黄昏町(九板)二十六日目

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@hiiragi_r_t_d

【お知らせ】今から二十六日目を投下しますが、二十五日目と二十六日目の間にブリテイルさん宅の少年と高台で遭遇、角と引き換えに死亡しております。よろしくお願いします。【以上です】 #hollytk

2015-11-09 21:35:37
@hiiragi_r_t_d

【二十六日目】 【魂8/力6/探索2】 【喪失】名前(後ろ半分) 【異形】三ツ目(力+1、探索+2)、牙(力+2)、鱗(水耐性、力+1)、角(力+2) #hollytk

2015-11-09 21:36:44
@hiiragi_r_t_d

[ハンドアウト]誰かに呼ばれて目を覚ますが、路上に停まったバスの中には君一人しかいない。《開始地点[町]shindanmaker.com/541547#黄昏町の怪物 shindanmaker.com/541552 #hollytk

2015-11-09 21:38:24
@hiiragi_r_t_d

「──────!──────!」 誰かがわたしに向けて何かを言っている。 「──────!──────!」 前にもこんなことがあったような気がする。あのときわたしは、どう呼ばれていたんだっけ。 「……うるさいですよ」 わたしは目を開けた。 01 #hollytk

2015-11-09 21:40:20
@hiiragi_r_t_d

夕日に照らされて、宙を舞う埃がキラキラと輝いている。 わたしは埃の積もったバスの座席から身を起こし、車内を見回す。 「……誰もいませんね」 額の眼にも、何も映らない。 ふとわたしは視界の上を掠める角に気付き、薄く笑った。 「やっと、取り戻しました」 02 #hollytk

2015-11-09 21:42:26
@hiiragi_r_t_d

わたしは以前より鋭く、刀のように上へ僅かに反りのついた角を指でなぞる。 先日、ふらりと訪れた見晴らしの良い高台で出会った少年に貰った異形だ。 病院で乱暴に切断され、無惨な欠片を髪の間から覗かせていた角は再び成長し、以前よりも鋭く、長くなっている。 03 #hollytk

2015-11-09 21:44:22
@hiiragi_r_t_d

先端はギザギザの切断面が残っているので見てくれはやや悪いが、十分に実用に足るだろう。 「いつか、必ず」 思い知らせてやる。病院の腐れ医師どもに。 異形を奪うという事がどれほどわたしを傷付け、怒らせたのか。 その不味い肉と臭い血で償ってもらおう。 04 #hollytk

2015-11-09 21:46:14
@hiiragi_r_t_d

「はっ!」 わたしは湧き上がる怒りに任せて、薄汚れた窓ガラスに映るわたしに向けて角を突き刺した。涼し気な音を響かせて、ガラスが儚く飛び散る。 鱗に覆われた左腕を窓枠にかけ、わたしはバスから飛び降りた。 05 #hollytk

2015-11-09 21:48:14
@hiiragi_r_t_d

ダン、と岩のような拳がブロック塀に叩きつけられた。 「進みたければ……通行料、貰おうか」 岩のように大きく、ゴツゴツと角ばった拳の持ち主……目つきの悪い男は、突然現れてわたしの行く手を阻む。 「お金ですか?」 「金か……笛か、ビー玉か。なんでもいい」 07 #hollytk

2015-11-09 21:52:37
@hiiragi_r_t_d

わたしは思わず眉根を寄せた。ビー玉? 「何に使うんですか?」 「お前には関係のない事に、だ」 土気色の肌をした男は微動だにしない。まるで出来の悪いCGのように、口だけが動いて言葉を紡ぐ。 わたしは懐をまさぐったが、あいにくピタ一文も持っていなかった。 08 #hollytk

2015-11-09 21:54:35
@hiiragi_r_t_d

わたしは両手をひらひらと振って何も無いことをアピールした後、軽く肩を竦めた。 「……じゃあいいです。帰りますね」 踵を返し、立ち去ろうとするわたしの頬を鋭い何かが掠める。 「……何の用ですか?」 「戻りたかったら迷惑料を払え。こちとら話すのも億劫なんでな」 09 #hollytk

2015-11-09 21:56:22
@hiiragi_r_t_d

「なるほど」 わたしは頬を掠めて伸びたそれ……男の指先から伸びた棘を左手で掴み、べキリとへし折った。 振り返り、折った棘を投げ付ける。 「支払えない場合は?」 わたしの言葉と構えた拳に、男もまた構えて言い放つ。 「俺かお前の命が、通行料だ」 10 #hollytk

2015-11-09 21:58:18
@hiiragi_r_t_d

男の足元が爆ぜる。アスファルトの路面を踏み砕いて、男は一瞬にしてわたしの眼前に迫る。わたしが立っていた場所に巨大な拳が叩き込まれ、路面が広く陥没する。 男の踏み込みと同時にわたしは前に進んでいた。振り上げた腕をかいくぐり、男の背後へ。 11 #hollytk

2015-11-09 22:00:20
@hiiragi_r_t_d

拳が路面に叩き込まれ、そのエネルギーを完全に放出した事を確認し、わたしは男の首元に組み付いた。 「異形は美味しくないんですけどね……ッ!」 牙の一撃が、男の頚動脈へ迫る。しかし鋭い牙は岩のように硬い皮膚に阻まれ、ガリガリとその表面を削るにとどまった。 12 #hollytk

2015-11-09 22:02:43
@hiiragi_r_t_d

「チッ、ちょこまかとっ」 男がぶんぶんと腕を振り、わたしを振りほどこうとする。しかし肥大化した拳は首の後ろにしがみついたわたしには届かないようで、痺れを切らした男は地面に背中から倒れ込んだ。 「うわっ、とぉ」 わたしは慌てて、男の首から飛び離れた。 13 #hollytk

2015-11-09 22:04:22
@hiiragi_r_t_d

男が体勢を立て直す前に、わたしは鱗で覆われた左の拳を男の顔面に叩き込む。ガン、と硬い音が響き、男の肌から岩の欠片がこぼれ落ちた。 「……効かねえな」 拳の下で目が開き、口が動いた。……目! わたしは直感のままに、拳を開いて親指を立て、男の右目に突き込んだ。 14 #hollytk

2015-11-09 22:06:30
@hiiragi_r_t_d

ぶちゅり、と親指の下で何かが潰れる感触。生暖かい液体が指を濡らし、白い鱗がてらてらと光る。 「グッ、ガァァァァ!」 次の瞬間、怒りに任せて振るわれた拳がわたしを吹き飛ばした。 「がっ、ごほっ」 ブロック塀に頭から叩きつけられ、視界が大きくぶれる。 15 #hollytk

2015-11-09 22:08:22
@hiiragi_r_t_d

ぼやけていた視界が輪郭を取り戻した時、わたしは死んだように地面に転がり、ぼんやりとブロック塀の模様を見ていた。ゴリゴリと重い足音がして、岩のような腕がわたしをつまみ上げた。 太い指がわたしの首根っこをつまみ、い つでも潰せるように力を込めている。 16 #hollytk

2015-11-09 22:10:34
@hiiragi_r_t_d

わたしは額の眼を閉じた。ずっと男は、わたしの顔を見ようとしていない。気付いているのだろう。 「……殺さないのですか?」 「お前はよく戦った。餞別に目をくれてやる」 男がやっと、わたしの目を見た。彼に残された左目が金色に染まり、瞳孔が縦に伸びる。 17 #hollytk

2015-11-09 22:12:29
@hiiragi_r_t_d

わたしは額の眼を開く。額の眼の中に、くろぐろとした瞳が広がる。 「無駄だ。諦めな」 金色の瞳を輝かせながら、男が言う。 「この目はそういうものを弾くんだよ」 「……それで、どうわたしを殺すつもりですか?」 男はにやりと笑った。 「呪い返し、って分かるか?」 18 #hollytk

2015-11-09 22:14:19
@hiiragi_r_t_d

「何を言……ぐ、が」 突然、わたしの呼吸が止まる。 「その眼はな、人を呪い殺すんだ。お前の前にも、そういう奴が何人も来た。俺はそいつらの呪いを全部返してやった。一人目は突然心臓が止まって死んだ。二人目は頭が爆ぜた。三人目は自分で自分の喉を掻っ切った」 19 #hollytk

2015-11-09 22:16:31
@hiiragi_r_t_d

「お前はどう死ぬ?俺をどう殺すつもりだった?俺に見せてみろよ」 男の金色の瞳が、わたしの目を覗き込む。 「……ぁ……ぁ…ぁ」 わたしは持ち上げてぶら下げられたまま、口を動かす。肺が酸素を求めてギュウギュウと縮まり、体の中を荒れ狂う。わたしは喉を掻き毟った。 20 #hollytk

2015-11-09 22:18:26
@hiiragi_r_t_d

苦しい。苦しい。喉を掻き毟っても、心臓がバクバクと唸りを上げても、わたしの身体は息を吸うことが出来ない。 「ほう、息が止まったのか。今までで一番苦しいんじゃあねえか、お前」 男の金色の瞳が、わたしを嘲笑うように細められる。 「まあ、自業自得だよな」 21 #hollytk

2015-11-09 22:20:27
@hiiragi_r_t_d

「お……おぇっ、おご」 吐き気が込み上げる。えづく度に肺から残り少ない空気が吐き出され、苦しみは増していく。 視界が揺れる。回る視界の真ん中で、縦長の瞳がわたしを嘲笑っている。 「…………ぁ」 金色の目に向けて伸ばした手は半ばまで上がった後、力なく落ちた。 22 #hollytk

2015-11-09 22:22:19