SF作家が予想した未来と予想できなかった未来

笹本祐一先生がETVのサブカル講座SF編をみて思った未来予想についてのtweetをまとめました。
86
笹本祐一 @sasamotoU1

金曜夜にETVで放送されたサブカル講座SF編は、明るい未来を見せてくれた大阪万博がSF作家の協力によるところが大きい、具体的には小松左京ってあたりがマクラだったんだが、んじゃなんで今SF作家が未来ビジョンを語らない、あるいは語れないのか。SF作家が不甲斐ないから、じゃ芸がない。

2015-10-11 11:07:03
笹本祐一 @sasamotoU1

超音速旅客機なんてのは半世紀前から次世代トレンドってことになってて今も開発されてる技術ですが、90年代にANA主催の検討シンポジウム見学に行ったことがある。そこで語られたのは、超音速旅客機の運賃は現在の一倍半くらいで所要時間は1/3というお馴染みのキャッチフレーズ。

2015-10-11 11:09:24
笹本祐一 @sasamotoU1

聞いていてはっと気付いたんだ。ここで言われてる一倍半の航空運賃ってのは、格安料金じゃない、正規料金だって。ちなみに正規運賃表 ana.co.jp/book-plan/dest… エコノミー席これで買ったってことはないけど、航空会社のシンポジウムだもん、たぶんこれが前提になる。

2015-10-11 11:12:35
笹本祐一 @sasamotoU1

実際問題として、大西洋横断のファーストクラスが片道50万円だった頃、全席同じクラスだったコンコルドの片道料金は80万円!超音速旅客機シンポジウムでは期待出来る客層の分析もやっていて、この料金で節約出来る時間を買って釣り合う年収がだいたい三千万円以上って計算だったかなー。

2015-10-11 11:15:07
笹本祐一 @sasamotoU1

んで、大阪万博で示された公共交通機関のひとつに、最近は珍しくなくなった動く歩道がある。こちらは基本的に使用料ただ。収入に関係なく、行けば誰でも乗れる。万博では社会インフラとしてコードレス電話も展示されたが、携帯電話も導入当初はべりぼーな値段で使える人が限られたのはご存知の通り。

2015-10-11 11:17:15
笹本祐一 @sasamotoU1

昔からSF作家が予想出来なかったものとしては月着陸のテレビ生中継とコンピューターゲームがある。笹本はAIBOの発売を見て「最初のロボットがペットとして発売されること」ってのを付け加えたのだがそれは個人的言説として、共通点はいずれも富裕層限定じゃなかったってこと。

2015-10-11 11:19:17
笹本祐一 @sasamotoU1

アポロ月着陸はテレビがあれば誰でも見れたし、コンピューターゲームなんてのはゲーセンに行けば一回100円、AIBOもそりゃ安い値段じゃなかったけれど当時のパソコン並み、バイクや車ましてやファーストクラスの値段ほどじゃない。

2015-10-11 11:21:03
笹本祐一 @sasamotoU1

「SF作家が予想出来なかった」ことについては、文字通り思い付きもしなかったことと、思い付いたはいいがリアリティに欠けるんで表に出してないことがある。あと、実際に発表してるんだけどそれがマイナーなもんで「予想出来なかった」って言われることもあるけどそれは本題じゃないんで除く。

2015-10-11 11:22:35
笹本祐一 @sasamotoU1

例えばですな、もし新しいコンピューターあるいはネットへのインターフェイスを思い付いたとして、それが主題ならともかく話の小道具でしかない場合、さらっとそんなことを書いても話の中で説得力がないどころか読者を戸惑わせるだけなのよ。だったら今のをそのまま使う方が読者をまごつかせない。

2015-10-11 11:23:55
笹本祐一 @sasamotoU1

万博の頃に構想された未来ってのは富者も貧者も等しくその恩恵に預かれる幻想の未来だった。都市をまるごとドームに入れてエアコンすればみんな快適に過ごせるし、当時でさえ新幹線くらいの料金なら一般庶民は出すことが出来た。

2015-10-11 11:27:03
笹本祐一 @sasamotoU1

エアコンもケータイもパソコンもネットも、安くなったのはSF作家の構想じゃなくて企業努力と先行顧客、それから大衆がそれに少なからぬ資本を投下したからである。って考えると、んじゃ昔のドーム都市とかチューブ列車とか家庭配送用チューブって誰がインフラ建設費用負担するのよ。

2015-10-11 11:29:26
笹本祐一 @sasamotoU1

新幹線とか超高層ビルあたりまでなら、国家あるいは大型デベロッパーあたりでなんとかなる。おかげで都市の外観は万博からずいぶん変化した。都市部の新開発されたところなんかだいぶ万博っぽいハイカラでサイケな建物多いよね。ところが、そこから先、日常まで行くと変化は社会じゃなくて生活になる。

2015-10-11 11:34:20
笹本祐一 @sasamotoU1

万博の頃に構想され、期待されてた未来の生活ってのは、人間は変わらないけれどいろいろ楽に簡単になるってことだったはずである。そのうちいくつかは実現されたし、コンピューターがネットワーク化されてスマホとして常時携帯なんてのはSF作家が予想出来なかった未来そのものである。

2015-10-11 11:36:13
笹本祐一 @sasamotoU1

スマホで常時ネットワーク接続という形態そのものは、最初のスタートレックで音声入力のみとはいえすでに提示されてる。それが日常にまで拡大されると予想出来なかったのは、そのためのインフラとか技術とかが非現実的だった以外に、誰もそれを期待していなかったってのがあるんじゃないか。

2015-10-11 11:38:22
笹本祐一 @sasamotoU1

手紙が電話になった時点でみんなその恩恵には預ったけど、その後携帯電話まで期待する向きはそれほど多くなかった。「それでどうやって待ち合わせとかしてたの?」って訊かれるけど、みんな時間と場所を決めていろいろ手段を駆使してそれなりにうまくやってたのよ。

2015-10-11 11:40:45
笹本祐一 @sasamotoU1

つまり、万博以後のSF作家が予想出来なかった未来ってのは、同時にみんなあんまり期待してなかった現代でもあるんじゃないかなーと思う訳である。だからって現代否定する訳じゃないよ。恩恵に預ってるから。でも、「21世紀になったら持ってる音楽ぜんぶ持ち運べるようになるよ」って信じる?

2015-10-11 11:43:38
笹本祐一 @sasamotoU1

今現在、数千、数万単位の曲をiPodなんかで持ってる状況は特別なものじゃない。でも、いいところウォークマンでカセットケースいくつも持ってた時代にそんなこと言われても、ユーザー側にリアリティがないんでそんな未来が想像出来ないわけだ。

2015-10-11 11:45:09
笹本祐一 @sasamotoU1

リアリティつまりその風景が現実的に実現可能か、そうでないかってのは、作家にとっては読者に受け入れられるかどうかの大問題である。なので、SF作家は受け入れられやすい、共同幻想的な未来構想を提出する。たぶん、未来ってものを共有できたのが万博までだったんじゃないかなー。

2015-10-11 11:48:35
笹本祐一 @sasamotoU1

未来のビジョンを提出するのはSF作家だけじゃない。SF映画も漫画もアニメも、デザイナーだっていろんな未来のビジョンを提出する。万博は、未来のビジョンを商売抜きで提出して商業的に成立した場所だった。今、商業的な見積もりなしに近未来ビジョンを提出するとそれだけでリアリティがない。

2015-10-11 11:50:54
笹本祐一 @sasamotoU1

なんせ「未来ビジョンを提出する」って作業そのものが、プロにとってはお金をもらう仕事である。顧客が喜んで金を払うような未来ビジョンでなければ商売にならない。というわけでSF作家は共有されそうなありがちな未来の想像に励み、受け入れられなさそうな革新的未来描写は本能的に避けるのである。

2015-10-11 11:52:51
笹本祐一 @sasamotoU1

なお、一連のツイート内に於ける「SF作家」と「未来構想」は笹本の独断と偏見と経験だけに基づくものであり、世の中にはなんぼでも例外があることも申し添えておきます。士朗正宗にしてもエヴァンゲリオンにしてもいろいろ刺激的な安楽なばっかりじゃない未来ビジョン提出してるもんねえ。

2015-10-11 11:54:26
笹本祐一 @sasamotoU1

以上、金曜のETVのサブカル特集SF編を見てた時のツイートからあとに考えたことでした。てことは、やっぱりとんでもない未来はまず富裕層に提示して楽しんでもらうってのが順当な商売のやり方なんだろうなあ、超音速旅客機の件見ても。 twitter.com/sasamotoU1/sta…

2015-10-11 11:58:05
笹本祐一 @sasamotoU1

昭和の時代のSFは未来予測の一翼を担っていたのだよなあ。

2015-10-09 23:31:07
笹本祐一 @sasamotoU1

以下余談。2002年の映画「マイノリティ・リポート」でトム・クルーズが仮想現実相手に行うコンピューター操作は、キーボードとディスプレイ以外の新しい操作法の提案として各方面に衝撃を与えた。画面だからいいけど、あれ小説でやるとたいへんだろなー。

2015-10-11 12:01:46