2010年3月11日

テクスト。大槻涼樹「TOKYO 非実在性少年」

「今風に云うと児童虐待[ネグレクト]の一種なのだろう。 わたしは“放置された子”だった。」 ある昼下がりにタイトルも前置きもなく始まった小説。 テクスト。は「=深沢豊×荒川工×大槻涼樹×α」の商業ゲームブランドです。
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dakuryu 3636view 1コメント
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  • テクスト。 @textweb 2010-03-11 14:00:26
    今風に云うと児童虐待[ネグレクト]の一種なのだろう。 わたしは“放置された子”だった。
  • テクスト。 @textweb 2010-03-11 14:15:18
    悪意があったとは思っていない。いわゆる暴力[DV]を振るわれたわけじゃない。親は、ただ、ひたすらわたしのことに無関心だった。
  • テクスト。 @textweb 2010-03-11 14:30:49
    ふたりとも働いていた。そして二人とも、とにかく家庭よりも仕事の人間だった。親同士すら、互いに無関心だった。母親はわたしが幼稚園にあがったあたりで仕事に復帰し、そのままわたしたちに視線を向けることはなくなった。
  • テクスト。 @textweb 2010-03-11 14:45:34
    迎えに来るのはもっぱら5歳離れた姉の“仕事”だった。
  • テクスト。 @textweb 2010-03-11 15:00:08
    朝、トーストと目玉焼き程度は作ってくれた。それが母の手料理のすべてだった。 夕食は取引先の人や同僚と食べる機会が多く、母の帰宅は遅かった。
  • テクスト。 @textweb 2010-03-11 15:15:13
    父親も同様に帰りは遅く、わたしたちの、家族としての集合は、起きてからそれぞれがそれぞれの場所に出かけるまでの、一日のうちのほんの一時間ほどのものだった。 わたしの場所は、最初から何処にも無かった。
  • テクスト。 @textweb 2010-03-11 15:30:56
    ただ、共働きだったことから金銭的な余裕はあったようで、わたしと姉の夕食代は毎日千円が姉に預けられていた。 従って夕食を作るのも本来は姉の仕事だったが、子どもの身に日々の千円はとても大きい。
  • テクスト。 @textweb 2010-03-11 15:45:40
    夕食はもっぱらパンがひとつかカップラーメン。 残りは姉の遊興費に消えているようだった。
  • テクスト。 @textweb 2010-03-11 16:00:21
    食費を削れば月に二万程度にはなる。 姉は、小学生にしては羽振りがいいという位置で自分の居場所を作っていた。
  • テクスト。 @textweb 2010-03-11 16:15:02
    姉の重荷は、おそらくわたしだけだった。姉にとってわたしは、妹というよりは、可愛がる価値のない、だが世話を押しつけられた犬ようなものだったのだろう。
  • テクスト。 @textweb 2010-03-11 16:30:26
    やがてわたしも小学生になった。わたしは鍵を持たされなかったので、一人で帰っても家の鍵が開けられなかった。放課後はできるだけ教室や図書室で過ごし、姉が帰る頃を見計らって帰宅する。
  • テクスト。 @textweb 2010-03-11 16:45:07
    だが、すでに高学年の姉は食事の用意もせず、遅くまで遊び歩くことが多くなっていた。 姉が帰ってくるまで、よく近所の公園で時間を潰した。
  • テクスト。 @textweb 2010-03-11 17:00:35
    冬であまりに寒いときはコンビニに入ることもあったが、お金がないので客にはなれない。小学生のわたしには、気がひけて長居はできなかった。
  • テクスト。 @textweb 2010-03-11 17:15:16
    地面が荒れにくいように、公園に敷き詰められた粘土質の土は、冷え込むと冷たい。足の冷えにくい砂場か、腰の冷えにくい座部が木で出来たブランコが、わたしなりの居場所だった。
  • テクスト。 @textweb 2010-03-11 17:30:46
    だから、遊具の改善で突然ブランコが新しくなり、椅子部分がプラスチックになった時はとても淋しかった。 わたしは居場所をまたひとつ、失ったのだ。
  • テクスト。 @textweb 2010-03-11 18:00:05
    冬。いちどコンビニで、パートのおばさんが時折見かけるわたしを見かねたのか、肉まんをくれたことがあった。 わたしは恐縮しすぎて、萎縮して。感謝もうまく伝えられなかった。ひとしきり遠慮したあと、肉まんを受け取り、逃げるようにして公園へ向かった。
  • テクスト。 @textweb 2010-03-11 18:15:48
    少し冷めかけた肉まんは、でもとてもおいしくて。でもなんだか姉の識らないところで食べ物をもらったことがとても後ろめたくて。罪の味がしたことを覚えている。
  • テクスト。 @textweb 2010-03-11 18:30:38
    そのおばさんと顔を合わせるのにも気がひけて、しばらくはコンビニにも行けなかった。いつしかおばさんはパートを辞めたようで、二度と会うこともなかった。
  • テクスト。 @textweb 2010-03-11 18:45:13
    友達は、いなかった。知りあいはいた。そういった程度の、薄い関係性しか持てなかった。 だが周囲が思うほど、孤独だったわけではない。 なぜならわたしは、孤独がどんなものかを識らなかったからだ。
  • テクスト。 @textweb 2010-03-11 19:00:37
    金はあっても関心や時間の無い親。虚栄心と悪意で動いている姉。何も持たない卑屈な自分。 どれもが始めから“そうだった”ので、疑問をもったことはない。
  • テクスト。 @textweb 2010-03-11 19:15:14
    疑問は無かったが、感情が無くなる訳ではない。 わたしはいつしか、ともだちをひとり作っていた。 ともだちの名は、ノコ。
  • テクスト。 @textweb 2010-03-11 19:30:44
    ノコは心強い味方だった。 公園でひとり、姉の帰りを待っているとき。 ノコは公園のなかを駆け回りわたしの目を楽しませてくれた。 温もりは分かち合えなかったけど、時折わたしの様子を気遣うように視線を上げてくれる存在。 それだけで、わたしはなんだか救われた気分になるのだった。

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