「セーラー服の話」

タグを使ったTwitter小説。 「セーラー服の話」です。 自分の姉が亡くなった。 そして姉の恋人は姉のセーラー服を着るようになった。 そんなある冬の日の姉の恋人と私の話。
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佐和島ゆら@星月堂へようこそ(新作)販売中 @sawajimayura227

美玲へ。 今日もこの町は雪が降っています。 高く積もる雪をあなたは嫌がっていましたね。今はそれとは無縁の生活でしょう。 今は天国で優雅にティータイムなのかな? 不慮の事故死だったものね。 でもあなたの恋人は、今日もあなたのセーラー服を着ていて……私は地獄です。#セーラー服の話

2015-12-08 09:36:16
佐和島ゆら@星月堂へようこそ(新作)販売中 @sawajimayura227

雪道を歩く。2月の雪は日中少し温かくなって溶け出すが、夜間の冷えでまた固まる。 氷雪のようになる。私はざくざくと歩く。自宅の近所には、神社がある。 そこに双子の姉の美玲の恋人だった、安城がいる。男のくせにセーラー服を来て、ダッフルコートを身につけてお参りしている。#セーラー服の話

2015-12-08 12:47:32
佐和島ゆら@星月堂へようこそ(新作)販売中 @sawajimayura227

安城は二十歳。でも成人になっても酒も飲まないしタバコも吸わない。彼の心は一年前からうまくすすんでいない。一年前、美玲はトラックに引かれて死んでしまったからだ。 彼はそれ以来、彼女と待ち合わせをした時間に、待ち合わせの神社で、お参りをしている。 美玲を待っている。 #セーラー服の話

2015-12-08 12:50:32
佐和島ゆら@星月堂へようこそ(新作)販売中 @sawajimayura227

彼はお参りをする時、何故か美玲の制服を身につける。それはもう、嫌がらせなのかとうちの家族や彼の家族からも悲しまれたが、彼は美玲を待っている時は肩があっていない服を寂しそうに着ていた。 彼は手を合わせている。肩に少し雪で濡れていた。 私は名前を読んだ。 「安城」#セーラー服の話

2015-12-08 12:53:13
佐和島ゆら@星月堂へようこそ(新作)販売中 @sawajimayura227

彼は振り向く。はっとしている。それはそうだろう、私と美玲は一卵性の双子だ。 私は美玲と体は同じなのだ。しかし美玲は安城を「あき君」と呼んでいた。 私は呼び捨てにしていた。だから彼は、すぐに目を細める。 「美樹ちゃん。また迎えに来てくれたのか」 私は頷いた。#セーラー服の話

2015-12-08 12:56:34
佐和島ゆら@星月堂へようこそ(新作)販売中 @sawajimayura227

「うちにまた寄るんでしょ。母が、ココアを作っているって」 「僕はコーヒーがいいなぁ」 「私はコーヒーが嫌い。だからココアがいい」 「美樹ちゃんは甘党だね」 「美玲は苦いものが好きだから」 「僕達、舌の相性は良かったんだ」 「……知ってる」 #セーラー服の話

2015-12-08 12:59:51
佐和島ゆら@星月堂へようこそ(新作)販売中 @sawajimayura227

私は缶コーヒーを差し出した。 安城は眉をあげる。 「飲みなよ。体が冷えている」 「ありがとう……ブラックだね」 「ブラックが好きなんでしょ」 「うん。だけど僕、お金をもっていないや」 「いいよ、自分で自販機で買うから」 「ダメだよ」 「だめ?」 「甘えちゃ」#セーラー服の話

2015-12-08 16:20:13
佐和島ゆら@星月堂へようこそ(新作)販売中 @sawajimayura227

私は唇を結ぶ。 「甘えちゃ、って大げさだなぁ」 「君は美玲の妹さんだからね。甘えちゃダメだ」 「それって、具体的にどういうことよ」 「……分からない」 安城の透明な瞳が私を映した。心底困ったような顔をしてる。 あぁ、ここで私が「あき君」と読んだらどうなるのだろう。#セーラー服の話

2015-12-08 16:24:35
佐和島ゆら@星月堂へようこそ(新作)販売中 @sawajimayura227

彼は私の前で崩れてくれるのだろうか。美玲と同じ体の似たような声の、最近髪型までもが似せた私に。私は拳を握って、胸に押し寄せる誘惑に耐えた。 結局私は自分ではちみつレモンを買った。 神社の、雪のかからない屋根の下に行く。こくこくと喉を動かして安城はコーヒーを飲んだ。#セーラー服の話

2015-12-08 16:28:40
佐和島ゆら@星月堂へようこそ(新作)販売中 @sawajimayura227

「冬にセーラー服はきついね。足元がすぅすぅしてしょうがないよ」 「もう、セーラー服を着るのはやめたら?」 「ダメだよ。美玲がわからなくなる」 彼の道理によれば、きっと美玲は死んでしまっているかもしれないけど、もしかしたらただ道を迷っているだけかもしれないという。#セーラー服の話

2015-12-08 16:33:00
佐和島ゆら@星月堂へようこそ(新作)販売中 @sawajimayura227

「セーラー服を着ている彼氏がいたら、きっと美玲でも怒るだろう。きっと背中をばしんと叩いて、何よこの変態なんて言い出すに決まっているよ」 美玲はトラックにひかれて、家族でも見るに耐えられないということで、早々に火葬になった。動転した彼が最後に見た彼女は、骨だった。#セーラー服の話

2015-12-08 16:36:42
佐和島ゆら@星月堂へようこそ(新作)販売中 @sawajimayura227

骨壷に入った美玲を美玲だと、安城は認められなかったのだ。 そうしてセーラー服を着る男になってしまった。 でも……彼は美玲を死んでいることをきっとどこかでわかっていると思う。 それは時間が経つに連れて明白になっていく。彼は過ぎゆく時間に抗うように、お参りしていた。#セーラー服の話

2015-12-08 16:40:24
佐和島ゆら@星月堂へようこそ(新作)販売中 @sawajimayura227

何でそれが分かるかって言ったら。 ある時彼が歯を食いしばっていて。 何だと思ったら。 すごくすごく苦しそうな声で……。 「本当になにもわからないくらい、狂えたら良かったのに……」と言ったからだ。 そう、美玲の墓前で、男の子らしい格好で言う姿を私は知っていた。#セーラー服の話

2015-12-08 16:43:40
佐和島ゆら@星月堂へようこそ(新作)販売中 @sawajimayura227

彼は今、ボーダーラインにいる。現在の時間から落ちて過去と添い遂げてしまうかもしれない。もしかしたら夢から醒めるように歩き出すかもしれない。分からなかった。 私はさえざえとした頭で、急に自分の膝に顔を埋めだす安城を見ていた。 「僕のせいなんだよ」 いつものことだ。#セーラー服の話

2015-12-08 16:46:29
佐和島ゆら@星月堂へようこそ(新作)販売中 @sawajimayura227

「僕があの日、この神社に呼び出さなかったら、美玲は死ななかったんだよ」 「そうなの」 「僕が美玲を殺したんだよ」 「違うよ。美玲はあの近道をたまたま歩いてしまっただけだよ」 「どうしてさ。美樹ちゃん」 「ん?」 「僕を責めないの。君の姉の死んだのは」 「馬鹿……」#セーラー服の話

2015-12-08 16:49:49
佐和島ゆら@星月堂へようこそ(新作)販売中 @sawajimayura227

何度も繰り返された会話、言葉、嘆き、赦し。それでも何度も繰り返されても、私は安城の責められたいという意思を感じると、反射的に怒りが湧いて、憎たらしくなる。彼と自分が。どうしてこんな情けない声の、セーラー服を着ている心の脆い、優しい男を私は好きなのだろうと思う。#セーラー服の話

2015-12-08 16:55:08
佐和島ゆら@星月堂へようこそ(新作)販売中 @sawajimayura227

見離せなくて、でも隣にいたくて、けれど自分の感情を私は言えない。 その感情はささやく。このセーラー服男を手に入れる方法を。 お前が、ただ言えばいい。「あき君」って。 彼はそうしたら呆気無く私のものになるだろう。 彼が私に赦しを乞うのは、美玲と同じ体だからだ。#セーラー服の話

2015-12-08 16:59:11
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彼は美樹である私に、美玲を投影している。 赦しではなく、自分を受け入れて欲しいのだ。 喪った痛みでどうすればいいか分からなくなった、この男は。 そして私は必死に堪える。 彼を、こんな彼を受け入れまいと。その厚みのあるのに心細そうな肩や、伏せた顔の寂しさや諸々を。#セーラー服の話

2015-12-08 17:02:22
佐和島ゆら@星月堂へようこそ(新作)販売中 @sawajimayura227

私は私という人間の誇りをかけても、彼を受け入れない。 だって、そうでしょう。 今のあなたを受け入れても。あなたは私を愛さない。 弱さを受け入れた器として、抱きしめてすがるだけだ。 死んじゃう、そんなことになったら。 死んじゃうよ、安城。 私は彼の頭を叩いた。#セーラー服の話

2015-12-08 17:05:33
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ふたの開けていないはちみつレモンで。 噴き出すような悲鳴が上がった。男の情けない鼻づまりの声だ。 「馬鹿、言っていないで。家に行こう、安城」 「うん……」 「寒いから馬鹿言っちゃうんだよ」 「うん……」 「早く、行こう」 「うん……」 一瞬の間があって。 「ねぇ」#セーラー服の話

2015-12-09 12:40:20
佐和島ゆら@星月堂へようこそ(新作)販売中 @sawajimayura227

「何?」 安城は私の顔を見て微笑む。 「呼んだだけ」 「……馬鹿」 呼びかけたら応えてくれる。そんな当たり前だったと思っていたこと。 でもそれは、そんなに当たり前じゃなかったのだ。ある種の奇跡だったのだ。 安城の安堵した顔を見て、私は馬鹿と何度も心の中で呟いた。#セーラー服の話

2015-12-09 12:44:12
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私は死んだって、あなたが呼んだら、あなたの声に応えてみせるよ。 私はなんでもないような顔をして、膝を曲げた。そして次の瞬間足の裏がつった。 顔をしかめ、声にならない声を漏らして、痛みに踏ん張って耐えていると、安城は不思議そうに私を見た。 「どうしたの?」 「足が」#セーラー服の話

2015-12-09 12:48:17
佐和島ゆら@星月堂へようこそ(新作)販売中 @sawajimayura227

「足が?」 「……つったの」 「そりゃ、大変だ」 セーラー服の男は立った。彼はそれなりに大きい。中腰になる。 「肩貸すよ」 「別に、こんなのすぐに治るでしょ」 「でも痛いよね、今」 「そう……だけど」 「じゃあ。助けなきゃ」 彼は人の良さそうな笑みを浮かべる。#セーラー服の話

2015-12-09 12:51:06
佐和島ゆら@星月堂へようこそ(新作)販売中 @sawajimayura227

私は大きく息をついた。 「傲慢ね。もう、わけがわからない」 「美玲はそんな手厳しいことを言わなかったよ」 「ふぅん。でもあの子、裏では何考えているかわからないところがあったわよ。ダメだなぁと思う所は言わないだけで、私以上に辛辣だったもの」 「そうなのか」 #セーラー服の話

2015-12-09 12:53:06
佐和島ゆら@星月堂へようこそ(新作)販売中 @sawajimayura227

死んで、一年は経つのに、初めて知ったよ。彼は寒そうに膝をすりあわせた。 私は伸ばされた彼の腕を掴み、彼の肩を借りる。 「今日だけ、貸して。絶対もう二度と、足なんてつらないから」 「そんな不思議な宣言は初めて聞いたなぁ」 のほほんと言う安城の顔や声が近い。#セーラー服の話

2015-12-09 12:55:33