事欠いて?

2015-10-03 01:15:51
里村邦彦 @SaTMRa

もうもうと立ち込める過剰ににんにく臭い煙越し、琥珀色に変色した眼と眼がかちあった。「必要もない食事に誘って、まさか懇親だのと言い出すんじゃあないでしょうね」「それ以外に何がある」躊躇がなく、答えに詰まった。「莫迦じゃないの。黒の騎士王」「マルタは喜んでいたが。飲まないのか貴様は」

2015-10-03 01:18:29
里村邦彦 @SaTMRa

「雑ね。雑だろうてめえ」「実用性が問題だ。あちらの聖女は大層気に入っていたが。何しろ上機嫌で、肉の倍額も飲んでいた。おっと」山盛りのカルビが黒い煙をあげている。トングで掴んだのは単に量の問題である。白飯の上に焦げ混じりの薄いカルビが山になる。がつがつと食うのに何を言ったものか。

2015-10-03 01:22:16
里村邦彦 @SaTMRa

重機のような勢いで悪い肉と米が消える。「食わないのか。肉は。フランス生まれだろう貴様は」「あのクソ祖国をどんな目で見てるんだいくらなんでもそんな文化はねえよ。島に帰れよアングル人」「ふん」次の肉がぶちまけられる。ぶちまけるとしか言いようがない。「思ったより繊細だな。ぬかった」

2015-10-03 01:25:49
里村邦彦 @SaTMRa

「何が」「礼の積りだったのだが」「は?」聞き間違いか。礼。礼? 確かに思い当たるフシはある。「礼って。このあいだのあの猿芝居のこと?」「そうだ。うちのマスターの相手をさせたろう」「あと少しで殺してやれたのに。無念だこと」「その性根と戦いたかったのだ」トングで肉を鷲掴みにする。

2015-10-03 01:28:33
里村邦彦 @SaTMRa

ジャンヌの目の前に肉が小山を作った。「ちょっと」「いいから食べるがいい。私が食事を分け与えようというのだ。礼だぞ。不服か」「……当たり前だろうがお前、人のことを何だと思ってやがる」「お仲間だろうさ」琥珀色の目と琥珀色の目がかちあった。「うむ」「……ちょっ、こら、ま、何する! こ」

2015-10-03 01:31:14
里村邦彦 @SaTMRa

「いいから食え。私の肉が食えんのか」「押さえつけるなクソ! 警察! ポリス!」「残念だがここはカルデアの再現記憶の中だ。そんなものはない。だいたい英霊に警察を呼んでどうするつもりだ」「面倒くさいな!」しばし攻防が続いた。ジャンヌの口元が脂と味噌だれまみれになる頃合いまでは。

2015-10-03 01:33:12
里村邦彦 @SaTMRa

肉がぶちまけられたのを、オルタは拾いあげて平然と口に運んだ。ジャンヌを抑えこんだままである。咀嚼して飲み込む。「強情だな貴様」「狂ってる」「王の作法だ。……ああ。そうか、黒の乙女、聖なる小娘」「何よ」背けた顔を上げると、口元に感触。冷たいにんにく臭い、ぬらぬらとした。舌だ。唇だ。

2015-10-03 01:36:30
里村邦彦 @SaTMRa

口元の脂などを舐め取られた。いや、舐め取られたというより、認識が追いつく、脳が沸騰する。「お前、おいお前この黒女! 何を!」「小娘だったと思い出した。騎士のように振る舞うべきだったかとな」「黙れ!」「フランス流だろう?」「黙れド変態が!死ね!死んでしまえ!」ジャンヌが旗を握った。

2015-10-03 01:39:57
里村邦彦 @SaTMRa

☆5サーヴァントと最優の☆4サーヴァントの殺意の篭ったじゃれあいにより、仮想空間内に再現された焼き肉すぱるた太郎は崩壊した。

2015-10-03 01:41:13