【お玉さんの読書マラソン】「名探偵図鑑完読作戦」第8部
さて、名探偵図鑑完読作戦Special 《僕らの好きな人形佐七》であります。本日は、 その82「銀の簪」 をお送りします♫ いよいよ戦後佐七に突入なのであります( ̄^ ̄)ゞ
2015-10-24 01:39:55「銀の簪」本題に入る前に、事前知識として、1946年(昭和21年)の横溝正史の主だった仕事状況の確認。 人形佐七短編 11本 『本陣殺人事件』(「宝石」連載) 『蝶々殺人事件』(「ロック」連載) これらとは別にノンシリーズの「探偵小説」短編(「靨」とか)も何本か発表されてます
2015-10-24 01:42:23終戦直後の横溝正史の状況に関しては、エッセイや回顧録等々がかなり残っており「今後はなるたけ本格探偵小説一本のみに創作活動を絞ろうという決意したこと」「終戦後初めて書き上げた作品が「神楽太夫」という探偵小説だったこと」「城昌幸から長編執筆の手紙を受け取ったこと」あたりは有名なお話
2015-10-24 01:44:23というか、ここ数ヶ月ズーッと人形佐七モノ→横溝正史の捕物帳を読んでいたので「神楽太夫」をあらためて再読し、あまりのテンポの違いにビックリしている次第。 佐七モノは明朗快活にて軽妙。作品によって陰惨なモノもあるし、複雑なトリックを内包しているモノもあるわけだが、基本スイスイ読める
2015-10-24 01:45:11一転、戦時における規制、そして捕物帳作家としての地力の高さが故、書く機会が得られず、ようやく執筆が可能となった本格探偵小説(今回は「靨」も読んでみたよ♫)に関しては、雰囲気作りの巧みさ、淡々とした落ち着いた筋運び、しかし行間から滲み出る探偵小説への情熱に心焼かれた
2015-10-24 01:46:25「神楽太夫」に関しては、前回紹介の「狸の長兵衛」(おそらく横溝正史が大戦中に執筆した最後の作品)にて試みて見事に撃沈した「探偵小説における顔の無い死体のトリック構造を逆手に取った作品」の成功例♫ 山中での男二人の会話、あのオチの付け方は、捕物帳では成立が難しい類のモノだ。好き
2015-10-24 01:47:15そう、横溝正史の本格探偵小説の作品群をある程度読んだ後に人形佐七を代表とする捕物帳の作品群を読むと、緩急をキッチリ作り上げているのにテンポが早すぎる物語のスピード、と、あまりにも個性が際立ちすぎている登場人物像とその生き生きとした掛け合いに驚くと思うんだよね
2015-10-24 01:48:43反面、横溝正史の捕物帳には、事件が見せる世界観に瘴気や怨念や血の葛藤や愛憎劇などといった、僕らが金田一耕助の活躍する作品群で色濃く魅せられた諸要素が、ほとんど内包されていない。作品の精度より作品の速度を採っているので、事件に関わる情報の扱い方も粗雑な面もある。
2015-10-24 01:49:40本格探偵小説と捕物帳の両者、毛色の違った形で横溝正史は器用に書分けが出来ていたわけで、私個人としてはそれぞれに魅力を感じ、優劣をつける必要性って全く無いと思ったりするんだけど、多くの読者さんたちが現代名探偵モノと(捕物帳=)時代モノに境界線を引いちゃっているように思えるんよね
2015-10-24 01:49:59そして問題なのが、原作者自身がその性質の違う物語たちに境と壁を作っちゃっている、ということなのよね。 今現在でも割合簡単に読める横溝正史のエッセイ(角川文庫による大ブームの頃編まれたり記されたモノが大半だ)で伺える作者の捕物帳作品群との距離の取り方は、ちょっと異常である。
2015-10-24 01:51:19今回の人形佐七全短編を読む & 感想を書くゾと決意するに至ったのは、やはり人形佐七がスーパー面白かったから♫ トリックのためのトリックという本格ファンが毛嫌いする冥府魔道に陥ってしまった野村胡堂の「銭形平次」より数段面白いのは絶対確実! (原作の銭形平次は銭なんて投げません)
2015-10-24 01:51:36だから『横溝正史読本』での、 「あれネ、『人形佐七』は引導渡すつもりで、戦後書かんつもりだったの。そしたら戦争中に渡してかったやつが出たのよ。(中略)。それ『佐七』出てしまったでしょう。じゃ、仕方ない、また書こうという気になったわけですね」は読んでいてすごく悲しかったんよね
2015-10-24 01:51:56横溝正史、細かいこと(原稿料とか)や人が関わりあったこと等々はかなり正確に覚えているのに、捕物帳を書いていたという事柄への距離の置き方や自身のスタンスが、こういうお話をポロリとこぼしちゃう、悲しい事態になっちゃったんじゃないかなぁ?
2015-10-24 01:53:24私としては、出版芸術社刊行『奇傑左一平』の浜田知明解説にある、 戦中に送り戦後掲載された件の原稿は朝顔金太モノ(「猛宗竹」)ということと 「講談雑誌」での連載再開時「佐七やお粂のよろこびと同時に作者のよろこびでもあった」と感慨にふけった昭和25年発表のエッセイを信じたいのよね
2015-10-24 01:56:01戦後一作目の「銀の簪」本編を読めば、この作品が戦中に書かれたというのは完全に記憶違いだということは分かるわけで……。 よしんば、戦中にいろいろ予測してコレを書けたとしても「北方日本」や杉山書店ではなく、編集が佐七物語の掲載に及び腰だった雑誌に何故送ったか? は、はなはだ疑問
2015-10-24 01:56:22「銀の簪」あらすじ 佐七の恋女房お粂が血染めの簪を拾ってきた。街中が男とぶつかったとき手にしたものである。しばらく後、首の後ろを簪で突かれた娘さんの死体が! 娘さんの着物から男からの待ち合わせ時刻が記された手紙が発見された
2015-10-24 01:56:32「銀の簪」 事件自体は当たり障りのないあまりトリッキィさが見られない内容のモノなわけだが(けど、犯人の利き手当てのパートはステキ♫)、内容はとてもショッキング。 登場するレギュラー陣は佐七とお粂と海坊主の茂平次のみで、辰と豆六が出てこないんよねΣ(゚д゚lll)
2015-10-24 01:57:05「銀の簪」 三年前、幕府内にて大きな変革があり、佐七の上司・神崎甚五郎が失脚してしまう。そのため、三国一の捕物上手とうたわれた人形佐七は捕縄と十手をお上に返上し、三年間の放浪の旅をしていた、なんてことがサラリと書かれているわけなのよね。 辰も豆六も故郷に帰っちゃってるの
2015-10-24 01:58:08「銀の簪」 杉山書店・八紘社刊行の『人形佐七捕物百話』三冊組の刊行が1942年なので、樺太での「北方日本」の読者以外は、約三年ぶりの人形佐七の新作という符合があるのよね。 そして作中では、三年を経て幕府の大改悪も元に戻り、佐七は江戸に帰ってきたとも書かれているわけなのよ。
2015-10-24 01:59:07「銀の簪」 冒頭は春模様。恋女房のお粂の耳掻きに惚けている人形佐七。変な形の簪が江戸では大流行している。 佐七短編は単行本化の際、加筆が加えられることが多いのだが、この作品の明るく平和な雰囲気は、おそらく原形の時点から存在していたものだろう。やはり戦中の作品とは考え難い
2015-10-24 01:59:29「銀の簪」 戦中書いていた原稿に 「氷雪を溶かす春風とともに、どうやら、ふたたび、佐七の天下がきそうな情勢、されば、むかしなじみの読者諸君よ。しばらくぶりに繰りひろげられる人形佐七の手柄ばなしに、倍旧のご声援を賜らんことを」 なんて、絶対書けるはずないんだもんネ。
2015-10-24 01:59:55まぁ、人形佐七に対して悲しい記述は見られるけど(というか佐七についての言及はそのページぐらいしかないのよね) 『横溝正史読本』はかなり読み応えがある本だと思うので、未読の方にはマストな一冊だと思いますよ♫
2015-10-24 02:01:16でもって「作者自身の本格探偵小説への愛がために抱いていたと思われる捕物帳というジャンルへの距離感と境界線」ってのは自分の中でこれからの人形佐七レビューにおける重要キーワードなので、ゼヒ、記憶の片隅にでも
2015-10-24 02:04:17というわけで、全然作品の感想じゃなく全然まとまってなくしっちゃかめっちゃかだったけど、本日はこれまでで、ではでは〜〜( ´ ▽ ` )ノ
2015-10-24 02:04:35