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小説における描写法、一元描写について

三人称一人の視点と一元描写とをごっちゃにしてはいないか、という一言で纏められることを長々と呟いたもの。
人文 小説 岩野泡鳴 一元描写
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いしきたかくないタコ @Tacos_Clinic
一元描写というのはよく「三人称一人の視点」と言われるが、「三人称一人の視点」の定義は至極曖昧なので混同してはならない。三人称で進行する点では同じだが、決定的に違うことが多々ある。それでは、今日はこの一元描写についてだらだらと語っていこうと思う。
いしきたかくないタコ @Tacos_Clinic
まず一元描写について、辞書では「小説の中で、作者の主観を移入した人物を設定し、その視点から描写を一元的に統一すべきだとする」とまとめられてある。
いしきたかくないタコ @Tacos_Clinic
つまり主人公一人から見た世界を描写していくということだ。一元的ということは、――これは一番重要なことなのだが、当然のことながら視点の変更を行ってはならない。俗に「三人称一人の視点」と言われるものとの決定的な違いはそこだ。
いしきたかくないタコ @Tacos_Clinic
岩野氏はなぜ一元描写を考え付いたか。その時代は西洋の自然主義文学を履き違えた平面描写が主流で、作者の主観を交えずに事実をただ連ねるだけの作風が多かった。特定の主人公を置きつつもかなり客観的で、内面に立ち入らないことが殆どだった。
いしきたかくないタコ @Tacos_Clinic
いきなり本題から外れるようだが、平面描写の説明は必要なことなので先に述べておくことにする。平面描写とは対象となる人物や事柄の表面をただありのまま描く手法のことだ。
いしきたかくないタコ @Tacos_Clinic
提唱者である田山花袋はこう語っている。 <聊(いささ)かの主観を加えず、結構を加えず、ただ客観の材料を材料として書き表すと云う遣り方、それをやって見ようと試みたのです。単に作者の主観を加えないのみならず、
いしきたかくないタコ @Tacos_Clinic
客観の事象に対しても少しもその内部に立ち入らず、また人物の内部精神にも立入らず、ただ見たまま聴いたまま触れたままの現象をさながらに描く。云わば平面描写、それが主眼なのです。(1909年早稲田文学)>
いしきたかくないタコ @Tacos_Clinic
1909年発行の田山花袋の著書「田舎教師」はこの考え方をもとに書かれた作品である。この作品を読んでみると、なるほど確かに事象の羅列で成り立っていた。起きた事件、それに対し主人公が起こした行動を以って心情を推測する必要があった。
いしきたかくないタコ @Tacos_Clinic
この作品を読んで現代人が受ける印象としては、「台本」というところか。個人差はあるため決め付けることはできないが、何にせよ現代の小説とはかけ離れたものだ。なお、この表現は当作品を批判するものでないことをご理解頂きたい。
いしきたかくないタコ @Tacos_Clinic
田舎教師では、林清三という主人公を中心(主観)に物語が進められていくわけだが、作中の飲み会で主人公が席を立ち部屋を出て行ったあと、その場に残った二人が主人公についての内緒話をする場面がある。主人公がいないにも関わらずだ。
いしきたかくないタコ @Tacos_Clinic
そして物語の最後、主人公が生涯を終えた後のことも描写されている。主人公はもう死んだにも関わらず。ではその「主観」はどこに行ったのだろうか?勿論田山氏は岩野氏のように視点を主人公に固定して考えているわけではなく、ただ主人公の話であるから主人公に焦点を当て続けただけに過ぎないのだろう
いしきたかくないタコ @Tacos_Clinic
だが、それまで一貫して主人公で進められてきた視点がいきなりスッと移り変わるのだ。凄まじい違和感を覚えたことを記憶している。岩野氏と田山氏は同世代であるが、二人がどういう関わりを持っていたかは知らないし、どういう過程を経て意見を対立させるに至ったかは解らない。
いしきたかくないタコ @Tacos_Clinic
そのため断定は出来ないが、今例に挙げたような違和感を岩野氏は感じ、描写の一元化を確立するに至ったのではないだろうか。田山氏を名指しで批判する文章も残っている。
いしきたかくないタコ @Tacos_Clinic
と、対立の過程はともかく動機についてはこうだ。岩野氏は、物語を多面、つまり複数の人物や、物語に出てこない作者自身の語りからではなく、主人公一人から見た世界として描写することを美としたのだ。
いしきたかくないタコ @Tacos_Clinic
一切の概念的描写を排した狭小的な、しかしだからこそ深奥的になる一元描写こそが真なる文学なのだと声高に主張した。文学的美学が動機のようだ。
いしきたかくないタコ @Tacos_Clinic
さて、それではここに岩野氏の唱える一元描写論を用意したのでご覧頂きたい。なお、没後五十年が経過し著作権は切れているため全文のアップに違法性はないことを一応記しておく。 privatter.net/p/1079499
いしきたかくないタコ @Tacos_Clinic
……と、鼻に付きすぎて顔を顰めそうになるほど上から目線の論じっぷりである。Wikiによると、「『僕は神だ』と演説するなど奇矯な言動が多かった」とあるから、だいぶキている人だったのだろう。しかし人間性はさておき、この一元描写論については実に興味深い内容である。
いしきたかくないタコ @Tacos_Clinic
見るのがめんどくさいという人のために一言で纏めるなら、先に説明したように「作中に取り扱った世界を、その世界に携わる諸人物の一人から見た世界として描写すること」となる。簡単に一言で纏めたが、色々と奥が深いことも書いてあるのでどうか面倒くさがらずに全文を読んでみて欲しい。
いしきたかくないタコ @Tacos_Clinic
なんだそんなことか、と思われるかもしれないが、なかなかどうしてこれを深く理解している者は少ない。一元描写のことを何も知らずに書いているのならいい。小説の書き方なんて千差万別十人十色、その人が思うように書けばいい。が、それを一元描写であると勘違いした上で書くことは些か問題であろう
いしきたかくないタコ @Tacos_Clinic
一元描写では作者が主人公の認識を超えた事柄を述べてはならないのだ。他人の心情を推測、または確固たる自信や材料を元に「主観的に断定」はできても、「物語的に確定」することは出来ない。あるいは、世界観の説明をしたくても、主人公を通して見る世界の事しか描いてはならない。
いしきたかくないタコ @Tacos_Clinic
または、主人公自身の描写についても別の目から見てはならない。○○(主人公)はとても急いだ様子であった、などという表現は主人公以外の存在から見たものだ。そして当然のことながら、視覚に障害がある者が視覚的描写をしてはならない。要は概念的になってはならないのだ。
いしきたかくないタコ @Tacos_Clinic
視点は主人公に固定。その人になりきるのだ。主観の移入とはそういうことだ。作者はただ主人公の気持ちを代弁するだけの存在である。もっと解りやすく言えば、語り手が受ける制限は一人称と同じ。主人公が見たものしか描写できず、主人公の考えしか描写できない。語彙だけが独立していると思えばいい。
いしきたかくないタコ @Tacos_Clinic
さて、次にこれを見てほしい。これは岩野氏が唱えた一元描写論に対し中村星湖という文学者が行った批判を受けて、更に岩野氏が反論したものである。 privatter.net/p/1079568
いしきたかくないタコ @Tacos_Clinic
これは現代風に言えば「視点の移動」について書かれている。中村氏は「観察点の移動は芸術圏内の自由である」と主張したが、岩野氏は否定した。それを認めてしまえば、その作品は概念的なものになるのだ。主観は主人公を離れてしまう。別の一人に移れば、その描写は一元的でなく二元的になるのだ
いしきたかくないタコ @Tacos_Clinic
今日の呟きの最初に〝よく「三人称一人の視点」と言われるが、これの定義は至極曖昧なので混同してはならない。〟と述べたが、こういうことだ。
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コメント

ニガおじ @otanoshimi_ex 2015年10月10日
読んでる途中で気がついたが、発言の時系列逆になってる。まとめの最後が問題提起になってるわ
いしきたかくないタコ @Tacos_Clinic 2015年10月10日
ご指摘ありがとうございます。修正いたしました。
こざくらちひろ @C_Kozakura 2015年10月11日
三人称一視点の描写とはシナリオの書き方。視聴者が知りたいと思う情報を過不足なく提供するための技法。このまとめで言ってる一元描写とは単なる一人称一視点でしかない。簡単に言うと個人がハンディカメラで撮影した視点。一人称一視点でも葛藤は描けるが、対立の構図が見えてこないので、読者には面白さが伝えにくい。
いしきたかくないタコ @Tacos_Clinic 2015年10月11日
C_Kozakura いいえ、一人称ではありません。一人称的制約を受けますが、三人称で進行します(一人称小説も言葉の意味的には一元的ですが、それはここでは含みません)。 なお、仰るように一元的に描写すると主人公以外を深く取り扱えませんが、しかしそれでいいのです。それが一元描写なのです。そもそもの一元描写の目的は、概念的説明を排除し、人間的且つ人生的に小説を取り扱うことなのです。このことは途中アップしている岩野氏本人の談にもありますので、詳しくはそちらをご覧ください。
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