【HYDE】Another Story - 6.想い

二つの想いが、武器を通じぶつかり合う。己の命を賭けてでも、貫きたいものがある。物語は今、一つの区切りを迎えようとしていた。
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ばしこし@文垢 @bs_ks_0

やっと見つけた。ずっとずっと捜し求めていた、仲間達の為に果たさねばならない因果。”死を以って生を与えてくれた”友への、せめてもの手向けとしてーーー。今までも塔へは足を運んだ。幾度も幾度も。望む姿が見えないのをどこか悟ってはいたが、行かずにはいられなかった。しかし、この度は違う。1

2015-11-17 18:05:02
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

集会所を後にし、樹海へと近づくと共に感じる重圧は…確実に増していた。間違いない。そう、彼の本能がそう訴える。歩く衝撃とはまた別の何かが、イースの体を震わせる。待ち望んだ、渇望した”未来”がすぐそこまでに迫っている。そして今ーーー彼もまた、予想外の人物の姿に目を見開いていた。2

2015-11-17 18:08:39
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

「………ハイド」。不釣り合いな程優しい笑顔で、イースは囁くように名を呼んだ。しかしその声は、彼女の身に刺さるように冷たく、鋭い。「…なぜ、君がまだここに」。「それはこちらの台詞だ」。彼の言葉を半ばで遮り、ハイドは声を荒げた。感情を露わにさせ、その唇は歪み、瞳はイースを睨む。3

2015-11-17 18:12:00
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

「…なぜここに戻ってきた」。「……それは」。空気が一気に張り詰めた。ハイドすら息が詰まるほどの威圧感が、彼女に重くのしかかる。「君には、関係無い」。突き放すような、イースの言葉。それはハイドの胸のざわめきを一層騒がしいものにする。「…仲間を殺された生き残りの魂とは、お前か」。4

2015-11-17 18:16:11
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

場違いな賭けだった。カマをかけたとも言える。しかし裏を返せば最後の望みでもある。考えついた己の思考の末路を、笑って否定する彼の姿を。「……何を言い出すのかと思えば」。ハイドの静かな声は、彼の表情を曇らせた。その瞳がかすかに揺れ動く。「誰に何を聞いたかは知らない。だけど」。5

2015-11-17 18:19:14
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

イースの瞳がハイドを捉える。綺麗だった青い色は、黒く澱んだように霞んで見えた。「…俺の邪魔はさせない」。それは、求めた答えでは、無かった。ハイドはその顔をうつむかせた。彼の事を最初からわかっていたとして、果たして変えられたのだろうか。否、その答えを出すには昔の自分でもう十分。6

2015-11-17 18:24:36
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

「……死ぬつもりか」。強く、強く。イースに問い掛けた。何が返って来るか、なんて容易に想像が出来た。「…いや、答えなど要らない」。彼の言葉を待つ事なく、ハイドはその背に手を伸ばす。「行かせない」。先刻まで戦場を共に駆けたその姿へ、二振りの双剣の切っ先を構えた。「ここで…止める」。7

2015-11-17 18:33:09
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

「…そうか」。己へと剣を向けた彼女を一瞥し、イースは小さく息を吐いた。その片腕で、背負われし相棒を軽々と構える。ハイドの肌を刺す殺気が、この必要の無いはずの戦いを拒まぬ、彼の意思だった。「……イース…」。胸を深く抉られるような、痛み。彼女の声は苦しみを交え、その名を紡ぐ。8

2015-11-17 18:41:32
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

「俺の邪魔をするなら、例え君でも容赦は出来ない」。残酷ささえ秘めた彼の声は、淡々としたもので。しかし、ハイドも己の意思で彼の前に立っている。”戦いたくない”など生温い言葉で解決出来ない事も知っている。イースの殺気が、その手に持つ鉄槌に込もるのがわかった。一度だけ、深く息を吸う。9

2015-11-18 08:11:51
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

踏み込んだ。お互いの武器が幾度となくぶつかり合う。その度に奏でられるのは、決して交わる事なく各々の音を反響させ反発し合う、不協和音。まるで、今の彼らの心のように。「っ、!」。双剣の機動力が、鉄槌を上回った時、その氷の刃は、イースの喉元を捉えていた。冷気がその身を貫かんとする。10

2015-11-18 08:16:39
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

が、その動きが止まる。"かつての彼の姿"が"目の前の彼"と同調し、ハイドの中に眠る忘れられない傷が、彼女の思考回路を止めてしまった。その隙を見逃すはずもなく。一瞬にして体勢を立て直したイースの鉄槌は、迷いなくハイドへと迫った。「ーーー!」。我に帰り、咄嗟に双剣で防御をとる。11

2015-11-18 08:22:19
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

が。双剣ではその勢いを完全殺しきれるはずもなく。躊躇いのないその一撃で、彼女の体は軽々と吹き飛ばされる。「ぅ...っ!!」。背に衝撃を感じると共に、全身を巡る激痛。口の中にじわりと広がる血の味。投げ出された先が大樹の幹だったのが幸いか、ハイドの意識は辛うじて残っていた。12

2015-11-18 08:26:43
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

彼の瞳に映るハイドは。己を止める事も傷付ける事も出来ない、中途半端な心の虚勢を刃で隠しているようだった。「君の過去に何があったのか...なんて、今更もう関係の無い事だ。...でも」。苦痛に歪む表情でイースを見上げる彼女は、弱々しくさえ思えて。「...甘すぎる、君は」。13

2015-11-18 13:00:04
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

「...イ、...っ」。必死に絞り出そうと試みるが、思うように言葉が出ない。衝撃により胸を襲う圧迫感は、一時的にハイドの声を奪おうとする。イースは彼女に背を向けた。その背に戻った鉄槌は、輝く事をやめない。「......さよならだ、ハイド」。視線を合わせる事なく、彼は呟いた。14

2015-11-18 13:07:05
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

"嫌だ。行かないでくれ。わたしは、またーーー"。ハイドの心が叫ぶ。何故声が出ないんだ。伝えたい言葉が何も、投げられない。空気すら上手く吸えない己の胸をぐっと掴む。体に力が入らない。抱く意思とは裏腹に霞みゆく彼女の意識は、瞳は。遠くなる彼の背中を、ただ見送る事しか出来なかった。15

2015-11-18 13:13:15
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

イースの足は、止まる事はない。向かう先はひとつ、かの者待つ聖なる頂。求めしものは唯ひとつ、かの者の命の灯火。その場所へ近付くにつれ、イースの鼓動は脈打つ速さを増し、全身が小刻みに震える。背負う相棒が、一際重く感じた。これは恐怖か?...否。「...恐怖は、覚悟で塗り潰した」。16

2015-11-18 13:17:55
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

ハイド、君の隣は暖かかった。どこかで殺戮を求める本能も、心の隅に生まれた温かな部分も、全部含めて。己と正反対に"自らの意志で生きる"道標を取り戻した彼女は眩しく、その強さに羨望を覚えた。願わくば、"真っさらな手"で、君と握手を交わしたかった。この手はもう血濡れてしまった。17

2015-11-18 23:17:43
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

記憶に新しいハイドの穏やかな微笑みは、イースの脳裏に焼きついたまま離れず、今でも彼の心を揺さぶる。しかし、彼の信念までは侵せない。望み求めた未来は、イースの命そのもの。覆す事の出来る存在など、きっと。「...あぁ、ただひとつ」。願わくば。「俺が死するまで、目覚めぬように」。18

2015-11-18 23:26:30
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

変わらない。この意思もこの覚悟も。望みを果たす為に武器を取り、命果てる場所を捜す為に生きる事を選んだ。変わらない、変えるわけにはいかない信念。しかし、ただひとつだけ。「...彼女との出会いは、」。"幸せなものだった"と。己の意思で生きる事を、最後だけは。「...許してくれ」。19

2015-11-18 23:39:20
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

ーーーどれくらい歩いたのか。いつの間にか木々は消え、開け放たれた場所へとイースは辿り着いた。此処に来るのはもう何度目だろう。訪れても訪れても、その"居場所"は静寂に包まれていた。しかし、今。塔の頂に鎮座する、圧倒的存在の姿がある。再びこの地に舞い戻った 、同胞を屠りし憎き仇。20

2015-11-18 23:45:52
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

「...待ちくたびれたよ」。どくんと強く心臓が脈打つ。己が一心に憎み、求め続けた存在は、まさに目の前にあった。イースへと向けられたその片目は抉れ、皮膚と同化している。「隻眼の大轟竜...俺は、ずっとお前を捜していた」。仲間を、友を失ったあの日から、一秒たりと忘れた事はない。21

2015-11-18 23:50:12
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

そう。もしあの時お前の事を知っていたなら、彼らは今もーーー。「...ハッ」。馬鹿げている、と。イースは鼻で嗤った。まるでその考えが、もう無意味なものだと解っていたかのように。彼らはもう、二度と戻らないのだから。彼の声に呼応するティガレックス希少種の咆哮が地を揺らし、耳を劈く。22

2015-11-18 23:54:28
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

「......あぁ、」。心がざわついた。"彼女"に対する想いとは全く別の、どす黒く淀み歪んだ部分だけが暴走を始めたかのように、熱く、熱く。やっと果たせる"約束"を前に、何も出来なかった無力な過去をも飲み込んだその復讐心は、彼の中で激しく疼く。23

2015-11-19 00:01:31
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

「俺の命をお前にやる。......だから」。背負った鉄槌を、ゆっくりと両手で握り、構えた。殺気と殺気が、視線と視線が、ぶつかり合う瞬間。再び鼓膜を貫かんとする轟音が、命を賭けた終焉への合図。 「...お前の命を、寄越せ」。24

2015-11-19 00:04:00