bistro cachette～ビストロ カシェット～ 02（前編）

ひな＠復旧中 @newgibbousmoon

bistro cachette～ビストロ カシェット02 夏の終わり、その小さな店には従業員が一人増えた。アルバイトではない正規の従業員だ。 「東堂さん、今日の賄い、羊作ってくださいよ～。俺、東堂さんの羊が食べたいです」 「おい」 「えー、だって新鮮なラム入ったんでしょう？」

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@newgibbousmoon 「バカもん！賄いの為ではない！！」 「えーーーーーっ」 真波がこの小さな店で働くことになって、荒北は厨房の隣にあった小さな部屋を潰して真波の作業スペースを作ってくれた。 オーブンは大きなものを二台と中くらいのものを一台。 冷蔵庫も東堂とは別だ。

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@newgibbousmoon （すっごい先行投資だよね） そこまで買われているのはうれしいけれど、プレッシャーでもある。 「荒北さーん、だめですかー？」 「何がだよ」 「今日の賄い、羊が食べたいです」 東堂さんのラムチョップの香草焼きとか絶品じゃないですか！と真波は訴える。

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@newgibbousmoon 「あー、作ってやれよ。……うちの味を覚えなきゃいけねえし、しばらく真波のリクエストでいいぜ、賄い」 「やったー。荒北さん、大好きー」 「荒北っ！おまえは真波に甘すぎる！！ベタ甘だ！！！こんなに甘やかしては真波のためにならん！！！」

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@newgibbousmoon 「いいじゃねえか。それで別に頭に乗るわけじゃねえんだし」 「よくないっ！」 「ったく、つまらねえ嫉妬してるんじゃねえよ。そもそも、俺が一番甘やかしてるのはおまえだっての」 「へ？」 「じゃなきゃ、おなじベッドで何か寝ねえよ。バァカ」

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@newgibbousmoon 「わー、東堂さん、まっかー！」 「からかうな！真波っ！！」 あはははは、とあっけらかんとした笑い声が厨房に響く。 「……お客様に出す前にラムの味をみたいってのもあるんだけどな」 ラムは仕入先変えたからなぁと荒北は思案深げな表情をする。

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@newgibbousmoon 「わかった。今日の賄いは羊にする」 真波にヘッドロックをかけながら、東堂はうなづいた。 定番の香草焼きももちろんだが、作りたいものは他にもある。 特に東堂が修行していた店のスペシャリテの一つ『岩塩の包み焼き』はいつかメニューに載せたい一品だ。

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@newgibbousmoon もちろんラムは骨付きのロースの塊で、味付けは塩とハーブだ。 塩で蒸し焼きにし、間接的に熱を加えることで、肉はより柔らかくしっとりと仕上がるシンプルな一品だ。 だが、シンプルであるがゆえに、料理人の腕が試されるメニューでもある。

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@newgibbousmoon だが、賄いであるからしてそれほど手の込んだ事はできない。 「……東堂、どうした？」 「あー、いや、岩塩の包み焼きを試作しようかと思ったんだが、賄いにするには時間がかかると思ってな」 「……コンフィは？」 荒北がふと思いついた表情で提案してくる。

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@newgibbousmoon 「ああ、なるほど……」 「コンフィなら保存もきくし、メニューにしたときにおまえが楽だろ」 「ああ。ソースはバルサミコと和風、どっちがいい？」 「和風。バルサミコソースは定番だから、どこの店でも食えるし」 「わかった」 『和』の味付けは東堂の得意だ

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@newgibbousmoon 幼い頃から実家の板場で仕込まれてきた。 東堂の料理は肉よりも魚のほうが評価が高いのは、たぶん、そういうところもあるのだろう。 一応、フレンチの看板を掲げてはいるものの、ビストロの気楽さだ。がちがちにこりかたまっているわけではない。

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@newgibbousmoon 「和風ソースを店に出したりするんですか？」 「旨くてうちのカラーとあってて、採算ベースにのるなら何だってだすぞ」 「あ、じゃあ、デセールも何作ってもいいんだ？」 「もちろん」 「あんこ使ったりしても？」 「ああ」 「へえー」

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@newgibbousmoon これは面白い、と真波は目を輝かせる。 「じゃあ、ワインもフランスワイン以外もあるんですか？」 「ああ。世界各国取り揃えてるし、日本酒だってあるぞ」 「え、そうなんですか？」 「おう。魚介に冷酒の組み合わせが好きな常連さんとかいるしな」

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@newgibbousmoon 「すごく自由なんですね」 「ま、それが自分たちでやってる店のいいところだな」 「こいつは、旨ければいいじゃねえか、しか言わないんだ」 東堂が肩をすくめる。 「えー、でもそれが一番じゃないですか」 千の言葉を尽くすより、一口食べさせたほうが早いです

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@newgibbousmoon 「まあ、そうなんだがな」 「……あ、今日のバケットは発酵時間かえたんで、また感想お願いします」 「おう」 「わかった」 真波が店でバケットを焼くようになってまださほどたっていないが、すでにバケットだけでも販売して欲しいという声が多く聞かれる。

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@newgibbousmoon 真波の作るバケットは、普通のバケットより少しもっちりとした弾力が強い。 真波いわく、日本人は少しもちっとした食感がウケる！ということだが、食感もさることながら、噛むほどに甘みを感じるのも人気となっている理由のひとつだろう。

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@newgibbousmoon 「んじゃ、看板出してくるぞ」 「ああ」 「いつでもOKです」 荒北がいつものチョーク看板を手に出てゆき、ビストロ カシェットのいつもの一日がはじまった。

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@newgibbousmoon 第二話　ラムのコンフィ和風ソース（前編）　終了 後編はまたそのうち。