「ストレンジャー・ストレンジャー・ザン・フィクション」 #10
「バジリスク=サン!バ……バジリスク=サン!」ウォーロックはIRC音声変換インカムへ向かってほとんど絶叫していた。それに伴い運転もまた荒っぽいものとなる。装甲車両は最寄りのインターチェンジをブレイコウ突破し、アンダー産業道路のトラックの車列をぬって場違いに走行していた。
2011-01-14 16:52:27「あ……」助手席のナンシー・リーが震え声で囁く。カナシバリ効果が薄れつつあるのだ。「……貴方の大事な相棒、ど、どうやら今頃サンズ・リバーを渡っているようね」「イヤーッ!」「ウウッ!」運転しながら、ウォーロックは容赦なくその左頬を殴りつけた。
2011-01-14 16:58:20「黙りなさい!バジリスク=サンが死んだとしても、貴方がこれから辿る運命よりは幾分マシです!」ウォーロックはナンシーに顔を近づけた。運転が乱れ車両がスピンしかかる。「クソッ!」ハンドルを切り、ジグザグに走行しながらトラックを避けて行く。憤慨したクラクションが後ろから複数飛んでくる。
2011-01-14 17:06:31「あ……あなたの運命はどうなのかしらね?失敗続きの名無しのニンジャ=サン」ナンシーが冷笑した。「イヤーッ!」「ウウッ!」「私は女に興味は無い。だから大事にはしません。わかったか!?黙れッ!」
2011-01-14 17:13:04「あらそう、そりゃよかったわ」ナンシーはせせら笑う。「もう一人の相棒=サンのほうが私の好みに合いそうだしね。死んでしまったようで残念ね」「イ……」ウォーロックは拳を震わせたが、殴りはしなかった。「……せいぜい強がっていなさい。今だけです」
2011-01-14 17:25:31ナンシーはダッシュボードへ血の混じったツバを吐いた。カナシバリこそ解けかかっていたが、彼女は後ろ手に手錠で拘束されている。
2011-01-14 17:26:14アンダー産業道路の左手が開け、グロテスクなパイプを建物から建物へ心臓めいて張り巡らせた工業地帯と、背後の陰鬱な海が見えてくる。車両は速度を上げながら、「ベイサイド」とデジタル表示された表示板の下をくぐり抜けた。
2011-01-14 17:30:58黄金の瓦屋根をルーフパネルに装着した長大なリムジンが滑るように進み出、灰色の海を臨んでしめやかに停止した。ドラゴン、ゴリラ、タコ、イーグル……平安時代の四聖獣の像が、黄金の瓦屋根から四方を睥睨する。
2011-01-14 18:10:51音もなく助手席のドアが開き、まず降りてきたのはダークスーツとオールバックの黒髪、埋め込みサングラスの男だ。ヨロシサンの上級エンジニアであれば、これがカスタムクローンヤクザY-13Rである事を見抜いただろう。その右耳は痛々しく千切れ、周囲が血に染まり、焼け焦げている。
2011-01-14 18:20:09次に、後部ドアが開き、バイオレッサーパンダの毛皮コートを玉虫色のドレスの上に羽織ったオイランが、全部で三人。よろめきながら降り立つ。
2011-01-14 18:29:54リムジンバスが停車したのは円形の巨大ヘリポートの縁であり、リムジンバスの停車位置からヘリポートの中心部へかけて、待機していた大勢のクローンヤクザY-12型が、臙脂色のカーペットを敷きながら、二列に整列した。
2011-01-14 18:39:50全員が無言である。三人のオイランがガタガタと震えているのは海風のせいではない。ここへ到着するまでにくぐり抜けた恐怖と、それ以上に恐ろしい、いまだ車内にいる存在が理由である……。
2011-01-14 18:45:00クローンヤクザY-13Rとオイランたちが脇へのき、その男が車内から、彼以外の何人たりとも足をつけてはならぬカーペット上へ降り立ったとき、張り詰めた空気がぐにゃりと歪んだかと思われた。銀河的なダーク・ラメ・スーツとニンジャ頭巾、鬼のようなメンポ。……ラオモト・カンである。
2011-01-14 19:01:48ガバッ、と音を立て、カーペットに沿って整列したクローンヤクザY-12が一斉に45度の最オジギをした。クローンならではの一糸乱れぬ行動であった。一瞬の沈黙があった。
2011-01-14 19:05:09「……。イヤーッ!」ラオモト・カンの両手が閃いた。それぞれの手には抜刀したカタナが握られていた。一瞬遅れて一番手前の二人のクローンヤクザの首が胴体から離れ、ゴトリと落下。切断面から同時に緑の鮮血を噴出し、同時にドゲザめいた姿勢でうつ伏せに倒れ、同時に絶命した。ゴウランガ……!
2011-01-14 19:14:35「ア、アイエエ……」オイランが歯噛みしながら悲鳴を漏らす。ボドボドと流れ出す緑の血液は空気に触れると赤く酸化し、カーペットと同色になった。ズシリ。ラオモトが一歩踏み出した。列になったクローンヤクザ全員が一瞬にして正座した。
2011-01-14 19:17:38ズシリ。ラオモトがもう一歩踏み出す。正座したクローンヤクザが一斉に懐からドスを取り出した。ズシリ。さらに一歩。クローンヤクザは一斉にドスで自らの下腹部を切り裂いた!セプク!
2011-01-14 19:36:25ラオモトに笑みは無い!セプクしたクローンヤクザの首を両手のカタナで順々に刈り取りながら、ヘリポート中心へ伸びたカーペットを前進する。そこにヘリは無い。クローンヤクザ達のセプクの理由はそれだ。タイムイズマネーをモットーとするラオモトはアンパンクチュアルを決して許さないのだ!
2011-01-14 19:42:29しかも、ヘリコプターの迎えが来ていないのは現場で待機していたクローンヤクザ達の責任ではなく、なにより恐ろしいのは、ラオモト自身がその事を重々承知なのである。ナムアミダブツ!なんたる日本的犠牲道徳のあり方!
2011-01-14 21:14:59臙脂のカーペットは殺戮のハナミチと化し、ラオモトはヘリポート中心付近で無言のまま直立するのであった。海上を貨物船が通過し、陰鬱なサイレンが鳴り響く。
2011-01-14 21:17:43「……」ラオモトは首を巡らせ、倉庫群の方角を見やった。護衛カスタムクローンヤクザY-13Rは主人の邪魔にならない距離を保ちつつ、その方角へアサルトライフルを構えた。
2011-01-14 21:21:19「シバラク、シバラク!」倉庫の陰から姿を現したのは小太りのニンジャである。後ろ手に手錠をかけられたレザースーツ姿のコーカソイドの女を引きずり、ヘリポートへ近づいてくる。
2011-01-14 21:25:16