「ザ・フォート・イン・ザ・モーニング・ミスト」

朝靄の中、野蛮なハンターと怒りに燃える騎士が激突する!
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Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

(尚今回は拙作「ナイト・オブ・アイアン・アンド・ブラッド」と瑠奈花氏作「ナイト・オブ・ベネヴォランス」を基にしております)

2015-11-02 21:02:09
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「ナイト・オブ・アイアン・アンド・ブラッド」togetter.com/li/850593 「ナイト・オブ・ベネヴォランス」togetter.com/li/881379

2015-11-02 21:02:20
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

夜、宿毛湾泊地。如何な夏の夜とは言え、太陽が沈めば幾分かましなものだ。金髪の美女、ビスマルクはそう思いながら自身にあてがわれた部屋から外の夜景を見た。夜の帳が降りた黒く静かな海を。「そろそろ帰国ね」ビスマルクは頭の中で自身のスケジュールを整理する。その時、ドアがノックされた。 1

2015-11-02 21:07:31
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「開いてるわ」「失礼します」規則正しい返答がドアの向こうから返る。扉を開け、現れたるはビスマルクと同じ金髪碧眼、髪を二つのおさげに纏めた少女。それは己の愛弟子、プリンツ・オイゲンであった。「あら、プリンツ」「御加減はいかがですか、ビスマルク姉様」「特に問題は無いわ」 2

2015-11-02 21:13:36
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

ビスマルクは受け答えしながら、客室に備え付けられていた上質なワインを一本取り出した。「飲む?」「是非!」プリンツは目を輝かせた。彼女に犬めいた尻尾があれば、引き千切れんばかりに左右にブンブンと振り回されていることだろう。ビスマルクは苦笑し、ワイングラスを二つ取り出した。 3

2015-11-02 21:16:24
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

応接用のテーブルにグラスを置き、ビスマルクは血のようなワインを注ぐ。直ぐに葡萄の芳醇な香りが二人の鼻腔を満たす。二人はグラスを掲げた。「故国に」「故国に」二人は軽くグラスをかち合わせ、ワインを飲んだ。「あら、美味しい」「本当ですね」二人は暫く、和やかに談笑を交わす。 4

2015-11-02 21:21:33
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

ワイン瓶を一本開け、2本目を開けようとした時、プリンツが改まって切り出した。「あの、ビスマルク姉様」「何かしら?」ビスマルクは僅かに赤みが差した顔でプリンツを見る。見るものが見れば煽情的な表情であろう。事実プリンツにとってもそうであったが、どうにか堪えた。「大事なお話が」 5

2015-11-02 21:25:46
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「話…ああ、そうだ!プリンツ聞いてちょうだい!」だが、若干酔いの回ったビスマルクは勢い良く話し出した。彼女が今まさに告白遷都したことを。「父の事が、分かったのよ!」 6

2015-11-02 21:27:47
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「ザ・フォート・イン・ザ・モーニング・ミスト」

2015-11-02 21:28:29
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

リン…リン…リン…早朝、鹿屋基地埠頭。薄く朝靄が漂うこの場所で、空を裂く鈴の音めいた音が一つ。登り行く太陽を背に、上半身裸の褐色肌の大男が美しい青色の斧で素振りをしていた。斧の銘はヘリオスクラッシャー。古の記憶を刃へと昇華させた美しい武器である。 7

2015-11-02 21:32:56
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

リン…リン…リン…素振りをする度に、男の体から汗が噴き出す。やがて、男は一旦斧の切先を地に向けた。「スゥーッ…ハァーッ…」目を閉じ、短い呼吸で全身を調える。そして目を開いた。「イヤーッ!」リン!リン!リン!斧が垂直に斬り上げられ、そして嵐めいて左右に振り回される! 8

2015-11-02 21:41:56
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

空気が暴力的に斬り裂かれ、鈴の音めいた斧の音が死と共に掻き鳴らされる!やがて、男は斧を右腰に構え、腰を捻りながら横回転!「イイィヤアァアーッ!」SRAAAASH!斧は男を軸に横薙ぎ1回転!男は己と共に回転し、運動エネルギーを全身で受け止め、ザンシンした。「ふぅ」息を吐く。 9

2015-11-02 21:46:26
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「ほぉ」「凄い」その様を傍で見ていた若葉と春雨が感嘆の声を漏らす。「実際に見るのは初めてだが」「本当に振えるんですね、アレ…」二人の視線は斧に向けられている。ヘリオスクラッシャー。その重量は優に二百数十キロ。戦艦艤装クラスの重さだ。少なくとも駆逐艦娘で扱える重量ではない。 10

2015-11-02 21:52:42
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

それを持ち上げ、あまつさえ自在に振り回してのける。恐るべきはハンター筋力。そして、そのような代物を持ち出さねば勝機を見出せぬモンスターとは。若葉たちには想像もできぬことであった。「お疲れ様です」「おう」吹雪がリカルドにタオルと飲料水を手渡す。リカルドは汗を拭き、水を呷った。 11

2015-11-02 21:59:24
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

タオルを首に掛け、リカルドは若葉達を見た。「さぁて、お前たちもやるか?」それは稽古への誘いだ。彼は日頃の鍛錬を怠らず、それを部下にもまた求める。結果として、彼の麾下は基礎訓練を怠らぬカラテ強者が集まっていた。「はい!」春雨が威勢よく立ち上がる。「よし」若葉もだ。 12

2015-11-02 22:04:07
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

だが、若葉は何かを視界に捉え、立ち止まった。彼女は海を見た。「どうした」リカルドがその様子に気付き、同じく海を見る。視界の先には、白い波濤が唸りを上げて埠頭に近づく様が見えた。「何だ」リカルドは訝しみ、もっとよく見ようとした。「艦娘か?この時間に誰か戻ってくる予定は…」 13

2015-11-02 22:10:57
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

リカルド達がその正体について思いを巡らさんとした、その時!「イヤーッ!」波濤を砕き、黒い何かがリカルド目掛け躍り掛かる!その手には剣と盾!「司令官!?」「イヤーッ!」春雨の悲鳴と共に、リカルドはブリッジ回避!1秒前までリカルドの胴体があった場所を剣が薙ぎ払う! 14

2015-11-02 22:14:07
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「何だ一体!?イヤーッ!」リカルドはアンブッシュ者に対し、ブリッジ姿勢からの変則的メイアルーア・ジ・コンパッソを繰り出す!「イヤーッ!」「イヤーッ!」レガース(脚甲)に覆われた蹴りを盾で受け止め、アンブッシュ者はリカルド達の後方に着地した。リカルドはアンブッシュ者を見た。 15

2015-11-02 22:17:28
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

アンブッシュ者の正体を認め、リカルドは眉を顰めた。「お前さん」「ドーモ」アンブッシュ者はアイサツをした。「アドミラル・ヒッパー級3番艦、プリンツ・オイゲンです」「……ドーモ、プリンツ・オイゲン=サン。リカルド・ベレンゲルです」リカルドはアイサツを返し、後方へ手を翳した。 16

2015-11-02 22:22:11
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

それは麾下への牽制だ。3人のリカルド麾下の艦娘達は、各々のカラテを構え、それでも尚困惑していたからだ。「まぁ、待て」リカルドは言葉でも彼女らを制する。そしてプリンツを見た。「瑠奈花=サンの所のだな。何の用だ」プリンツは答えず、右手の白手袋を口で外し、リカルドへと投げつけた。 17

2015-11-02 22:26:23
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

白手袋がリカルドの足元に落ちる。後ろの3人が騒めく。リカルドはその行為の意味を知ってはいた。だが、意図が読めぬ。「決闘です、野蛮人」プリンツは憤怒の表情で剣を構えた。右手に盾。左手に剣。ビスマルクと同じ構えだ。「私からビスマルク姉様を奪おうとする蛮行、万死に値します!」 18

2015-11-02 22:31:54
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「は?アッ?…はい?」リカルドはプリンツの口上を聞き、困惑を深めた。ビスマルク。一昨日偶然拳と剣を交えることになったドイツの女傑だ。そして、真に偉大なるハンター「2代目ココットの英雄」の娘。リカルドは彼女に戦士として敬意を払いこそすれ、下卑た視線を向けたことは断じてない。 19

2015-11-02 22:35:08
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

意図が全く持って読めぬ。だが、こうしてビスマルクの直弟子たるプリンツが憤怒の表情でもってリカルドに決闘を申し込んだ。何か知らぬうちに彼女に粗相を働いてしまったのだろうか?リカルドは考える。しかし答えは出ない。「ちょっと待て」リカルドはプリンツを制し、言った。「鎧を着てくる」 20

2015-11-02 22:37:14