- entry_yahhoo
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#1
「オーライ!オーライ!」鹿屋基地港湾部。そこには一隻の輸送船が停泊していた。船から降りた乗組員と、基地に控えていた作業員達が協力して積荷を降ろしていく。「コイツは」「工廠に持ってってくれ!」「あいよ!」フォークリフトが荷物を受け取り、運んでいく。積荷には「鎮守府」のショドー。 1
2015-12-08 21:11:47これらの積荷の中身は、南方の資源基地から運ばれてきた様々な物資である。鹿屋基地に於いて必要な物と各地に分配するべきものとで分け、鎮守府運営の株式会社が物資を様々な国や地域へ振り分ける。鎮守府の任務の一つだ。 2
2015-12-08 21:18:06そんな積荷が運ばれていく光景を眺め、一人の少女が船のタラップから降りてくる。髪は赤。白いワイシャツの上に黒いベストと黒いスカート。そして目を引く、特撮ヒーローめいた仰々しいバックルを備えたベルト。少女は港に降り立ち、手にしたくしゃくしゃのメモをみた。「えぇと」 3
2015-12-08 21:21:08少女はメモに目を落としたまま、ふらふらと歩き始める。「何て読むんだこれ…り、りか?りちゃーど…?」メモの内容を見、ウンウンと唸る少女。前方への注意を完全に怠った、その時。ドンッ!「グワーッ!」「グワーッ!」鈍い衝突音と、少女と男の悲鳴が響いた。「イタタ…」少女は立ち上がる。 4
2015-12-08 21:27:17立ち上がり、少女はぶつかった男を見た。そして声をかける。「大丈夫か?」「テメッコラー!何処見て歩いてやがる!」男はヤクザスラングを叫び跳ね起きる!逞しく捲り上げたその両腕には桜の入れ墨!ヤクザ上がりだ!「いや、よそ見してたのは謝るって」「ナマッコラー!」ヤクザ男は少女を睨む! 5
2015-12-08 21:32:21男はポケットに手を突っ込み、卑劣武器ナックルダスターを取り出す!「ナマルベッケロアー!女だからって許すわけねぇだろコラー!」男はそう言い、カラテを構える。少女は知らないが、この男の名は野次。嘗ては海軍元帥であったが、先の本土防衛戦で部下の信頼を失い失墜した男だ。 6
2015-12-08 21:38:55元の荒々しい性格により元帥と大将の狭間をうろつく男であったが、本土防衛での失墜を契機とし、今や日雇いの荷運びにまで落ちぶれた。故に彼が鎮守府に抱く恨みは極めて大きい。彼はこのウカツな少女をこのまま殴ってやろうと考えた。そうすればどうなるかを考えれぬ程、彼は落ちぶれていた。 7
2015-12-08 21:43:24目の前の艦娘とおもしき少女を殴ればスカッとする。野次の考えは概ねそんなところだ。そして艦娘と言えど少女である。ヤクザスラングで恫喝すれば竦み上がるだろう。だが、野次の浅はかな考えは直ぐに打ち破られた。「何だい。やろうってのか?」少女は水雷カラテを構えた。 8
2015-12-08 21:45:56「かかって来い、この野郎!」少女、臆さず!その行為、何より野次を敵と定めたその瞳に、野路は激昂!「ソマシャッテコラー!イヤーッ!」「イヤーッ!」野次の右ストレートを少女はスウェー回避し、ジャブを顎に叩き込む!「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」右アッパー!「グワーッ!」 9
2015-12-08 21:49:16「イヤーッ!」右フック!野次の左肩を打ち据える!「へっ!」少女は笑う。「グワーッ!ザッケンナコラー!」野次の右ストレート!油断していた少女の左顎直撃!「グワーッ!」しかし少女は顔を歪め、尚不敵に笑う!「畜生やりやがったな!」拳を振り払い、間合いを詰める!「倍にして返すぜ!」 10
2015-12-08 21:54:32「イヤーッ!」下顎狙いの素早いアッパーカット!「グワーッ!」野次がよろける!「イヤーッ!イヤーッ!」その隙にボディ二連撃!「グワッグワーッ!」苦悶!「イヤーッ!」降りてきた下顎目掛け再びアッパーカット!「グワーッ!」再びよろける野次!しかしまだ倒れぬ。妄執が体を支える! 11
2015-12-08 21:58:09「えぇい、面倒だ!」朦朧としたまま立ち続ける野次を見、少女はそう毒づく。「これでノックアウトだ!イヤーッ!」そう言い、少女は飛び掛かる!トビゲリだ!下顎を二回も打ち据えられ、脳を揺らされた野次にはこれは避けられぬ!トビゲリが野次の胸に命中!ワイヤーアクションめいて吹き飛ぶ! 12
2015-12-08 22:02:16KRAAASH!「グワーッ!」野次は為す術無く後方の積荷に直撃!いくつかの積荷の中身をぶちまけて気絶!「あっ」少女はその光景を見、絶句する。怯えるような作業員たちの視線が少女に突き刺さる。「御用!」「御用!」遠くから聞こえる警備兵たちの声。「ヤッベ」少女は逃げ出した。 13
2015-12-08 22:05:20「陽炎型駆逐艦16番艦。艦名『嵐』1939年5月4日、舞鶴にて起工。よく940年4月22日進水。竣工は1941年1月28日。籍は横須賀。同年3月31日に第4駆逐隊、8月1日に第4水雷戦隊に編入。大戦初期に南方戦線、MI、ガダルカナルなど最前線で活躍。戦没は1942年」 14
2015-12-08 22:15:22西日差す鹿屋基地の提督司令室の一室。低い男の声が文章を読み上げる声だけが響く。赤毛の少女は気を付けの姿勢のまま、その言葉を黙って聞いた。目の前の男はサングラスを掛け、書類で口元が隠れており表情が窺い知れぬ。「…奇襲を受け、雷撃で航行不能。最終的には砲撃で撃沈」 15
2015-12-08 22:22:06男は書類を机上に置いた。「そして、艦娘として再び生を受けたのが…」少女は慌てて敬礼する。「は、はい!それが自分であります!」少女は名乗った。「陽炎型16番艦・嵐であります!」「…そこまで畏まらんでもいいぞ?」男はそう言った。そして手を差し出す。「リカルドだ」 16
2015-12-08 22:28:54「アー…」嵐はその手を見、そしてリカルドの顔を見た。リカルドは獣めいて笑った。嵐も笑い、握手を交わした。「陽炎型駆逐艦、十六番艦、嵐だ! 司令、よろしくな!逢えて嬉しいぜ!」「そうそう、そういうのでいいんだ」リカルドはそう言い、嵐の型を叩いた。 17
2015-12-08 22:34:13「しかしまぁ」リカルドは己の椅子に座り、ニヤニヤと嵐を見た。「着任当日に騒ぎを起こすたぁ、成程。俺が任されるわけだ」「あれはあっちから喧嘩吹っ掛けてくるのが悪いんだ!」嵐はそう反論し、備え付けのソファーに腰掛ける。「警備隊と話付けるのに苦労したぜ」リカルドはそう言う。 18
2015-12-08 22:40:08「その件に関しては本当に申し訳ありませんでした」嵐が青褪めながら深々と頭を下げる。野次との喧嘩の後、嵐はあっさりと警備隊の御用となった。無理もない。警備隊とは即ち、地上最強を噂される憲兵隊からの出向治安維持部隊だ。土地勘もない艦娘が叶う相手ではない。 19
2015-12-08 22:43:45「まぁ、あとで長官や葛葵中将にも頭下げとかんとな」「はい…」リカルドは夕日を眺めながらそう言った。何やら喧嘩を吹っ掛けた男はいろいろ面倒な事情を抱えていたらしい。今頃あの二人は机上でああでもないこうでもないと唸っているころだろう。少なくともリカルドはそう思った。 20
2015-12-08 22:50:01「まぁ、過ぎた事だ」リカルドは話を切り替える。「一つ聞きたいんだが」「何を」「お前さん、“オリジナル”だろ?」「…そうだけど?」「ウチの訓示は知ってるか?」「知ってる。『ノーカラテ、ノー艦娘』だろ?」嵐は不思議そうにリカルドを見た。「それがどうしたのさ、司令」 21
2015-12-08 22:55:25