蛇と南瓜

ハロウィンイベントおよびCCC本編エンディングまでプレイしていないと、何がなんだかわからないと思います。
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里村邦彦 @SaTMRa

カボチャ城のバカバカしい尖塔から、浮かれる街を見下ろしていた。欧州、冬、高い空に吹く風は冷たく強い。カボチャのように大きく輝く、異様に明るい月の下、赤い髪が流れ、たなびいた。赤は、淀んだ血の色によく似ていた。空をさすのは螺子くれた、左右一対の竜の角。竜尾は塔に絡み身を支えている。

2015-10-23 23:49:47
里村邦彦 @SaTMRa

エリザベート・バートリ。悪名高き拷問城の主。黒のドレスは、彼女が槍兵であることを示していた。この塔には誰も寄り付かない。あの「ぐだ子」が城主、浮かれ倒したもうひとりのエリザベートを連れだしてからは。だから、エリザベートはここにいる。ひとりきりで。「こんなところにおりましたか」

2015-10-23 23:54:45
里村邦彦 @SaTMRa

「……大概執念深いわね蛇女。撒いたの何日前の話よ」「いえ、旦那様[マスター]が堂々と閨に篭ってしまわれたもので」「なっ」「さすがに脳の茹だった蜥蜴と同衾する趣味はないので、御暇させていただきました」「サイテー、つーか早速何やってんのよ仔鹿! うううウサギか何かなのあいつは!?」

2015-10-23 23:57:40
里村邦彦 @SaTMRa

「分かってはいましたが大概初ですねえ。貴女」「やかましい。そういうのはあの吸血鬼の"私"のほうの担当なのよ! アイドルなの! 私は! ていうかあのカボチャ、アイドルを何だと心得るかあーっ!」「いいんじゃないですか。プロデューサーとゴールインもお約束なのでは?」「あいつはADよ!」

2015-10-23 23:59:20
里村邦彦 @SaTMRa

「だいたいあんた、あいつが他のやつとその、そういうことしてて平気なわけ!?」「ああ堂々とされたら腹も立ちません。というか誘われたんですけど。清姫ですよ私は。いったいなんなんですか。正気ですかあの人は」「質問を質問で返すな蛇女ァっ!」「あらあら。ひどい腹の立てよう」「そりゃ……」

2015-10-24 00:05:49
里村邦彦 @SaTMRa

エリザベートは月を見た。「貴女の願ったことでしょう?」「……何のことかしら」「言わせる気ですか?」清姫は口元を隠した。「あれは、貴女ではないでしょう」「……油断も隙もない。いつから気付いてたのよ」「あのカボチャ蜥蜴のリサイタルからです」「ライブよ!」「変わらないでしょうに」

2015-10-24 00:08:47
里村邦彦 @SaTMRa

「変わるわよ。アイドルはライブをするものなの!」「偶像[アイドル]。言い得て妙とはこのことですね」「…………」リザベートは黙りこんだ。また、月を見た。カボチャのような、どこかの誰かの願いで創りだされた大きな月を。「あのカボチャ蜥蜴の中には、あなたの大切な人がおりませんでしたから」

2015-10-24 00:11:21
里村邦彦 @SaTMRa

「妖怪蛇女」「何しろ人に焦がれることについては玄人[プロ]ですので。……貴女はいったい、聖杯に何を願ったんです?」エリザベートは答えなかった。ただ、大きな月を、どこかの誰かの願った月を見ていた。歳相応の小娘が夢見たような、メルヘンチックな光景を見ていた。清姫は嘆息した。

2015-10-24 00:13:54
里村邦彦 @SaTMRa

叶わなかった願いがあった。「何も願ってなんかいないわ」既に叶った願いがあった。「綺麗な器なら使ってあげてもいいけど、叶えたい願いなんて、アタシにはないもの」牢獄城。終生を過ごしたあの城の、命を終えた牢獄の中で、ただひとつ。エリザベート・バートリの、願った夢はあったのだ。

2015-10-24 00:17:31
里村邦彦 @SaTMRa

"もし、自分が正常だったなら"。ごく当たり前の小娘のように、夢を見て、恋をして、もしかしたらどこかの誰かの、一番になることができたなら。それは、叶わぬ願いだった。もう、叶ってしまった願いだった。あの月で。英霊の座を書き換えるほど強大な力を持つ月の迷宮で。答えに辿り着いてしまった。

2015-10-24 00:20:05
里村邦彦 @SaTMRa

痛みに触れて。苦しみを知って。人の心にずけずけと踏み込んできた忌々しいアイツ。ただ一人、ただ一度、エリザベートが自分で選んだ主人[マスター]。その傍らには、分かち難いほど強く結びついた、特別な誰かがすでにいて。あまつさえ、エリザベートはその"特別"を取り戻すために力を貸したのだ。

2015-10-24 00:23:09
里村邦彦 @SaTMRa

痛みを知った。苦しみを知った。だから聖杯にすがるまでもなく、願いは叶えられてしまった。それでもあのとき。オルレアンの、"理想の偶像を創りだす"ことに特化し歪んだ聖杯の欠片は、確かに彼女の願いを写しだした。そうして、この浮かれた街が生まれたのだ。万霊節の、一夜の夢が。

2015-10-24 00:26:53
里村邦彦 @SaTMRa

清姫は嘆息した。「そうですか。嘘つきは焼き殺すところですけれども」「本当だものね」「腹立たしいですがそのようです」「ああ。でもね、気をつけなさい蛇女。あれは最高に情熱的なアイドルだから」エリザベートは見下ろした。浮かれた街と清姫を。「仔鹿が首ったけになっちゃっても知らないわよ?」

2015-10-24 00:31:14