科学が科学でなくなる時

その分野の専門家が皆口をそろえてよいことしか言わず、専門外からの批判には「専門家じゃないでしょ」と一蹴する分野があれば、それは科学ではなくなっている恐れがある。分野全体で「反証可能性」を失っているからだ。
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shinshinohara @ShinShinohara

京都賞の第一回を受賞したポパーは、科学の捉え方に一大転機をもたらした。ポパー以前、科学は絶対に正しいと思われていた。科学的に立証されたと言われればもはや疑いの余地のない真理だと信じられた。ところがポパーは「疑いの余地を残さないものは科学的でない」と、まるで逆のような話をしたのだ。

2015-11-27 18:31:05
shinshinohara @ShinShinohara

ポパーは「反証可能性」という考え方を提示した。「その法則を否定することができる実験方法を提示しないなら、それは科学ではない」というのだ。たとえば「幽霊は存在する」という主張は、幽霊が存在しないことを証明する実験方法がない。だから科学的法則としては認めない。

2015-11-27 18:34:43
shinshinohara @ShinShinohara

しかし例えば万有引力のように「すべての物体は地面に向かって落ちる」という法則は、実際に落として空中に浮かぶモノを見つける実験を行えば、否定することができる。そしてその実験を繰り返した結果、今のところ、万有引力を否定する結果は出ていない。だから科学的な法則として認められる。

2015-11-27 18:36:49
shinshinohara @ShinShinohara

興味深いことに、万人が科学の法則として認めている万有引力でさえ、いまだに「反証可能性」を残している。重さのある物体が落ちずに空中をさまよう現象さえ確認できれば、今日にでも万有引力の法則は否定される。「いつでも否定することが可能」という反証可能性が残されている。

2015-11-27 18:38:36
shinshinohara @ShinShinohara

すでに科学的法則としてみんなが認めていても、常に「いや、違う」と否定するデータを提示できる状態を続けている(反証可能性が残されている)。科学の法則は、「いつでも否定的なデータが出たら否定してもらって構いませんよ」という横綱相撲のような構えが必要なのだ。

2015-11-27 18:40:11
shinshinohara @ShinShinohara

東日本大震災前の原子力は、分野として「反証可能性」を失っていた。専門家は(ごくわずかな例外以外は)みな原子力のいい面しか語らず、マイナス面を語ろうとしなかった。専門外からの批判には「あなたは専門家じゃないでしょ」と一蹴。分野全体として反証可能性を失っていた。

2015-11-27 18:43:12
shinshinohara @ShinShinohara

専門外からの批判は受け付けない。しかし専門家になってしまうとその業界の利害に絡めとられてしまって批判ができなくなってしまう。まれに批判者が専門家から出ても「あいつは変わり者だから」と矮小化される。こういう構造があると反証可能性を失い、分野全体として科学ではなくなってしまう。

2015-11-27 18:45:09
shinshinohara @ShinShinohara

「いつでも挑戦を受けますよ」という反証可能性を残した法則だけが、科学的法則として承認される。これはぜひ、一般の方にも覚えておいていただきたい。他方、もう一つ重要なこと。反証しようというあまたの検証を経て生き残った法則は、やはり正しいと信じてよい。むやみに否定するのは良くない。

2015-11-27 18:52:08
shinshinohara @ShinShinohara

昨日も今日も、物体は地面に向かって落ちた。明日もそうだろう。万有引力を否定するデータが出ていないなら、むやみに疑ったり否定するのは良くない。疑問に思うのは、疑問に思うきっかけがあった時だけでいい。ただ、疑問を持つきっかけがあった場合、その思いを打ち消してはならない。

2015-11-27 18:58:41
shinshinohara @ShinShinohara

疑問に思うきっかけが得られたということは、新たな大発見につながる可能性がある。そのチャンスを逃すべきではない。ただ、反証可能性の検証を常に受け続けてきた法則を、きっかけもないのにむやみに疑うのはエネルギーの無駄。そういう、中途半端に思えるような姿勢こそ、科学的だとポパーは言う。

2015-11-27 19:00:22
shinshinohara @ShinShinohara

科学がこれまで見つけてきた法則はすべて「仮説」なのだ。だからいつでも否定される可能性がある。ただし、あらゆる反証可能性をくぐり抜けてきたしぶとい「仮説」だ。だから、ほぼ信じてよい「仮説」なのだ。しかし仮説だから、否定されることもあり得る。

2015-11-27 19:02:12
shinshinohara @ShinShinohara

科学は絶対ではない。科学が見つけてきた法則は、すべて仮説にすぎない。ただしほぼ信じてよいと言えるほど、信憑性の高い仮説。 ポパーがそれを論証したことで、科学は大きく変貌した。批判者の存在を許さなくなれば、その分野は科学ではなくなることを示したのだ。

2015-11-27 19:04:22
shinshinohara @ShinShinohara

少数意見の存在を否定してはいけない。新しい発見につながる可能性を摘んでしまうことになる。反証可能性をいかに担保するか、それにその分野が努めているかどうか。それが科学的かどうかのバロメーターになる。

2015-11-27 19:06:13