疾きこと風の

銅折葉＠11/28紅楼夢か-14 @domioriha

だから誰か先代島風さんがいろいろあって今の島風さんに教えを残す感じの話をですね。 というか先代艦娘と言うか同名の前任艦（建造でダブったとかじゃなくて、史実的に言うなら日露時代に建造されたその前の世代の艦娘）と現世代の艦娘の絡みみたいな話を誰か。誰か。

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艦娘になるまえは半身不随とかだった島風ちゃんには自由に動く体という強烈な願望をもって艦娘に適合した経緯があって、ある日ひたすらに最速であろうとする自分をふと疑問に思い、鎮守府の僚艦に不思議に思われながらあれこれ調べていくうちに初代島風こと峯風型島風さんの存在に辿りつく感じでこう。

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――わたしたちは、みな、７０年の昔に水底に沈んだ鋼鉄の鋳型に押し込まれているのだ。

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「島風、突出しすぎだ！　戻れ！　戻れっての！！　聞いてんのかこの野郎！！」 五月蠅い怒鳴り声が波間に消えていく。沖合の海は山が動くみたいにざわざわとうねり、紺碧の壁になって押し寄せてくる。主機の振動を心地よく感じながら４ｍの水の壁を突っ切るように駆けあがる。 #速きこと風の

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ごうごうと背中で缶が唸りを挙げている。胸の鼓動がそれに合わせて跳ね上がり、際限なく激しさを増す。指や爪の先の先まで、ボイラーの吐き出す熱が伝わって、耳がきいんと遠くなる。雑音は全部置き去りにして、ひたすらに強く、強く水を蹴る。 #速きこと風の

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斜めに持ち上がる海面のを駆けあがる途中で、ざわりと波が崩れた。白い飛沫を挙げて崩壊する海原が牙を剥いて押し寄せてくる。 「――――！！」 ちらりと視界の隅、青黒い波の隙間に見えた白い色合い。同航中の僚艦がこちらを指差し、必死になって叫んでいた。 #速きこと風の

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ごおんと空気を打ち鳴らし、上下をさかさまにするみたいに叩き落とされる波濤。足元の海面が薄くなり、かかとのスクリューが波を踏み抜く。足首まで沈み込んだ主機が軋みをあげた。 けれど、缶の鼓動はなお激しく、全身に漲る熱は収まらない。滾る熱のままに白い蒸気を吐いて叫んだ。 #速きこと風の

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「おっそーーい！！」 撓めた背中を反らして、両足で思い切り水面を蹴り飛ばす。艤装が軋むように揺れ、身体はそのまま波間へと投げ出されていた。 崩れる波から波へ、最高速度で水を蹴り、大荒れの海を疾走するように跳ぶ。 僚艦たちがぽかんと口を開けてわたしを見上げていた。 #速きこと風の

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大きく水柱を上げて着水。傾いだ身体を水面の上に保つ。背中の艤装が邪魔くさくてバランスを取るのも一苦労だ。 数秒遅れて、無線牽引された連装砲たちも 後ろに着水した。甲、乙はどうにか姿勢を保ったものの、丙はみごとに横転して思い切り水をかぶる。すぐさま損害報告が打電。 #速きこと風の

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「連装砲ちゃん、行くよっ！」 もがく丙に復帰命令。不格好にお腹を見せていた姿勢から起き上がる丙が、甲、乙に遅れること７秒半で１２．７ｃｍ砲の火を噴いた。 砲撃は波間を超えて目標に着弾。深海戦艦のぬめる生体装甲板を削り取って、オレンジの火花を散らす。 #速きこと風の

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その時にはわたしはもう、ずっと先の海原を駆けあがっていて。 一緒にいた第六駆逐の皆をはるか後方に置き去りに、敵陣の真っただ中食い込んでいた。 反撃のインチ砲弾が飛び交う中、左右に舵を切って速度を保ったまま艦隊駆動を繰り返し、一気に駆け抜けてゆく。 #速きこと風の

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遅い、遅い、みんなのろまだ。 鼓動が高鳴る。艤装がしゅうしゅうと湯気を上げている。手足に漲る力が波濤を突き抜ける。 「――わたしには、誰も追いつけないんだから！」 そうだ、わたしは速い。風なんだ。 ……速きこと、島風の如し。 絶対、誰にも追いつかれたりしない。 #速きこと風の

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……その日、わたしのいた第１艦隊は、重巡リ級、駆逐ロ級二隻、軽巡ヘ級二隻を含む敵艦隊の副縦陣による包囲網によって大破２、中破１の壊滅的な打撃を受け、母港への帰還を余儀なくされた。 #速きこと風の

銅折葉＠11/28紅楼夢か-14 @domioriha

とりあえずカンを掴むために適当に始めるツイッター連載。#速きこと風の 邪魔になるかもしれませぬのでNG等お願いします。 専門用語とか多いし、自分なりの解釈が固まるまで時間かかりそう。これは慣れんと厳しいな。

銅折葉＠11/28紅楼夢か-14 @domioriha

「最初に言ったよな？　戦列を乱すなって。じゃああの突出はどういうつもりだ、答えてみろ、島風！」 当然のように天龍はおかんむりだった。遠征任務で３隻大破なんて損害を出してしまったのだから怒るのは当たり前かもしれない。 当然、その怒りは原因になった私に向けられる。#速きこと風の

銅折葉＠11/28紅楼夢か-14 @domioriha

「だんまりかよ。なんとか言ったらどうだ、あァ！？」 「…私悪くないもん。みんなが遅いのがいけないんだから」 「てめっ……！！」 素直に思ったことを口にした途端、思いっきりぶん殴られた。正座なんかさせられてたので避けられない。避けちゃいけないからこうしてるんだけど。 #速きこと風の

銅折葉＠11/28紅楼夢か-14 @domioriha

そのまま掴みかかってこようとした天龍は、龍田に押し留められる。 「こら、離せ、龍田！　こいつは一辺本気で分からせなきゃダメだ！」 もがく天龍を羽交い絞めにして、あらあら駄目よといつもの調子の龍田。その細めた視線が私を睨み、もう一度やったら容赦しないと告げていた。#速きこと風の

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結局、私の処分は２週間の謹慎で落ち着いた。今回大破した皆の修復が終わって、弾薬や燃料のやりくりが付いて、再出撃の体制が整うまでの時間なので、ほとんどはおとがめなしと言っていいと思う。 秘書艦の北上からこれを聞かされて、また天龍は憤慨していた。 #速きこと風の

銅折葉＠11/28紅楼夢か-14 @domioriha

特別扱いの新型艦。ネームシップにして唯一無二の島風型。私を飾る言葉にはそんなものが並ぶ。 上層部には私のことを気に入っているお偉方が多くて、提督もその意向を無視できないんだとか。前にいた呉ではそのことを妬まれたり羨ましがられたけれど、ここ大湊でも似たようなものだ。 #速きこと風の

銅折葉＠11/28紅楼夢か-14 @domioriha

「分かってるよ、そんなの」 一人、連装砲ちゃんを胸に抱えて溜息をつく。 私だってばかじゃない。座学の成績は中の上くらいだし、机上演習だってちゃんとやってる。 敵を前に駆逐艦が一隻、単独で縦列を離れて突出なんて、沈めてくださいって言ってるようなものだ。 #速きこと風の

銅折葉＠11/28紅楼夢か-14 @domioriha

皆は陣の乱れを直そうとして列を崩し、その横っ腹を深海棲艦に食いつかれた。天龍の判断が遅れていたら、轟沈してた子も居たかも知れない。 分かってる。私がいけないんだってことぐらい。 「……でも、っ」 抑えた手のひらに、ど、ど、と胸の奥で缶の鼓動が響く。 #速きこと風の

銅折葉＠11/28紅楼夢か-14 @domioriha

はやく、はやくと、鋼の鼓動は私を急かす。 艦娘になってからずっと、この鼓動は鳴りやまない。 じっとしていることが苦痛になり、とにかくひたすらに、急かす鼓動のままにどこかを走っていないと落ち着かない。 私の気持ちのはずなのに、心も身体も私じゃないみたいだ。 #速きこと風の

銅折葉＠11/28紅楼夢か-14 @domioriha

ぎゅうっと膝を抱え、そこにおでこをくっつける。抱え込まれた連装砲ちゃんが苦しいと暴れている。 「……うるさい」 自分の胸の奥に文句を言って、膝に顔を擦りつける。私じゃない誰かに向けて、静かにしろと叫ぶ。それでも答えは無く、焦る心が私を衝き動かす。 #速きこと風の

銅折葉＠11/28紅楼夢か-14 @domioriha

はやく、はやく。 もっと、もっと先へ、もう二度と誰にも追いつけないように、と――。 「………っ」 ああ。 私たち艦娘は、みな、こうして、あの暗い海の底に沈んだ、棺桶みたいな船たちの鋳型に、押し込まれているのだ。 #速きこと風の

銅折葉＠11/28紅楼夢か-14 @domioriha

私が駆逐艦「島風」になったのは、半年前のことだ。その日、真っ白な軍服を着て髭を生やした偉そうなおじさん達が前触れもなく私の元に詰めかけ、私には兵器になって深海棲艦と殺し合いができる、唯一無二の素質があるということと、それがこの上ない名誉であると口々に告げた。 #速きこと風の