#オーク転生 (Part.6)

切腹の人. @HarakirimanEX

と言う訳で。

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#オーク転生 カエル執事「旦那様、旦那様」 オーク「この樫の枝。太いし虫食いの痕もない、葉も旺盛だ。すまんが、この枝の付け根に魔法をかけて【根を生やして】くれんか」 カエル執事「は、はあ」 オーク「おお、生えた生えた。魔法は凄いな便利だなあ」 カエル執事（勝手に生えてますがな）

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#オーク転生 オーク「それじゃあ、枝の部分を丁寧に取り外して」 カエル執事「その、森の外へ植えるのですか？」 オーク「おお。これだけ見事な枝なら、ものの数年で立派な樫の木に成る」 カエル執事「いや、旦那様の手の中でめちゃ元気よく育ってます。なんですか、この森は！」

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#オーク転生 オーク「ナニって、白樫の森では」 カエル執事「ええ、そうでありましょう。街より徒歩で半日。平和な時代は樵が薪炭を得るために小屋を建てて住んでいた、落葉広葉樹をメインとした混交林！　下草を丁寧に刈り、間伐も済ませましたとも！」 オーク「魔法は凄いものだなあ」

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#オーク転生 カエル執事「魔法なんて微塵も使っておりませんよ！　旦那様が枝を叩けば付け根からぶっとい根が生えて、森の外の穴に植えたらひとりでに大樹に育つ！　森の妖精族とてこんな事はできません！」 オーク「……つまり？」 カエル執事「旦那様、元の世界で魔法使いだったりしますか？」

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#オーク転生 オーク「魔法、使いたかったな」 カエル執事「やはりランダム召喚とはいえ勇者の身代わりになる程度の力量はあったのですな！」 オーク「ないない」 カエル執事「いやあ、御謙遜を」 オーク「……まあ、生贄には向く体質だったかもしれない。童貞だし」

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#オーク転生 カエル執事「……失礼ですが、何か特異な宗教団体に所属を？」 オーク「出会いがなかった。そして、これからも無いだろう」 カエル執事「オークですからねえ」 オーク「童貞だと魔法使えるのか？」 カエル執事「成人したオークで童貞と言うのは稀少かもしれませんな」

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#オーク転生 オーク「……」 カエル執事「旦那様、運が良ければ群れからはぐれたオークの雌とツガイになるチャンスも」 オーク「オークで欲情できるのかね、自分は」 カエル執事「元が人間ですからなあ」 オーク「まあ、考えるだけ無駄である」 カエル執事「枯れてますなあ旦那様」

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#オーク転生 オーク「今は上手な木炭作りが大事だ」 カエル執事「炭焼き窯も五倍に増えましたな」 オーク「その分、植樹も必要なんだよ」 カエル執事「我々の世界は、植樹という概念はあまり発展してませんな。森と言うのはモンスターの縄張りでもありますから」 オーク「モンスター、か」

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#オーク転生 カエル執事「狂暴な野生動物も、ヒトにとってはモンスターなのですよ。意思疎通の困難な亜人間も」 オーク「魔王を倒した後は、人間同士の戦いが始まるのかね」 カエル執事「おそらくは。王女に転生したクソ女神が主導権を握り、勇者の名をもって世界に覇を唱えるでしょうね」

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#オーク転生 オーク「虚しいものだね」 カエル執事「そう言っていただけるだけで、先の魔王としては報われました次第」 オーク「……街の石垣、補修を手伝おう」 カエル執事「森の出口まで石畳を敷いておくのも良いかもしれませんな」 オーク「それくらいなら、今日からでも始められる」

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#オーク転生 衛兵「うん、戦争が起きそうだなあって話は色々と聞いている」 カエル執事「やはり」 衛兵「例の女神の教団な。武装解除を巡って各地で衝突を起こしているって噂だ」 オーク「この国の王族、王女以外に生存者は」 衛兵「現王を長年補佐してて民の信頼も篤い王子達がいたが」

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#オーク転生 カエル執事「勇者と結ばれた王女が、王位の簒奪ですな？」 衛兵「女神の教団によれば、御神託だとか。国王も王子達も行方不明だとか、暗殺されたとか、騎士団が離反したなんて噂も」 オーク「それはシャレにならないのでは」 衛兵「おう。だから垣根の補修も急務なんだ」

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#オーク転生 オーク「壁の補修、手伝えることは」 衛兵「頼みたい仕事は山ほどある。木炭も薪も、あんたらのお蔭で十分溜まった。アク抜きの終わった樫の実があるんだ、こいつと蕎麦で練った煎餅を宿の女将が焼いているんだよ」 カエル執事「タンポポの根を乾燥させた茶を用意しましょうか」

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#オーク転生 衛兵「タンポポの、根。ありゃあ葉を食うもんじゃないのか」 オーク「炒って煎じたものは、なかなか良いものですよ」 衛兵「これで酒があれば最高なんだが」 カエル執事「ないのですか」 衛兵「今年の分のビールは品切れだよ。カビたパンひとつ残っちゃいないから街も蕎麦食いだ」

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#オーク転生 オーク「次の収穫までは」 衛兵「運が良ければ、あと二か月。女神の教団が色々と嫌がらせをしているから、豊作は望めないだろうがね」 オーク「？」 カエル執事「あのクソ女神は豊穣を司っておりましてな、その教団は国の農業支援や種籾販売なども手掛けておるのです」

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#オーク転生 衛兵「上等な酒の醸造元でもある。巫女姫の口噛み酒なんて王侯貴族でも手に入らないような代物があるくらいで」 オーク「巫女姫の、口噛み？」 カエル執事「初潮を迎える前の生娘が聖人に麦粥を口移しで食べさせた余りが時を経て酒に転じたとされる代物ですな」 オーク「えー」

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#オーク転生 衛兵「そういう伝説があるくらい、教団は醸造の元締めって訳よ」 オーク「この辺りに果物の類は」 衛兵「昔は葡萄が育っていたが、赤い果汁は女神の血であるって連中が言い出したおかげで干しブドウさえ御法度になったよ」 カエル執事「旦那様」 オーク「徹底的だねえ」

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#オーク転生 衛兵「それでも、魔王が暴れていた頃よりは多分マシに」 カエル執事「ならんでしょうな。だから石垣の補修を急がれている」 オーク「手伝おう。全てはそれからだ」 カエル執事「御意」

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#オーク転生 カエル執事「そんな訳で炭焼き小屋に戻った訳ですが。旦那様」 オーク「道具があると、樽を作るのも何とかなるモノだね」 カエル執事「山葡萄だのサルナシだの集めて、潰して樽に詰めましたね」 オーク「そうだね」 カエル執事「猿酒ですな」 オーク「そうだね」

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#オーク転生 カエル執事「珍しく私に頼みごとをされたと思ったら、大きな銅の蒸留窯ですか」 オーク「魔法って凄いね」 カエル執事「なるほどなるほど。こちらは蒸した栗ですな。それに、宿でビールの種を加えたと。いい具合に糖化とアルコール発酵が進んでおりますよ。不気味なほどの速度で」

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#オーク転生 オーク「魔法って凄いよね」 カエル執事「魔法でどうこういうレベルを超えてますがな」 オーク「葡萄を潰して樽に詰めた傍からシュワシュワ音を立てて発酵してるんだもんなあ」 カエル執事「そのまま絞って売り出せそうな品質ですがな」 オーク「蒸留酒にする以外にも別途保存で」

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#オーク転生 カエル執事「うーん、周りの余剰スペースを使って葡萄とか本格的に育ててみましょうかね」 オーク「それはそれで魅力的な提案だけど、明日は山芋堀に栗拾いをメインで。鹿も適度に間引きしておこう」 カエル執事「そうですな。いかに旦那様とはいえオーク製の酒に需要などは」

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#オーク転生 　カエル執事がその時の己の判断を心底呪ったのは、それより一か月後の事だった（山のような注文書を前に）。

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とかそういうオークの密造酒の話。