◇葉鈴野日誌◇

鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

◇葉鈴野日誌◇ #4215tk

鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

◯月×日、晴れ。 この世界に、そして私の家に帰ってきて一日が過ぎた。 今日は時雨と一緒に仕事をしている人たちに歓迎会をしてもらえた。 明日から仲良くやれるよう、がんばろう。 #4215tk

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……「んー」周囲の明るさに、私は目を覚ます。ぼんやりと周囲を見渡すと、綺麗に整頓された部屋が視界に飛び込んできた。どこだっけここ？……ああ、そうか。私の部屋だ。ベッドで寝てると病院に蘇ったのかと勘違いしてしまう。もう復活することなんてないんだから気をつけないと。1 #4215tk

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カーテンを開けると、太陽の光が薄暗い室内を照らした。「おー」私は目を細め、大きく体を広げてみる。日光をより多く浴びれるように。やっぱり空が変わると気分がいいな。うん。私は髪の一筋を蛇に変化させ、頭を掻いて欠伸をした。時雨、もう起きてるかなあ。2 #4215tk

栗なご @kurinago77

黄昏町脱出者は確かにそういう感覚に悩まされそうだ…。 #4215tk

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ふらふらと部屋を出ようとしたそのとき、扉がノックされた。「お姉ちゃん？もう起きてる？」「うん、起きてるよ」聞こえてきた声に、顔が自然と綻んだ。音を立てて扉が開くと、長身の女性が入ってくる。これが私の妹……というと、なんか変な感じだけど……時雨だ。3 #4215tk

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変な感じ、というのは他でもない。肉体的にいうともう彼女の方が年上なのだ。なんでも私が黄昏町に迷っている間、こちらではなんと十年も経っていたらしい。おかげで時雨も二十……まあ、具体的な年齢はいいか。ともかく私より大人になってしまっていた。4 #4215tk

栗なご @kurinago77

成る程、年上の妹…。まあ、それに関しては時雨さんの方に似たような感覚なんだろうなぁ…。 #4215tk

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性格はどうなんだろうな？私の記憶だと、泣き虫で甘えん坊だったイメージしかないんだけど。まあもう社会人なんだし、しっかりしてるんだろうなあ。そんなことを考えていると、お腹がなった。目を丸くした時雨が、くすりと笑う。「うん、お腹空いちゃってるみたいだね」5 #4215tk

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私も思わず苦笑する。朝になればお腹が空くもんだなあ。当然といえば当然なんだろうけど、なんか新鮮。「私、下でご飯作ってくるよ」「え？私も手伝うよ」「それは嬉しいけど、お姉ちゃん」「なに？」「まず何か服を着て」……あ、すっかり忘れてた。どうしようかな、服。6 #4215tk

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……一階、居間。テーブルに並べられた豪勢な食事に私は目移りしてしまう。食パン、目玉焼き、サラダ、フルーツ。この辺りは定番としても、分厚いベーコンやらウインナーやらお肉も多い。うーん、美味しそう。「まず、服はどうするか考えないとねえ」時雨の声に私は顔を上げる。7 #4215tk

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「別にいいよ。こういうのがあれば」そう言うと、なぜか時雨は微妙な顔をした。「お姉ちゃんはそれでよくてもさ……ほら、これから一緒に働く人には男の人もいるんだし」「それが？」なにを気にしてるんだろう、この子は。首を傾げると、時雨は深い溜息とともに顔を覆ってしまう。8 #4215tk

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ちなみに今私が着ているのは、黄昏町でなんやかんやあって手に入れた……いわゆるビキニアーマーである。これが存外便利なのだ。なかなか壊れないし、軽いし、何より異形の邪魔にならない。正直に言うと、今の私にはちょっと余計なものがつきすぎているので普通の服が着れない。9 #4215tk

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私が黄昏町からこの世界に帰還するにあたり、手に入れた異形は次のとおりだ。蛇に変化できる髪。左右に開く額の三ツ目。これはまあいいとしても、立っていても地面につくほど長い鬼の腕や竜の尻尾、それぞれ肩と腰から生えた二対の黒翼などは普通に生活する分にはかなり邪魔だ。10 #4215tk

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詰まるところ、今の私はファンタジーから飛び出してきたなんかの魔神のような有様になっている。いくら血の繋がった関係とはいえ、時雨はよく私を受け入れてくれたと思う。……私が住むことになるこの町では、自分の異形を気にしなくてもいいというのが唯一の救いか。11 #4215tk

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「町全体を押収だなんて。ずいぶんお金があるんですね、轟さんの研究チームは」ベーコンをかじりながら私は言う。時雨が寂しげに笑った。「仕方ないよ。元々の住人は、ほとんどが『神隠し』に巻き込まれちゃったから」どうにも現実離れした話だ。が、事実である。12 #4215tk

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初めてこの家……もともと私たちが住んでいた自宅に戻り、まず最初に時雨が説明してくれたのがそれだ。なんでも、彼女がちょうど修学旅行でここを離れている間に大規模な『神隠し』現象が発生、町に住んでいた住民すべてが消失するという事件が発生したのだという。13 #4215tk

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轟さんの所属する機関とやらは、その異常性に目をつけ調査を開始。この惨状を野生動物の仕業とする偽装情報を公開した後、真の原因の解明に急いだのだという。その結果わかったのが黄昏町の存在だ。黄昏時に人を飲み込み、怪物に変えていくあの魔境。私が百日以上彷徨った所。14 #4215tk

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父さんと母さんは。昨夜何気なく聞いた質問に、時雨は黙って首を横に振った。彼らはまだ戻ってきていないのだという。まだ町の中で迷っているのか、あるいは既に怪物と化したか。結局はそういうことだ。「寂しい思いをさせちゃったね」私はぽつりと呟いた。15 #4215tk

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「お姉ちゃんが気にすることじゃないよ」時雨は静かに答えた。「誰が悪いってこともない。災害だもの。……お姉ちゃんだけでも、戻ってきてくれてよかった」私は、時雨の視線を受け止める。「私の方も、待ってくれる人がいてよかった。私は、とても、運がいい」16 #4215tk

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食卓に沈黙が広がる。ああ、こそばゆい。時雨の目に涙が浮かんできてる気がするし……「ご飯食べよう」私は空気を変えるように明るく言った。「せっかく時雨が作ってくれたのに。冷めちゃうよ」「あ……う、うん！そうだね！」目元を拭った彼女が、サラダに箸を伸ばす。17 #4215tk

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私はウインナーを口に放り込む。うん、美味しい。ちょっと味が薄い気もするけど。クロハくらい味が濃いと文句ない……いや、何考えてるんだ私は。忘れろ。あれは事故だ。くそ、嫌でも記憶に残るなあいつ。「ところでお姉ちゃん、今日の予定なんだけど」「むぐっ、はい？」18 #4215tk

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慌てて口の中のものを飲み込む私を見て、時雨がくすりと笑った。「ごめんね、食べてるとこ。……今日のお昼、これから仕事をするみんなと食事会を開こうと思って」「仕事」私は呟き、昨日のことを思い出す。あの隊長さんとか、一緒にいた無口なやつとかのことだろうか。19 #4215tk

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「その、お姉ちゃんがまだ疲れてるとかだったら、無理しなくていいよ？私が予定をずらすようお願いしておくから」気を使ってくれているらしい時雨に、ちょっとだけ目頭が熱くなる。いい子だなあ。「大丈夫だよ。この格好で行っていいんだよね」「え……うん、まあ、うん……」20 #4215tk

柊 @hiiragi_r_t_d

葉鈴野日記！新タイトルだ！ #4215tk