スペース飯

以前まとめてもらってたものから自分のツイート周りだけ取り出しました
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kyu190a @kyu190a

(ヽ´゜ω゜)コックピット飯が出たんだしスペース飯も早くやらないと(錯乱

2015-10-14 09:57:06
渡辺さん @wiwawiwiwowe

強烈なフレアの影響で航行装置がいかれて遭難してから、すでに2週間が経った。幸いにも純水供給システムと食料プラントは無傷なので生き延びるだけなら問題ないだろう。あとは救難信号を誰かが拾ってくれるまで待つだけだ。 ただ、一つ問題がある。 食料プラントから出てくるレーションが旨くない。

2015-10-14 10:05:16
渡辺さん @wiwawiwiwowe

4週間が経った。いい加減、この肉とも魚とも高野豆腐ともつかない塊を食べ続けることが苦痛になってきた。 人体に必要な栄養素がそろっているのだから生物としてはこのレーションを旨いと感じるはずだ。そう感じないのは食感、香り、そして背徳感に欠けるからだろう。 解決策は、ある。積み荷だ。

2015-10-14 10:10:30
渡辺さん @wiwawiwiwowe

5週間が経った。配送の期日に間に合わないことも確定した。もはや暴走する野生を止める理性は存在しない。 船外作業服を着込み極寒の荷室に乗り込む。今回の荷物は食品ばかりのはずだ。手っ取り早く一番手前のコンテナを開けるとパッケージされた穀類、いや、これは香辛料だ。いきなり大当たりだ。

2015-10-14 10:22:34
渡辺さん @wiwawiwiwowe

次のコンテナだ。 (肉、魚、卵…) 誰にともなく祈りながら扉を開ける。荷主以外の侵入を警告が表示されるが無視だ。むしろ警告するほどのものが納められていることに期待が高まる。 ゆっくりと左右に振るライトに照らし出されたのは… 「ベーコンじゃないか!」 思わず声をあげてしまった。

2015-10-14 10:30:32
渡辺さん @wiwawiwiwowe

まだまだコンテナはあるが唾液が溢れてきたのでひとまず撤退だ。ベーコン1ブロックと胡椒を1袋をもってキャビンに戻る。 そして自然解凍を待つ間に調理の用意だ。包丁なんてないので船外活動用の大型ナイフ。最初から船についていたけれど一度も動かしていない船内調理機もテストしなければ。

2015-10-14 10:41:53
渡辺さん @wiwawiwiwowe

船内調理機は無事に動き出した。予熱している間に胡椒をナイフの柄で潰し、分厚く切り分けたベーコンに擦り込む。まだ冷たいがだいぶ柔らかくなってきた肉に期待が高まる。 (あのレーションにベーコンの脂を吸わせたらどうだろう?) 最高の思い付きだ。小躍りしながらレーションを取り出す。

2015-10-14 10:46:37
渡辺さん @wiwawiwiwowe

肉の焼ける匂いが船内に立ち込める。溶けだした脂がレーションに染み込み、いつもの餌がご馳走に見えてきた。 我慢できず熱いままの肉の塊に直接かぶりつく。 「…旨い」 涙が出てきた。肉の旨みが刺激となって唾液がとめどなく溢れる。 過剰な塩、過剰な脂、そしてきつい香辛料。これぞ、食事だ。

2015-10-14 10:51:18
渡辺さん @wiwawiwiwowe

「こうやって食べるとレーションも悪くないな」 自然と感想が口をつく。もともとスポンジ状なだけにベーコンから溢れた脂を余すことなく吸っていた。微かな甘味も程よいアクセントだ。 「体には絶対悪いが、旨い食事ってのはそういうことだよな」 久しぶりの人間の食事はかつてない天上の味だった。

2015-10-14 10:56:53
めがねねこP @FakeFalcon

「船は航路を外れて漂流中……救援要請は送った……救助が来るのは2ヶ月後……積み荷は食料だから飢え死にの心配はない……でも…………あー、ラーメン食いてぇ……」から始まる無重力下でのラーメン作り漫画をですね……

2015-10-14 11:08:49
渡辺さん @wiwawiwiwowe

隣の惑星までラーメンコンベンションの食材を届ける。いつもの仕事だった。少し違うのは荷物を届けた後に休暇を取ってラーメンを満喫するつもりだったこと。とはいえこれは事故とは関係ないはずだ。どこかの馬鹿が別の宇宙船と接触してばら撒かれたパーツが流星のごとく降り注いだのとは関係ない。

2015-10-14 11:25:51
渡辺さん @wiwawiwiwowe

目的の星がみるみるうちに離れていく。絶望するしかない。 事故はレーダーが捕捉しているだろうからいずれ救援が来るはずだ。それよりもラーメンが食べられそうになくなったことが、とにかくつらい。 とりあえず損傷個所の把握と応急処置、可能なら最低限の航行能力の回復をしなければ。

2015-10-14 11:29:48
渡辺さん @wiwawiwiwowe

派手な衝撃のわりに故障はそこまで酷くなかった。航行は無理だが宙域にとどまることは可能だろう。 惑星とも通信できた。管制官によると1月後に近くを通る船から支援が得られるらしい。 1か月。その間、ラーメンはお預け。 逃れようのないその事実に目の前が暗くなった。

2015-10-14 11:33:15
渡辺さん @wiwawiwiwowe

今回は純然たる事故だ。 ということは荷物に保険が利くし、船の修理費も賠償金で何とかなる。 「なんだ、荷物、開けても問題ないじゃないか」 自分の中の悪魔がニタリと笑った。 コンテナの中は半調理済みのラーメン。全部載せ、いや、飽きるまで具材を追加するラーメンバイキングだってできる。

2015-10-14 11:38:04
渡辺さん @wiwawiwiwowe

「ほう、これはこれは…」 目に入った食材に声が漏れる。 パックに入ったスープ、小分けされた麺、そして叉焼、ネギ、シナチク、ノリなどの冷凍具材。 「これは支那ソバっぽいな…。楽しみにしていた皆さんに悪いことをしてしまうな…」 ニヤケが止まらない。一人ラーメンコンベンション開催だ。

2015-10-14 11:45:20
渡辺さん @wiwawiwiwowe

シンプルな魚介系の出汁の匂いが船内をラーメン屋に染め上げる。 目の前には麺を茹でる鍋とお代わり用の汁の鍋。そして左右にありとあらゆるトッピング。 「まずはシンプルに」 汁と麺だけでいただく。普段なら逆に贅沢すぎてやらない食べ方だ。 次はネギを足す。スープを飲み干し追加して、ノリ。

2015-10-14 11:49:37
渡辺さん @wiwawiwiwowe

一通りトッピングを試したところで一つの問題に突き当たった。 煮玉子が、ない。 しまった、玉子は現地で生産しているから積んでいなかったのか。 半熟の玉子を割ってシンプルな支那ソバのスープにこってりした黄身を加えることができないなんて! 4杯目をすすりながら天を仰いだ。

2015-10-14 11:53:13
渡辺さん @wiwawiwiwowe

ないものはないのだ。 この悲しみは無事惑星に着いたときに存分に玉子をトッピングすることでしか晴らせない。 悲しみを胸に叉焼を麺が見えなくなるほど盛った5杯目を平らげた。 救助まであと29日。300食はいける。玉子がないのは残念だが、ここは天国に最も近い場所かもしれない。

2015-10-14 11:58:00