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「獅子」はライオンとは違う?いいえ、前漢の武帝の動物園にはライオンがいた。ライオンを意味する古語「師子」「サンゲイ」を解き明かす!

ライオンを意味するアールシ語(トカラ語)のシーサク、サーサクが、「師子」や「狻猊」(さんげい)のルーツを語っていると見てよさそうです。アールソン→烏孫、トカラ(大夏)→月氏
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巫俊(ふしゅん) @fushunia

「獅子」はライオンとは違う。とか言われて、そりゃ姿形は西アジアのライオンから随分と変化しているかもしれないけど、生きた「師子」(獅子)が漢代の中国に西域から献上されているんだし、ライオンとは違うというのは、違和感がありました。

2015-12-23 13:33:00
巫俊(ふしゅん) @fushunia

「獅子」の語源を辞書で引くと、インドのサンスクリット語の「シンハ」が獅子に漢訳されたと出てくるんですが、「師子」は『漢書』西域伝に出てくるんだから、仏教経典の翻訳時期に語源を探すのにも、違和感があります。

2015-12-23 13:45:13
巫俊(ふしゅん) @fushunia

しかも、漢代の「師子」よりも古い表記がありまして、 戦国時代の魏の墓から出土した西域旅行記の『穆天子伝』(ぼくてんしでん)には、「狻猊」(さんげい)という名前でライオンが出てくるのが、決定的だと思いました。

2015-12-23 13:46:42
巫俊(ふしゅん) @fushunia

「狻猊」(さんげい)の上古音(周秦)は、「suen ger」です。(中国語学者の藤堂明保の字典から「狻」と「猊」の発音を調べました)

2015-12-23 13:49:02
巫俊(ふしゅん) @fushunia

「師子」については、『漢書』西域伝の烏弋山離国(アレキサンドリア)に産する珍しい動物の名前として初めて出てきます。 このアレキサンドリアは、マケドニアのアレクサンドロス大王が制圧した「アラコシアのアレクサンドリア」(現在のアフガニスタンのカンダハル)だという説などがあります。

2015-12-23 13:49:58
巫俊(ふしゅん) @fushunia

師古曰:「 師子即爾雅所謂狻猊也。狻音酸。猊音倪。拔音步葛反。耏亦頰旁毛也,音而。茸音人庸反。」

2015-12-23 13:54:39
巫俊(ふしゅん) @fushunia

『後漢書』を見ると、月氏(アフガニスタン周辺)や安息(イラン)といった大国が中国に「師子」を献上したと出てくるほか、新疆ウイグル自治区のカシュガルにあった「疏勒(そろく)国」も、後漢に「師子」を献上しています。

2015-12-23 14:00:09
巫俊(ふしゅん) @fushunia

『漢書』西域伝、車師後國の条には、「天馬、蒲陶(ぶどう)を聞きてすなわち大宛、安息に通う。是よりの後,明珠、文甲、通犀(つうさい)、翠羽(すいう)の珍、後宮に盈(み)つ。

2015-12-23 14:07:51
巫俊(ふしゅん) @fushunia

蒲梢、龍文、魚目、汗血の馬黄門に充(み)つ。鉅象、師子、猛犬、大雀の群、食於外囿(がいゆう)に食らわす。」と出てきます。外囿とは、君主の動物園をふくむ庭園のことです。「食らわす」とは、養殖、飼育するという意味になります

2015-12-23 14:13:51
巫俊(ふしゅん) @fushunia

そこで、前漢の武帝は都の長安に上林苑という、大庭園をつくり、昆明池をほり、巨大な施設をつくって、西域から来た人をもてなしたとある内容です。ここに、すでに「師子」が出てくるようです

2015-12-23 14:16:14
巫俊(ふしゅん) @fushunia

そうすると、やはり仏典からというのは、おかしいですね。中国で「師子」という外来語が定着し、その後になって南北朝時代までのあいだに仏典が翻訳されるようになって、インドの「シンハ」を「獅子」と正しく翻訳したということでした。

2015-12-23 14:18:21
goushu @goushuouji

@fushunia 音韻学はさっぱりなのですが、狻猊の合声、つまり狻猊反で獅の字になるという説があります(清・郝 懿行『爾雅義疏』)

2015-12-23 14:28:14
goushu @goushuouji

詩経・大雅・常武に「闞如虓虎」の句があって通常は「吼える虎のように怒り狂っている」みたいな解釈をするんだけど、『説文』の虓(九+虎)の字に「一曰師子」とあって、郝懿行『爾雅義疏』では「獅子や虎のように威猛がある」という解釈をしてる

2015-12-23 14:42:38
巫俊(ふしゅん) @fushunia

@goushuouji 貴重なお話、ありがとうございます。ユズを柚「子」と書いたりとか、「子」を添加するのは割と後の中国語だと思っていたんですが、そういう注釈があるのですね。

2015-12-23 14:54:02
巫俊(ふしゅん) @fushunia

それでは、「師子」とその古い発音の「狻猊」(さんげい)は、どこから来た言葉なのでしょうか?

2015-12-23 14:22:41
巫俊(ふしゅん) @fushunia

漢代の烏孫(アールソン)や、月氏(トカラ、ギリシア史料の遊牧民トハロイ)は、もともと現在の甘粛省の河西回廊にいました。秦の始皇帝の秦の西の隣にいたんです。これらの遊牧国家は、前漢の初めに、匈奴によって打ち負かされ、西の方に移動していきます。

2015-12-23 14:26:15
巫俊(ふしゅん) @fushunia

彼らが話していた言葉が、アールシ語やトカラ語と呼ばれているのですが、南北朝時代から唐代にかけて、烏孫と月氏の末裔を称していた新疆のオアシス都市「亀茲国」と「焉耆(えんき)国」から、このアールシ語(トカラ語)の言語史料が出土しました。

2015-12-23 14:37:55
巫俊(ふしゅん) @fushunia

ライオンは、そのアールシ語(トカラ語)で、sisak(焉耆の方言)、 sacak(亀茲の方言)と発音されていまして、どうもこれが獅子の古い言葉の「師子」「狻猊」と関係がありそうです。

2015-12-23 14:43:03
巫俊(ふしゅん) @fushunia

アールシ語(トカラ語)は、インドヨーロッパ語族の西部の語派「ケントゥム語派」に属していまして、ケルト語やラテン語と近縁です。そのため、来歴が非常に古いと考えられ、青銅器時代に東方世界の中国に移動してきた言語でした。(青銅器、鉄器、馬車、小麦などの中国への伝播)

2015-12-23 14:46:42
巫俊(ふしゅん) @fushunia

出土したのは、中世の南北朝~唐代ですが、この言語はむしろ古代史を考える材料になるということです。つまり、これとは別のインドイランの文化圏は「サテム語派」という新しいインドヨーロッパ語で、漢代にはパミールの西まで、つまり汗血馬で有名な大宛国までが、「新印欧語圏」でした。

2015-12-23 14:51:06
巫俊(ふしゅん) @fushunia

そうすると、ライオンを意味するアールシ語(トカラ語)のシーサク、サーサクが、「師子」や「狻猊」(さんげい)のルーツを語っていると見てよさそうです。

2015-12-23 14:57:17
巫俊(ふしゅん) @fushunia

シーサク、サーサクの古形にあたる発音が、崑崙の西王母信仰などとともに戦国時代の中国に伝えられ、財宝やライオンで満ちた西方世界の伝説『穆天子伝』が生まれました。京大の吉元道雅氏の説では、趙の武霊王が西方に人を派遣し、そのときの見聞が『穆天子伝』にまとめられたとされています。

2015-12-23 15:01:04
巫俊(ふしゅん) @fushunia

戦国時代の遺跡からは、ライオンやライオンの合成獣のグリフォンを描いた青銅器が出土していることはよく知られています。そうすると戦国の世栄えた頃の「狻猊」(さんげい)が、武帝のシルクロード開通によって、再び世に出現し、ついに生きたライオン「師子」が長安にやってきたという歴史になります

2015-12-23 15:06:53
巫俊(ふしゅん) @fushunia

中公新書『楼蘭王国』では、楼蘭の地名にも、トカラ語地名があると指摘されていますので、前漢の武帝から見ても、シルクロードの近いところ(新疆、タクラマカン砂漠)は、まだ古い印欧語圏の「トカラ語圏」だったと見てよさそうです・

2015-12-23 15:10:16
巫俊(ふしゅん) @fushunia

「GATAG|フリー素材集 壱 無料で商用利用可能な画像、写真、イラスト、絵画のフリー素材集。」から画像をお借りしました。01.gatag.net/0000744-free-i… pic.twitter.com/B0n7QFwh6Z

2015-12-23 15:28:15
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