黄昏町(九板)十一日目

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@hiiragi_r_t_d

【十一日目】 【魂15/力1/探索2】 【異形】三ツ目(力+1、探索+2) #hollytk

2015-10-17 23:01:43
@hiiragi_r_t_d

「はぁー……」 わたしはのんびりと町を歩きながら、感情を整理する。 バケモノ。非日常。憧れ。悲しみ。 「どうして、悲しかったのでしょう」 あの時、わたしは確かに悲しんでいた。何を?鏑木君から拒絶されたこと?彼を殺そうとしたこと?……バケモノと呼ばれたこと? 01 #hollytk

2015-10-17 23:02:28
@hiiragi_r_t_d

「まさか、ね」 バケモノ。望む所だ。わたしはそうなりたくて、日常から抜け出したくて、こうやって彷徨っているはずなのだから。 「なら、なぜ……?」 答えは出ない。そうやってぼんやりと歩いていたわたしは、何か柔らかいものを踏んづけた。 「ん……?」 ぐちゃり。 02 #hollytk

2015-10-17 23:04:08
@hiiragi_r_t_d

足をどけてみると、鮮やかなピンク色。額の眼からうっすらと見えるピンク色の光は、それが生物の残骸であると示している。 「……わお」 それ……おそらくは小腸……に驚きながら、同時にわたしは自分の反応の淡白さにも驚いていた。 見ているうちにも、光は薄れていく。 03 #hollytk

2015-10-17 23:06:27
@hiiragi_r_t_d

薄れていった光は周囲に溶けて消えた。 「あ、消えちゃいましたね」 わたしは嫌悪感を全く感じない自分に嫌悪感を感じながら、爪先でそれをつつく。 「おや、思わぬ客人だね」 頭上からの声に顔を上げると、そこには……紛うことなき『非日常』がいた。 04 #hollytk

2015-10-17 23:08:22
@hiiragi_r_t_d

壮年の男性が、電柱の上に立っている。 身に纏った古風な貴族服はとても良く似合っているが、スカーフ一つ、ボタン一つに至るまで鮮血で染め上げられ、真っ赤に輝いていた。 彼は小脇に抱えた死体から腕の肉を千切り、口に運ぶ。 「こんにちは、マドモアゼル」 05 #hollytk

2015-10-17 23:10:15
@hiiragi_r_t_d

「……こんにちは」 男は電柱の上から軽々と降り立つと、わたしに死体を差し出す。 「君も食べるかね?」 「遠慮しておきます……」 「そうか。まあ、嗜好は人それぞれ。無理強いはせん。」 不健康なまでに青白い肌に映える真っ赤な唇の間から、鋭い牙がギラリと覗いた。 06 #hollytk

2015-10-17 23:12:10
@hiiragi_r_t_d

額の眼から見た男の姿は、黒。光を吸い込む黒い塊に言いようのない感覚を覚え、わたしは額の眼を閉じた。 「どうかしたかね?」 「いえ、なんでもないです。その……貴方はバケモノなのですか?」 わたしの不躾な質問に、男は目を細める。 07 #hollytk

2015-10-17 23:14:49
@hiiragi_r_t_d

「ふむ。マドモアゼルの言うバケモノは、この町にうようよいる黒い下衆どものことかな?一緒にしてもらっては困るね。我輩はそのような理性を失った下等種ではない」 「でも、人間を食べてましたよね?」 「理性を失っていなければ、人間を食べてはいけないのかね?」 08 #hollytk

2015-10-17 23:16:11
@hiiragi_r_t_d

「マドモアゼル、君はまだこの町に不慣れなようだね。いい事を教えてあげよう」 光沢のない波打つ黒髪を整えながら、男は決定的な一言を告げる。 「その身に妖異の力を宿した時点で、我輩も君も、人間とは決定的に違う。つまらんセンチメンタルは捨てたまえ。それは弱さだ」 09 #hollytk

2015-10-17 23:18:11
@hiiragi_r_t_d

「弱さ……」 男の言葉は、すっとわたしの胸に染み入るようだった。 そうか。わたしは弱いのか。だから迷って、悲しむのか。 「わたしは……強くなりたい」 「うむ。その意気だ、マドモアゼル」 男はわたしを見て、にっこりと笑った。 10 #hollytk

2015-10-17 23:20:11
@hiiragi_r_t_d

「ならばまず、力を付けると良いだろう。その眼だけでは下等種どもはおろか、人間にも勝てんぞ」 男は肩を竦めた後、口を開いてわたしに牙を見せる。鋭い牙はナイフのように鋭利で、簡単に命を奪えることを主張していた。 男は口を閉じ、わたしに語る。 「牙は実に便利だ」 11 #hollytk

2015-10-17 23:22:14
@hiiragi_r_t_d

「あの厄介な人間共を食ってしまえるし!君が欲しいなら分けて差し上げよう」 なるほど。そういう意図か。 「これからこの町を生きていくマドモアゼルに、我輩からの餞別だ。それとも、我輩に食べられるのは気が進まんかね?」 「……いえ。お願いします」 12 #hollytk

2015-10-17 23:24:23
@hiiragi_r_t_d

男は歩み寄り、ワルツを踊るようにわたしを軽く抱いた。冷たい体が、わたしを優しく包む。 「マドモアゼル、君の勇気に敬意を。一時の逢瀬であったが、なかなかに楽しかったよ」 「わたしも、貴方に大切な事を教わりました。ありがとうございます」 13 #hollytk

2015-10-17 23:26:22
@hiiragi_r_t_d

「お礼を言われる筋合いはない。我輩は君を食べるのだから」 そう言って男は、牙を覗かせる。その様はまるで…… 「吸血鬼のようだと思ったかね?」 「……はい」 「その呼び方は我輩の本意ではない。今度会うことがあれば、こう呼びたまえ」 男は耳元に唇を寄せて囁く。 14 #hollytk

2015-10-17 23:28:38
@hiiragi_r_t_d

「牙爵。牙爵だ」 「……分かりました。忘れません」 わたしはしっかりと、その名を心に刻みつける。 「よろしい。では始めよう」 牙爵は口を大きく開け、わたしの首筋にかぶりついた。 鋭利な牙が柔らかい皮膚を切り裂き、薄い筋肉を貫き、脈打つ動脈にそっと触れる。 15 #hollytk

2015-10-17 23:30:21
@hiiragi_r_t_d

「あっ……がっ」 首に異物が滑り込み、血管に触れられている感触にわたしは寒気を感じ、牙爵の体にしがみつく。 牙爵は優しくわたしを抱き締めながら、牙を更に食い込ませる。動脈を牙が引き裂き、勢いよく暖かいものが噴き出す。 16 #hollytk

2015-10-17 23:32:34
@hiiragi_r_t_d

「ああ、もったいない」 牙爵が溢れる血を一滴たりとも逃さぬよう、わたしの首により深く、牙を突き立てた。 「あ………あ…」 冷たい牙が頚椎の間にするりと滑り込み、わたしは底知れぬ冷たさと共に意識を失った。 17 #hollytk

2015-10-17 23:34:25
@hiiragi_r_t_d

──────── 【十一日目】 【死亡】 【魂-1/『牙(力+2)』を入手】 【魂14/力3/探索2】 【異形】三ツ目(力+1、探索+2)、牙(力+2) 18 #hollytk

2015-10-17 23:34:42
@hiiragi_r_t_d

[町]「牙は実に便利だ」男爵風の男は得意げに話す。「あの厄介な人間共を食ってしまえるし!君が欲しいなら分けて差し上げよう」《男の誘いに乗るなら、君は戮され異形を得る【魂-1/『牙(力+2)』入手】》 #黄昏町の怪物 shindanmaker.com/541547 #hollytk

2015-10-17 23:35:21