駆逐艦竹の見た第七次多号作戦

松型駆逐艦2番艦　竹改 Lv. 143 @43dg_bamboo

前に第五次オルモック夜戦の事を話したと思うんだけど、あたしはあれで満身創痍の状態でさ、11月26日から昼夜兼行の修理を受けて、どうにか再出撃の用意をしたんだ。第五次オルモック夜戦で生き残ったあたしと第9号輸送艦は、今度こそ絶対輸送を成功させるんだ、って決死の覚悟をしたもんだよ

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あたしの方は、負傷して入院してた乗組員のみんなも戻ってくるし、艦長だった宇那木少佐もとっておいた酒を乗組員みんなに椀飯振舞してたし、生きて帰らぬ決死の覚悟、ってのが強く出てたのを覚えてるよ

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桑「この時、輸送艦各艦に司令部の旗艦参謀が回って「任務を果たさないまま帰ってくるんじゃない」って説いて回ってたそうよ。追い詰められて焦ってたのかしらね」　竹「そうだったのか……あたしの所には来てなかったから知らなかったよ」

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まあ、とにかく翌11月30日にあたしと桑が護衛を務める第七次多号作戦第三・第四梯団がマニラを出撃した訳だ。ちなみに先発の第一梯団と第二梯団は陸軍の機動艇が行ってて、第二の方は到着した事までしか分かんないけど、第一の方は揚陸に成功して無事に帰還したそうだよ

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あたしら第三・第四梯団は第五次多号作戦の生き残りだったあたしと第9号輸送艇に加えて第140号・159号輸送艇と、護衛に桑が加わった5隻体制だったな。一等輸送艦の第9号に比べて二等輸送艦の第140号・第159号は速力に劣る代わりに艦首がスロープになっていて揚陸は容易だったらしいんだ

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さて、出港してからオルモック湾に到着するまでの間、あたしらは空襲一つ受けずに航行できたんだ。後で知ったけど、あの時夜間戦闘機の月光が周りのアメリカ艦を妨害してたりしてたみたいなんだ。少なくともあいつらに対しては、さ

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桑「多分それ、オルモック湾に向かってたあの三隻に爆撃や機銃掃射してた部隊だと思うわ。魚雷艇狩りをするつもりが、それより大物を見つけて排除しようとした、ってところかしらね。まあ、魚雷艇用の爆弾で至近弾だったみたいだし、小破止まりだったみたいだけどね」

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ともかく、あたしらは無事にオルモック湾に到着して、輸送艦三隻は接岸して揚陸を開始したんだ。あたしと桑は警備に当たってたんだけど、あたしに乗ってた陸軍の参謀とかと入れ替わりになって二水戦の参謀や司令部員、それに島風の沈没時の艦長も便乗してきたんだ。島風の上井中佐は担架で担がれてたな

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桑「警備の配置は、私が湾口側に当たる南側を担当したわ」　あたし「あたしの方は桑よりもうちょっと北の方だったな」

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桑「警備を開始してしばらく経ってからかしら、南の方から黒い船影が見えて、よく見たらアメリカの駆逐艦だったわ。今になって調べたら、あれはアレン・M・サムナー級のアレン・M・サムナーとモール、クーパーの三隻だったみたいね。見つけてすぐ、私は竹に発行信号で知らせたわ」

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桑「向こうの艦艇団は私達を見つけるとすぐさま攻撃してきたわ。私は湾の一番外側にいたし、輸送艦を攻撃から守るために応戦したわ。でも、向こうの砲撃は夾叉が続いて……きっと電探射撃でもしてたのね。あたしは集中砲火を浴びて、悔しいけどそのまま炎上沈没したわ。多分10分も持たなかったわ」

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あたしも桑から発光信号をもらってすぐに砲撃体制に入ったよ。桑が沈んでからはもちろんあたしも狙われたね。ただ、レイテの山を背にしてたから電探の電波が反射干渉して精度がガタ落ちだったんだろうね、弾着も桑の時よりは不正確だったよ

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向こうは雷撃を警戒してるのか、単横陣でこっちに向かってきてた。あたしは右舷をそいつらに向けて雷撃の準備に入ったんだ……とはいっても、実はオルモック突入の寸前に魚雷発射管の点検をしてる時に魚雷を一本落としてて、予備を積んでない松型のあたしの手元には三本しか残ってなかったんだけどさ

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海岸線が近いからうっかり座礁しないように、って気を付けながらあたしは砲撃を続けつつ雷撃の機会を狙ってたんだ。ただ艦首主砲の12.7cm単装高角砲の光が思ったより強くて狙いがつかなかったんだ。しかもどうにか目を馴らして撃とうとしたら、今度は電気関係が故障してて発射管が作動しないんだ

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第五次作戦で吹っ飛んだままジャイロコンパスなしでだったから、自分がどこにいんのかを把握するのはかなり難しかったよ。そんなこんなで次の雷撃のチャンスが来たんだ。この時は手動で魚雷を発射したんだ。まず二本、それから一本だったと思う

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しばらくして、敵の一隻が火花を上げて真っ二つに沈んでいったんだ。クーパーにあたしの撃った魚雷が命中したんだ。聞いた話だと、それ以降日本の艦艇で敵を沈めたのは潜水艦しかいない、ってことらしいよ

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知っての通り、酸素魚雷は空気式魚雷の中では航続距離も長いし、排気ガスが水溶性の二酸化炭素だから泡で軌跡が見えないんだ。お陰でクーパーを撃沈された残りの駆逐艦二隻は、近くに潜水艦でもいるんじゃないか、って勘違いしたんだろうな。そのまま反転して脱兎のごとく南に逃げてったよ

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桑「確か、クーパーの生存者はその日の午後になって魚雷艇と飛行艇で救出されてたと思う。それまでの漂流中、私の乗組員と英語で会話した人もいる、って記録がアメリカには残ってるそうなんだ」

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そんな感じで輸送艦に被害が及ばないうちに敵を追っ払った訳だけど、戦闘中にあたしの方も被弾してて、前部機械室にどんどん水が入ってくるんだ。結局30°くらい左舷に傾いたかな。復水器はその浸水した前部機械室にしかなくって、缶に入れる水も確保できない状態だったんだ

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最悪浅瀬に乗り上がって砲台になろうか、とも考えてたんだけど、幸い命中した弾は不発弾だったし、右舷側の機関はまだ使えたんだ。これなら海水を焚いて誤魔化し誤魔化し行けば、セブくらいには着けるんじゃないか、ってさ

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そんな事を考えてたら、第9号輸送艦が揚陸完了の報告を入れてきたんだ。だったら第9号から真水を分けてもらえんじゃないか、って思ったあたしは片舷だけでどうにか第9号に横付けして、ポンプで水を補給してもらったよ。その間にあたしが航行できそうにないと思った二水戦参謀は第9号に移乗したよ

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次に第140号が荷役終了の報告をくれたから、あたしは桑の救助を頼んだよ。あたしはあのざまだったから。でもまだ敵がいるとまずいから探照灯は使えない、しかも夜明けまで2時間しかない状態だったから、まともに救助はできそうになかった

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最後に第159号が揚陸を終えて湾口に向かった時、もうこれ以上は船団が危険だ、って思って出港を決断したよ。もしあたしの被害がもう少し小さければ桑の乗員を救助できたかもしれないってのに……オルモックの基地司令官に大発の手配は頼んだけど、結果的にあたしが桑を見捨てたのには違いないよ……

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桑「竹の手配した大発が私の所の生存者を救出できたのか、はっきりとは覚えてないの。でも、数人は自力で陸に上がってたと思う。それに出港する船団の最後尾にいた第140号輸送艦がカッターを下ろして8人救出してくれたわ……後の人は、私と同じように……」

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オルモックを出て夜が明けた頃、ゼロ戦が直掩に来てくれて、レイテ島西部の航行の間一緒にいてくれたんだ。ただ、そのゼロが去ったあと、正午前頃に今度は米軍の大型機が一機寄ってきたもんだから、傾斜状態のまま砲をぶっ放して追っ払ったんだ