【世界を見通す優しき瞳】

魂の安らぎは、苦難の道を進むことで得られる
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雪花艦隊英雄伝 @DD_LUNAKICHI

あらすじ 若き日の菊月、そして彼女と親しくする一人の男。二人は強い絆で結ばれ、結婚の約束もしていたのだった しかし、ある日の戦い。男は命を落とす。誰もいなくなった執務室に残されたのは、一対の指輪。その片方を着ける人間は、今はこの世にはいない

2015-11-30 19:10:24
雪花艦隊英雄伝 @DD_LUNAKICHI

数年後、菊月は新たな司令部、雪花艦隊の一員となり生活していた。ある日ふと思い立った菊月は瑠奈花に休暇を貰い、かつてトゥンヌスと名乗る深海棲艦と対峙した海域を一人訪れる…

2015-11-30 19:11:14
雪花艦隊英雄伝 @DD_LUNAKICHI

菊月は静かに、座礁し古錆びた軍艦の艦首に降り立った。この軍艦の名は「菊月」。奇しくも、今そこにいる艦娘“菊月”と同じ名前である。「菊月」の艦首は、まるで通り雨にでも遭遇したかのように濡れ、水が滴り落ちている。菊月は目を閉じて精神を研ぎ澄まし、「菊月」と自分の意識をリンクさせた

2015-11-30 19:13:59
雪花艦隊英雄伝 @DD_LUNAKICHI

菊月がここに来るのは初めてではない。一度は、第二次SN作戦。そしてもう一度は、菊月がまだ雪花に来る前のことだ。当時菊月は、かつての彼女の司令官である森という男と共にある輸送船に乗っていた。輸送船は、深海棲艦の襲撃を受けて沈没、菊月は森司令官を連れて間一髪脱出し、ここにたどり着いた

2015-11-30 19:16:18
雪花艦隊英雄伝 @DD_LUNAKICHI

軍艦「菊月」に宿った魂と自身には繋がりがあることを知ったのもこの時である。その後、追っ手の駆逐ロ級に襲われ森司令官は死亡、菊月は救助され辛くも生き残った。森提督と結婚の約束をしていた菊月は、絆の証である一対の指輪をネックレスとして首にかけ、彼の分まで生きると誓ったのである

2015-11-30 19:18:21
雪花艦隊英雄伝 @DD_LUNAKICHI

トゥンヌスとの戦いで久しぶりに「菊月」を訪れた彼女は当時のことを思い出し、別の機会にまたここに来ようと考えていた。こうして、今再び因縁の地を訪れた菊月は、過ぎ去りし過去に思いを馳せるのだった

2015-11-30 19:19:17
雪花艦隊英雄伝 @DD_LUNAKICHI

菊月は座礁した「菊月」の内部へ入ってゆく(※注釈:この「菊月」は現実世界の「菊月」とは些か異なる)。外観こそ朽ち果ててしまっているが、内装は意外と形として残っていた。といっても、そこら中が錆び付き、どこからか植物が生え、腐った水が溜まっているという見るも無残なものではあったが

2015-11-30 19:20:44
雪花艦隊英雄伝 @DD_LUNAKICHI

菊月は両手をいっぱいに開いて深呼吸をした。お世辞にもいい空気とは言えないが、菊月の魂の拠り所たる「菊月」は、彼女にとって何よりも心安らぐ場所なのである。リンク効果により、菊月の脳裏に辺り一帯の様子が映し出される。その時、菊月は何かの違和感を感じた 「…誰かいるのか?」

2015-11-30 19:22:24
雪花艦隊英雄伝 @DD_LUNAKICHI

菊月は辺りを見回す。だが誰もいない。水が滴る音が聞こえるのみである。菊月は再び、「菊月」と意識をリンクさせる。聞こえるのは水が流れる音のみ。水が流れ、やがて一箇所に集まってゆく。そこは菊月の背後だ。振り返った菊月はそこにいたモノを見て驚愕した 「久シブリダナ」

2015-11-30 19:23:36
雪花艦隊英雄伝 @DD_LUNAKICHI

「菊月」の至る所に溜まっていた水が集まり、大きな塊となってゆく。そうして現れたのは、屈強な人間の身体と、駆逐イ級をそのまま頭部にくっつけたような奇妙な深海棲艦。菊月はこいつに見覚えがあった 「お前…トゥンヌスか」 「ホウ!覚エテイタカ。関心関心」

2015-11-30 19:24:58
雪花艦隊英雄伝 @DD_LUNAKICHI

菊月は警戒しつつトゥンヌスを見つめた。かつて強烈なスイトン・ジツに苦しめられた強敵である。菊月は尋ねた 「何故生きている?死んだはずでは。生き返ったのか?ソーサラーのように」 菊月の知るトゥンヌスは、若葉と天龍により既に殺されている。ならばこいつは、一体なんなのだろうか

2015-11-30 19:25:57
雪花艦隊英雄伝 @DD_LUNAKICHI

「ソーサラー…?フム、ソイツノコトハ知ランガ、完全ニ生キ返ッタワケデハナイ。肉体コソ消滅シタガ魂ハ消エズニ済ンダ。コノ魂ニ水ヲ纏ワセ、仮初ノ肉体ヲ得テイルノダ」 スイトン・ジツが死後も役に立つとは、とトゥンヌスは不気味に笑う。菊月は腰に携帯しているロッドに手を伸ばした

2015-11-30 19:27:52
雪花艦隊英雄伝 @DD_LUNAKICHI

「なんにせよ、放ってはおけないな」 菊月はロッドをトゥンヌスに向けた 「オイオイ、ソンナ棒切レデ我ト戦ウツモリカ?」 「ああ。「菊月」を無駄に傷つけたくないのでな。イヤーッ!」 菊月は素早くトゥンヌスに近づき、その頭をロッドで薙ぎ払う!バシャン!と水を叩いたような音が鳴る

2015-11-30 19:30:13
雪花艦隊英雄伝 @DD_LUNAKICHI

だが、ロッドで殴られたトゥンヌスの身体は水しぶきをあげて飛び散り、再び元の姿に再生してしまった 「ハハハ、無駄ナコトヨ。水デデキタ我ガ身体、イクラ叩コウガ痛クモ痒クモナイワ」 「くっ…」 菊月は距離を置いてトゥンヌスを睨む。これでは不死身も同然、菊月は対処を考える

2015-11-30 19:32:13
雪花艦隊英雄伝 @DD_LUNAKICHI

「マアマテ、武器ヲシマエ。オマエト戦ウツモリハナイ」 「なんだと?」 菊月は聞き返す。戦意がないとはどういうことか 「我ガココニ現レタノハ、オマエヲ殺スタメデハナイ。オマエニ伝エルコトガアッテ来タノダ」

2015-11-30 19:33:46
雪花艦隊英雄伝 @DD_LUNAKICHI

「伝えること?」 「ソウダ。オマエハコノ軍艦ニ宿リシ魂ヲ受ケ継グ人間。ココニアル「菊月」ノ魂ハ、水ニ溶ケタ氷ノヨウニ星全体へ広ガリ、ソノ一部ガオマエトイウ依代ヲ見ツケ、憑依シタ」 「ではこの力は」 「菊月」と意識をリンクさせる謎の力、それがどういうものなのか、菊月は知らない

2015-11-30 19:38:28
雪花艦隊英雄伝 @DD_LUNAKICHI

「ツマリソウイウコトダ。ソシテ、オマエハソノ能力ノ半分モ使エテイナイ。「菊月」ノ魂ニ直接触レルコトデ、オマエノ力ハ完全に覚醒スルノダ」 トゥンヌスは芝居めいた仕草と台詞回しで、まるで演説でもしているかの如く語る 「覚醒…だと?」 「ソウダ、我ガソノ手助ケヲシテヤロウ」

2015-11-30 19:40:00
雪花艦隊英雄伝 @DD_LUNAKICHI

「貴様、何か企んでいるのではあるまいな」 菊月は警戒する。なにしろコイツは、かつて死闘を演じた恐るべき敵。自身の力と「菊月」のことは菊月自身も興味があるが、余りにも怪しすぎる 「ノンノン!戦意ハナイト言ッタデハナイカ!ソレニオマエトシテモ悪クナイ話ノハズダ」

2015-11-30 19:41:42
雪花艦隊英雄伝 @DD_LUNAKICHI

「「菊月」ノ魂ニ触レルトイウコトハ、「菊月」本体ト話スコトモデキルカモシレナイノダゾ」 短い思考の後、菊月は答える 「…「菊月」の魂とやらはどこにある?」 「話ガ早クテ助カル。コッチダ」 トゥンヌスは「菊月」の更に奥深くへ進んでいく。菊月もその後を追いかけた

2015-11-30 19:42:39
雪花艦隊英雄伝 @DD_LUNAKICHI

駆逐艦「菊月」・機関部 「ココダ」 菊月は、かつての機関部であろう一画まで案内された。「菊月」の心臓たる機関部には植物が絡みつき、既に自然に飲まれつつあった 「「菊月」ノ魂ハ機関部ノ中ダ。手ヲ伸バシテミロ。我ハ無理ダッタ」 「無理だと?」

2015-11-30 19:45:24
雪花艦隊英雄伝 @DD_LUNAKICHI

「オソラク「菊月」自身ガ、オマエ以外ノ存在ヲ拒絶シテイルノダロウナ」 菊月は怪しんだ。やけに詳しいなと感じながら、菊月は機関部に近づく。最早自然の一部と化した機関部は菊月の前に堂々とそびえ立った。初めて見るものだが、どこか懐かしさを感じる。菊月は機関部の中の狭い空間に手を伸ばす

2015-11-30 19:47:16
雪花艦隊英雄伝 @DD_LUNAKICHI

「う…ここは?」 気がつくと菊月は、何も無い真っ白な空間にいた。周りを見渡しても何も無い。上も下もわからない謎の空間だった 「菊月」 自分の名を呼ぶ声に、菊月は振り返る。そこには威風堂々とした、無精髭の男が立っていた。菊月は思わず目を疑った

2015-11-30 19:50:45
雪花艦隊英雄伝 @DD_LUNAKICHI

「森…司令官?何故貴方が…貴方はもう…」 その男は、かつての菊月の婚約者。今は亡き森幸久司令官。菊月はこの状況を飲み込もうと必死に思考を巡らせる 「…私が死んだのか?」 「はは、まさか。君と再会するには早すぎるだろう」 森は笑いながら答えた

2015-11-30 19:52:02