【HYDE】Another Story - はじまり -

これは贖罪の戦士が出会った、とある狩人との物語。
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ばしこし@文垢 @bs_ks_0

ハイドとイースの出会いはとある狩場。血に濡れた戦場で、彼らはその顔を知り、その声を聞き、その心に興味を示す。

2015-07-17 16:05:33
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

重苦しい断末魔に遅れ、ズシンと鈍い振動が大地を揺らす。4人の”ハンター”達が、倒れ伏す空の王者”リオレウス”を前に笑顔を浮かべた。ハイタッチをする者、ガッツポーズをする者、様々な方法で喜びを体現していた。そんな新米ハンター達へ近寄る影がまたひとつ。「皆、よくやったな。お疲れ様」1

2015-07-18 17:55:32
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

「教官!」その人影を前に、先ほどまで緩んでいた4人の表情が一気に引き締まり、一斉に敬礼をする。当の人物は…というと、照れ臭そうに頭を掻きながら「もう違うだろう」と。「もう君達は、俺達と同じくして戦場に立つ…立派なハンターだ」。今度はその言葉を受けた4人が照れ臭そうに笑った。2

2015-07-18 21:51:55
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

此処は”闘技場”。狩人の修練の場であり、新人育成の場であり、そして…真の戦場に立てる力と覚悟、心根を持ち合わせているか…其の選定の場、即ち”ハンター試験最終の場”として用いられる場所だ。ここにはハンター協会が其が為に捕獲した”モンスター”達が、弱体化しながらも狩人達へ牙を剥く。3

2015-07-18 21:55:11
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

狩人を目指す者は、ハンター協会所属の中でも特に高い技術を誇るギルド”レティオン”の狩人、その内で更に最も高い戦闘力、精神力を持つと認定された所謂”教官”と呼ばれしハンターの下にそれぞれつき、来たるハンター試験最終の日まで武器訓練、実地訓練など何十回とこなしていくのである。4

2015-07-18 22:01:28
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

彼、”教官”と慕われるこの男性…「イース」も”レティオン”所属のハンターのひとりだ。温厚で優しく、命を摘む事に躊躇いを覚える程の慈愛に満ちた心根を持つという一見ハンターには向かない人物とも思える。が、その腕は凄まじく、洞察力と瞬発力に特に優れ、彼の操る鉄槌は的確に急所を襲う。5

2015-07-18 22:07:13
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

彼らの受け持つ4人は、男性2人女性2人。年齢は20と成人を迎えて間もない者達。其々の武器は、”大剣”、”ランス”、”弓”、”操虫棍”と非常にバランスの取れたメンバーであった。名は、”ジュード(大剣/男)”、”ラティ(ランス/男)”、”ローデ(弓/女)”、”ラオン(操虫棍)”。6

2015-07-19 16:57:03
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

「明日からはいよいよ正式依頼を請け負ってもらう事になる」イースの声は、先ほどとは比べ物にならない程に厳しいものとなる。「これからは…常に死と隣り合わせの戦場に立つ事になることを、忘れてはいけない」。言葉ひとつひとつに、力がこもる。候補生達4人も、改めて表情に緊張の色を見せた。7

2015-07-24 05:07:32
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

しかし。フッと表情筋を和らげたイースの顔には、ふわりとした笑顔が戻っていた。「でも、最初の内は俺も依頼地に同行を認められてるから、共に行く事になるけど」。そう言った彼は、少し苦笑いに変わった笑みを浮かべる。目の前に立つ候補生達は、見違えるほどに立派になった。お節介も程々か、と。8

2015-07-24 05:13:27
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

「まだまだ教官からの卒業は先になりそうですね」。緊張した表情はどこへやら、嬉しそうに声を弾ませるローデ。彼女の瞳は狩人の目ではなく、1人の人間として輝いていた。「お前、イース教官の事大好きだったもんなー」とジュードに小突かれ、少し頬が赤くなる。「もう!皆だって嬉しいくせに!」。9

2015-07-24 05:17:15
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

「ありがとう」。今度は心からの笑顔で、イースはローデの頭を撫でた。「ジュード、ラティ、ローデ、ラオン…本当によく頑張ったな。君達はもう、立派なハンターだ」。それは、”教官”としての最後の言葉だった。 思わず視線をスッと逸らしたローデの頬が紅く染まっていたのは、誰も知らない。10

2015-07-26 19:52:27
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

宿舎にて。イースは軽く伸びをした。彼のいる場所は宿舎の外にある小さなコテージ。何かを成し遂げたり、何かにつまづいたり。そういう時はここで温かいコーヒーを飲む…それが彼の癖だった。淹れたての、少し苦味をまとった香りが鼻腔をつく。彼が空を見上げると、星の散らばる夜空があった。11

2015-07-26 19:55:50
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

ふと、今までの思い出を振り返ってみた。どの武器もまともに扱えなかったジュード、護のない力のみの戦い方で傷が絶えなかったラティ、屁っ放り腰で武器すら握れなかったローデ、天涯孤独であり誰の言うことも聞こうとしなかったラオン。でも、共に切磋琢磨しあった時間の中で、彼らは見違えった。12

2015-07-26 23:37:55
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

「皆、最初は俺に対しても冷めてたなあ」。先ほどのあたたかな笑顔と、其れと比べ物にならないくらい冷めた目つきの4人。思い出すと別人に成ったのではないかと錯覚する程、柔らかな表情と笑顔になったなぁ、とイースは改めて思う。成長する彼らを見ていると、まるで自分自身を見ている様だった。12

2015-07-27 23:57:34
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

「イース」。ふと背後から声がした。聞きなれた、低い落ち着いた声。振り向かずとも正体のわかる相手に、イースはふっと微笑んだ。「やあ、スオウ」。”スオウ”と呼ばれた人物も、片手にコーヒーを持ちイースの隣へと静かに歩み寄った。コテージの手すりに手を置くと、ふぃーと息をつく。13

2015-07-27 23:59:27
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

「早いもんだな、俺たちの受け持った4人の卒業」。”卒業”とは、教官の元から巣立つ時、いわゆる”訓練生から狩人”へと成る事。其れを教官達の間では卒業と呼ぶ。イースはその言葉を聞いて、少し寂しそうに瞳を細めた。「そうだな。色々あったけど…俺にとってもかけがえのない1年だった」。14

2015-07-28 00:02:11
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

「まあでも、」コーヒーを一口飲むと、スオウは同僚の肩にポンッと手を置いた。「あと数週間もすれば、また俺たちは”教官”に戻る。名前も知らない4人の訓練生の、な」。そう言うと彼はケラケラと笑った。「以前の訓練生の時からずっとそうだなーお前は。これが別れじゃないんだからさ」。15

2015-07-28 00:09:13
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

そう。これが別れじゃないのは解っていた。これからは同じ”狩人”として、自分と同じ土俵の上で戦う仲間となる。いずれ未来では、自分自身の立場に彼らが立っているかもしれない。そう考えると、未来が楽しみだった。「明日からもしばらくは彼らに付き添うんだ。そろそろ休むか」とスオウの声。16

2015-07-28 14:24:43
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

卒業試験が終わったのがまだ日が高い刻。今はもうすっかり日も落ちて、この季節にしては少し涼しい風が吹いている。心地よく肌を撫でる風を感じながら、イースは目を閉じた。「ああ……そうだな、」歩き出そうとした、その時。イースの背中…正確には頭に、小さな衝撃が走った。「…?」。17

2015-07-28 14:27:58
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

「おー」。突然の事でまだ原因もはっきり解らず首をかしげるイースを見て、スオウは目を丸くしている。「お前の髪は前々からキレイだとは思っていたけど、」そう言いながら、自分の足元まで飛んできたある物をひょいっと拾い上げた。「縛ってた紐。もうずいぶん古くなってたみたいだな」。18

2015-07-28 14:31:13
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

その言葉と同時に、一際強い風が吹いた。周りの木々もざわめく。その風に揺られる己の髪の毛を視認し、イースはやっと状況を理解した。「ずいぶん長くなったもんさ…この髪も、」最近あまり時間が無く、構う事すらできずだった彼の銀に輝く髪は、肩より少し下辺りまで伸びていた。19

2015-07-28 14:34:59
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

「ああ…それはローデが作ってくれたんだ。半年前、”俺に教わるお礼の前払いだ”と…」と、イースはそこまでで言葉を止めた。少し騒めく胸の感覚を、違和感としか感じ取れない自分が居る。鼓動がいつもより速く感じるのは、先ほどと変わらないはずの風が冷たく肌に刺さるのは…。20

2015-07-31 16:03:14
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

しかし。その思考回路はスオウの声で途切れた。「イース」目を少し細め怪訝な顔で同僚を覗き込んでいる。ハッと我に返るとイースは元の笑顔に戻った。「いや、…何でもない」。そうか?とスオウも一転ケラケラと笑い、隣り合うイースの肩をポンと叩いた。「ま、明日は雑魚狩りだしリラックスな」。21

2015-07-31 16:13:32
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

そう。明日は彼ら4人の謂わば「初陣」とも呼べる日。正式な依頼を受け、正式な報酬とそれ相応の危険が伴う場所へと旅立つのだ。しかし明日の依頼は”繁殖したランポスの駆逐”だ。ドスランポスとの戦闘訓練の際、彼らはあの狭い闘技場の中で勝利を収めた。ランポスなど、今の彼らの脅威ではない。22

2015-08-13 23:06:35
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

大丈夫。今の彼らなら、何事もなく。イースはぷるぷると首を振る。「お前らしくないな」と、それを隣で見ていたスオウはけらけらと笑っていた。そんな2人を風がするりと撫でた。全ての過程を終わらせたのは夕方とはいえ、陽が沈むのは早い。これ以上は身体に障る可能性も。「そろそろ休もうか」。23

2015-09-11 21:13:27
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