ケンペイ天狗「ロスト・カラード・ズイウン」

◆毎週末更新◆ 深海棲艦との果てなき戦争に人倫が疲弊したマッポーの近未来。 ブラック提督達が支配する暗黒都市ネオヨコスカを舞台に、大本営に全てを奪われた狂気の復讐者が駆ける! 続きを読む
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アナ・イゴール @KNPITNG

ケンペイ天狗物理書籍『リヴァイブ・フロム・ディープ・ブルー』より、 【ロスト・カラード・ズイウン】

2016-08-05 20:00:29
アナ・イゴール @KNPITNG

(これまでのあらすじ)5人のグンレイ提督からなるケンペイ天狗追討部隊「再殺部隊」は、ケンペイのトウゴ・ターンにより4人までもが殺された。しかし残ったコダマ大佐と秘書艦日向は、犠牲と引き換えにケンペイの位置情報を捉えることに成功する。2人は死神のアジトを暴くべく、追跡を開始した。

2016-08-05 20:03:57
アナ・イゴール @KNPITNG

ビル陰で冷たい重金属酸性雨を全身に浴びながら、日向はアイアンボトムサウンドでの任務を思い出していた。 01

2016-08-05 20:06:05
アナ・イゴール @KNPITNG

戦史に刻まれるあの壮絶惨酷な戦場に参加した時、日向とその提督コダマは共に着任半年にも満たぬ新米であった。 02

2016-08-05 20:08:34
アナ・イゴール @KNPITNG

あの時、コダマの下には日向以外にも沢山の艦娘がいた。だが結局生き残ったのは秘書艦である日向ただ一人。……戦果を挙げられぬ者から死んでいくあのジゴクで生き残るため、コダマは捨て艦に手を染めたのだ。 03

2016-08-05 20:10:45
アナ・イゴール @KNPITNG

アイアンボトムサウンドの夜以来、捨て艦は誰でも行っているごく当然の行為。コダマはそう公言しているし、日向も提督の命令に従うことが艦娘のあり方だと思っている。捨て艦にされ死んだ艦娘に、姉の伊勢が含まれている事実を踏まえた上でも。 04

2016-08-05 20:13:25
アナ・イゴール @KNPITNG

しかし。日向は瞼の裏に焼き付いた先の戦闘を想起する。ケンペイ天狗、あの憎悪に狂った赤い目の死神は手練の提督を次々と殺し、小型カメラ越しに監視していたコダマと日向に言い放ったのだ。「捨て艦は許さぬ」そして、「ブラック提督、殺すべし」 05

2016-08-05 20:16:30
アナ・イゴール @KNPITNG

死神はコダマと日向の世界を揺るがした。「今更非道でない提督などいるものか。深海共の出現で狂ったこの世界に」コダマは吐き捨てる。「日向、奴を追い詰めるぞ」「……了解。索敵を開始する」日向は脳裏をよぎった姉の笑顔をかき消し無表情を作ると、カタパルトから瑞雲を飛び立たせた。 06

2016-08-05 20:19:34
アナ・イゴール @KNPITNG

……。「提督、標的を捉えた」膝立ち姿勢のまま索敵を続けていた日向は、瑞雲と視界共有した右目を五色に揺らめかせた。航空索敵、通称ズイウンアイ。「よくやった。尾行を開始する」「了解」日向は無表情を崩さずズイウン視界でケンペイ天狗の後ろ姿を追った。「奴の位置は――」 07

2016-08-05 20:22:36
アナ・イゴール @KNPITNG

◆    ◆    ◆    08

2016-08-05 20:25:35
アナ・イゴール @KNPITNG

――ネオヨコスカ、ヤスクニ・ヒロイストリートは、深夜でも色とりどりのネオン看板が輝き、残業帰りの疲れ果てたサラリマンとそれを狙うヨタモノめいた客引きで溢れている。 09

2016-08-05 20:28:22
アナ・イゴール @KNPITNG

「歩行者がヘブン」と書かれた標識の前でコダマと日向は黒塗りの軍用車から降り、遠く前方を睨んだ。ごった返す人混みの中をテング・オメーンの男はよどみなく通り抜けていく。空からのズイウン視界があろうとも、夜、雨、人混みの中という悪条件では肉眼による追跡が不可欠だ。 10

2016-08-05 20:31:17
アナ・イゴール @KNPITNG

「おい」コダマは手近な客引き達に声をかける。「アン?……アイエッ!」面倒そうに振り返った客引き達はコダマの纏う第二種軍装を見るや直立不動の姿勢をとった。提督、ネオヨコスカの絶対的支配者層!「な、なんでしょう?」「今から尾行を行う。私を隠せ」「アイエッ!」 11

2016-08-05 20:34:34
アナ・イゴール @KNPITNG

「でも仕事がアバッ」口答えしようとした真面目な客引きの首がゴロリと転げ落ちた。日向のカタナがチンと鯉口を鳴らす。無慈悲なイアイド。「アイエッ……!」息を飲む客引き達にコダマはもう一度言った。「今から尾行を行う、私を隠せ」 12

2016-08-05 20:37:33
アナ・イゴール @KNPITNG

1分後。1ダースの客引きによる輪形陣に囲まれながら、コダマと日向はケンペイ天狗の背中を追っていた。周囲から見ればありふれた客引きの集団にしか見えないだろう。完璧な偽装だ。 13

2016-08-05 20:40:32
アナ・イゴール @KNPITNG

20軒以上の居酒屋が入ったビル、非合法ローンを二階から上に連ねたパチンコ屋、湯気を立てるバイオ海老ヌードルの屋台、道端にうずくまる泥酔サラリマン……退廃した都市の中をケンペイ天狗は真っ直ぐに歩いて行く。 14

2016-08-05 20:43:40
アナ・イゴール @KNPITNG

「おネコ」「猥褻な」「サンマ」ひしめく巨大ネオンの下、重金属酸性雨の水溜りが七色に明滅する。そしてケンペイ天狗は一際大きな水溜りに足を踏み入れた。しかしその足取りは変わらず、水飛沫一つ立たない。「水面を歩いた?奴は艦娘……いや深海棲艦か!」コダマはIRCで本部へ情報を送る。 15

2016-08-05 20:46:33
アナ・イゴール @KNPITNG

……やがてケンペイ天狗はメインストリートを外れスラム街へと入った。道幅は狭くなり、トタン屋根に防重金属酸性雨塗装を施しただけの粗末な小屋や廃工場が立ち並ぶ。色褪せた壁には「アニメカ」「ニキケッテイ」「ゲキジョウバン」など、ブッダも顔を背けるような悲劇的単語のペイント。 16

2016-08-05 20:49:31
アナ・イゴール @KNPITNG

人もまばらになったことに気づいたコダマと日向は客引きを帰らせ、匍匐前進の姿勢をとった。航空甲板をスケボーめいて身体の下に敷き、滑らせることで隠密性と速度を両立する。「急ぐなら石橋を走って渡れ」。古の名将にしてギャンブラー、そして哲学者であるヤマモト・ゴジュロクのコトワザだ。 17

2016-08-05 20:52:37
アナ・イゴール @KNPITNG

巨大な廃倉庫の前をケンペイ天狗が通り過ぎる。上空の瑞雲が消耗から僅かにブレた。「ち、雨が強いか」日向は一旦視界共有を切り、次の瑞雲を発艦させた。当然その隙はコダマが埋める。まばたき一つせず匍匐姿勢でケンペイ天狗を注視! 18

2016-08-05 20:55:48
アナ・イゴール @KNPITNG

その時、不意に雷が夜の闇を染め、コダマの視界を一瞬モノクロに変えた。コダマは目を細める。その瞬間のことだった。ケンペイ天狗は視界から忽然と消え失せていた。 19

2016-08-05 20:58:34
アナ・イゴール @KNPITNG

「バカな!」尾行に気づかれた?そんなはずはない、目の前の廃倉庫に入っただけだ!「つまり此処こそ死神のアジトということか!日向!」 20

2016-08-05 21:01:31
アナ・イゴール @KNPITNG

「任せろ」日向が匍匐状態のまま飛行甲板スケボーを滑らせ廃倉庫へと向かう!コダマはIRCで周囲の友軍に位置情報を発信した。囲んで棒で叩く、有史以来人類はこれ以上の戦術を知らない。 21

2016-08-05 21:04:34
アナ・イゴール @KNPITNG

日向は廃倉庫ににじり寄った。開いたままのドアから見える室内は暗く、光源は窓から差し込むネオン光のみ。だが日向の艦娘聴力は広い倉庫の奥から呼吸音を一つ捉えている。即ちケンペイ天狗! 22

2016-08-05 21:07:35