グラウンド・ゼロ、デス・ヴァレイ・オブ・センジン #2

日本語版公式ファンサイト「ネオサイタマ電脳IRC空間」 http://d.hatena.ne.jp/NinjaHeads/ 書籍版公式サイト http://ninjaslayer.jp/ ニンジャスレイヤー「はじめての皆さんへ」 http://togetter.com/li/73867
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ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

【グラウンド・ゼロ、デス・ヴァレイ・オブ・センジン】#2

2015-11-14 22:31:09
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ヴァレイ・オブ・センジンの大断崖にかかる軍橋を中心に、半円形を描いて築かれた防壁がネオサイタマ側の前線だ。防壁のには複数基のサーチライトが配され、昼夜を問わず常に空に光を投げかけている。 1

2015-11-14 22:40:04
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

数機の戦闘機トンビF-34の隣に、やや異質な存在感を放つ円形の機影がある。ステルス輸送機、ナイミツである。重苦しいエンジンの呻き声と、吹きすさぶ風と粉塵。ミリタリー・コートの裾がはためき、歪んだ空気に威厳溢れる長身が霞む。白髪交じりの長髪、眼帯、葉巻の火。 2

2015-11-14 22:48:30
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「あちらこちら、引退した老兵を引きずり回す過酷な連中の実際多い事でな」国防軍顧問は冗談とも本音ともつかぬ無感情な言葉を吐き、この乾ききった橋頭堡の基地司令とオジギを交わした。司令自らの出迎えを受け、悠々と歩く国防軍顧問に、彼同様ただならぬアトモスフィアを持った六人が続く。3

2015-11-14 22:57:41
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ここ数日、敵軍に極めて怪しい動きが」ザビタ司令はあらためて確認した。「憂慮すべき事態です」「ああ、うむ」国防軍顧問は歩きながら灰を落とす。「要はニンジャよな」おおっぴらに口にする。司令は短く頷いた。司令はニンジャではない。だがニンジャを知る。そしてこの顧問はニンジャである。 4

2015-11-14 23:07:22
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

皆さんの中にはこの顧問の名を知っている方もおられよう。ハーヴェスターが彼の名だ。元湾岸警備軍高官にして、故ラオモト・カンとの親交深く、その息子チバの率いるアマクダリ・セクトの最高幹部「12人」に名を連ねる強大なニンジャである事も、ご存じかもしれない。ではその部下と思しき六人は?5

2015-11-14 23:13:13
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

最新式のハイ・テック・ミリタリー・ニンジャ装束に身を包んだただならぬこの六人の名は、ストーンコールド、ソリティア、ヘヴィレイン、イリテイション、アイアンクラッド、ロングシップ。ニンジャ装束?然り、ニンジャである。ハーヴェスターがこの地に伴って来たアマクダリ・アクシスの戦士達だ。6

2015-11-14 23:15:10
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「おおそうだ、忘れておった」ハーヴェスターは懐からコーベイン餅の箱を取り出した。薄紫の紙で美しく包装された奥ゆかしい菓子は、江戸時代のダイカンがハタモトをもてなす際、金塊に見立てたヨーカンを捧げた事に由来する。「土産だ。ネオサイタマの味が恋しかろう」「……ありがとうございます」7

2015-11-14 23:23:08
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

司令はニンジャ存在によく慣れており、ハーヴェスターの威厳、アイアンクラッドの鉄塊めいた筋肉、ソリティアの背負う巨大な弓、ヘヴィレインの不穏な殺気、ロングシップの佩く奇妙なカタナ、イリテイションの悪戯娘じみたクスクス笑い、ストーンコールドのカラテの重圧にNRSを起こす事もない。8

2015-11-14 23:33:56
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

彼らはクリスタル・ガラスのチャブを中央に据えた応接室に通された。このようなエマージェントの地であっても、応接室にはトコノマと神棚、ダルマ、水仙の花瓶、「虎と兵左衛門」のショドー等のゼンめいたアイテムが揃っている。「で、敵方は、どんな動きだ?」ハーヴェスターはすぐに切り出した。9

2015-11-14 23:45:00
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

この部屋に彼ら以外の者はいない。ショウジ戸の外にも。ザビタ司令は自らマッチャ・マシンを使ってチャを入れ、ハーヴェスターに供した。そして低く言った。「どうやら相当な数のニンジャが前線に集められている事は間違いないようです。明確な攻撃意志を感じます」「困ったものだ」「……ハイ」 10

2015-11-14 23:51:46
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

二者は視線で語り合った。この戦争は経済活動だ。関連企業の資本が縦横に飛び交い、銃撃音があちらで鳴り響き、こちらで地雷が吹き飛び、前線の位置が北へ、東へ、西へ、南へ、目まぐるしく動くたび、株価がバイオリズム・サインめいて変動する。負け犬が群がり、ネコソギ・ファンド社が回収する。11

2015-11-15 00:00:54
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

キョート共和国の高官とは秘密ホットラインが築かれており、利益を共にするWIN-WIN関係が築かれていた。だがキョートは一枚岩ではない。さまざまな思惑の坩堝である。この戦争を足掛かりに実際ネオサイタマへ侵攻しようとするタカ派の存在感が、必要以上に増しつつあった。12

2015-11-15 00:09:42
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「……ま、奴らの為に起こしてやった戦争ではないからな」ハーヴェスターは紫煙を吐いた。「取り分に満足できなくもなろうなあ」他人事めいて言う。「敵ニンジャ戦力による被害は微々たるものだな……今のところは」ハーヴェスターは提供された情報には既に目を通してある。「これからだ」 13

2015-11-15 00:16:46
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「共和国は秘密裏にニンジャの戦闘部隊を育ててきました。その実態は注意深く秘されておりますが、おそらくその戦力が今回、本格的に投入されて来ておるものと」「というわけだ。ストーンコールド=サン」ハーヴェスターは後ろの壁に並ぶ六人を振り返り、隊長格のニンジャを見た。「信頼しとるぞ」14

2015-11-15 00:22:46
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「お任せください」ストーンコールドは頭を下げた。そして言った。「主たる懸念事項に専念なされよ」「全くその通りよ!どいつもこいつも人使いが荒い」ハーヴェスターは立ち上がり、ザビタ司令に会釈した。それからストーンコールドの肩を叩き、ひとり退出した。イリテイションがウインクした。15

2015-11-15 00:33:13
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ハイ。そうして、その、俺……私は車両にしがみつきまして、ええと」かいつまんで話そうとするが、どうしても言葉が詰まってしまう。向かい合った相手は瞬きを一切せずに、マギタを注視している。表情、発汗、呼吸、緊張、恐怖……「そのう……私はそれで……もうダメだと思ったんですが」 17

2015-11-15 00:41:35
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「成る程」"ストーンコールド"の瞳の白い光彩がマギタを震え上がらせる。「そこで意識が途絶えた、と」ストーンコールドはまとめた。マギタは謝らねばと思った。「申し訳ありません」「記憶が不明瞭なだけかもしれん」「え?」ストーンコールドが話しかけたのは隣に立つ女だった。「やれ」 18

2015-11-15 00:48:47
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

不気味な笑いを張りつかせ、女はマギタの額を掴んだ。「カワイソ!お前死ぬかもね!イヤーッ!」「アッ、アバーッ!」ドクン!心臓が強く打ち、マギタの頭は二つに割られ、脳を引きずり出された。錯覚だ。それほどに恐ろしい痛みだった。マギタはぶざまに失禁した。「アバババーッ!」 19

2015-11-15 00:53:00
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

気がつくと、マギタは床に寝そべり、マグロめいて口をパクパク動かしながら、ストーンコールドとその女、"イリテイション"を見上げていた。「アイエエエ……アイエエエ……」「このニボシが遭遇したニンジャは、多分一人。で、こいつは潰れた車から亀裂の下に投げ落とされて、一命をとりとめた」20

2015-11-15 00:57:13
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「特に追加の事実は無し」ストーンコールドが言った。「もう少し記憶を搾り出せるか?」「無理」イリテイションは首を振った。「こういう事のためのジツじゃないから。しっかし、こいつがどう生き残ったかなんて、どうでもいいッつうのね!」イリテイションは笑った。「ニボシ!」「アイエエ」21

2015-11-15 01:03:38
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「大丈夫か?」ストーンコールドが見下ろした。助けてはくれない。「アイエエエ……ハイ……」マギタは手をついて起き上がり、椅子に座り直した。ストーンコールドがまとめた。「黒い油めいたものが全て破壊し、他の者達を殺害したと」「ハイ……」荒唐無稽過ぎる。懲罰を受けるだろう。 22

2015-11-15 01:09:41
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

だがストーンコールドは無雑作に頷き、イリテイションに言った。「キョートの大破壊で目撃されたジツだ。成る程な。調べておけ」イリテイションは肩をすくめた。マギタは身を竦ませながら、問いを発する。「あの、あれは何だったのでしょうか……ご存じなのですか」「ニンジャだ」相手は即答した。23

2015-11-15 01:16:16
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ニンジャ?」マギタは思わず訊き返した。「ニンジャ、ナンデ」「ただの人間にそんな芸当ができるとお前は思うか?」「い、いいえ」「では、そのような自然現象が存在するか?」「い、いいえ」「ならばニンジャだ。簡単なロジックだろう」「アイエエエ」「ハハッ!笑えんか?」「アイエエエ」24

2015-11-15 01:23:23