試行錯誤する米陸軍機迷彩塗装~迷彩なくせば30~40km/hアップ?~

少しでも速く、高くともがいたってことなんでしょうねぇ……
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これの続き的な

Bunzo @Kominebunzo

北西アフリカ用迷彩は現地部隊による塗装規定。工場完成状態の機体に現地で陸軍工兵隊規格の塗料をガソリンで薄めて吹付塗装するためのもの。その為に今まで見慣れない色名が出現する。見慣れないどことか名前の無いものまでが出て来る。 pic.twitter.com/j7BAs7Ktah

2015-12-27 17:48:32
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Bunzo @Kominebunzo

北西アフリカ迷彩にもパターンが決まっている。まずはGENERAL フィールドドラブ地にオリーブドラブの迷彩。下面色は1/8パイントの青に1ガロンの白を混ぜたライトブルーというか青味の強い白色。この下面色に名前が無い。白黒写真でやけに白い下面色に出会ったらこれである可能性大。

2015-12-27 17:52:11
Bunzo @Kominebunzo

次にSPECIALのパターンRED これは赤味のある迷彩といった意味で、赤く塗る訳では無くアースイエローとアースレッドを半々に混ぜたミドルストーンのような地色にアースブラウンの斑点か雲形迷彩を行うもの。英軍の砂漠迷彩に近いイメージ。下面は例のやたらに白いライトブルー。

2015-12-27 18:03:11
Bunzo @Kominebunzo

次はYELLOW アースイエロー2/3にフィールドドラブ1/3を混ぜた地色にアースブラウンの斑点または雲形のパターンを描くもの。下面はやはりやたらに白いライトブルー。

2015-12-27 18:05:47
Bunzo @Kominebunzo

そしてGREEN ライトグリーンの地にオリーブドラブの斑点または雲形の迷彩。下面はやたら白いライトブルー。各パターンとも、このライトブルーを塗らずに工場完成時のままのニュートラルグレーを残すこともOKだった様子。

2015-12-27 18:08:05
Bunzo @Kominebunzo

次のパターンはLIGHT SAND(砂漠用) 上面はサンド一色。スポット迷彩が必要な地域ではフィールドドラブの斑点迷彩を施す。下面はやはりやたらと白いライトブルー。

2015-12-27 18:10:51
Bunzo @Kominebunzo

1943年3月に通達された北西アフリカ航空軍の迷彩パターンは米陸軍機の迷彩塗装のピークと言える多様さがあり、パターンと色数が豊富。この時期から米軍は「いかに迷彩するか」よりも余計な重量と空気抵抗の元凶となる迷彩塗装について「どうしたら合理化、あるいは廃止できるか」を考え始める。

2015-12-27 18:15:10
Bunzo @Kominebunzo

米海軍と米陸軍の迷彩に対する考え方の違いは面白い。もともと防錆目的で塗装を省けない海軍は何らかの迷彩効果を塗装に求める一方で、米陸軍は最初から迷彩塗装を軍用機の性能を悪化させる邪魔者として見ている。加えて1943年の欧州戦線は戦略爆撃が本格化して損害が嵩み始めるのも見逃せない。

2015-12-27 18:22:03
Bunzo @Kominebunzo

マスタングに施されたダズル迷彩。この写真は「模型を元に迷彩をマスキングしながら塗り上げました」という説明写真。実験結果は「百害あって一利無し 二度とやるな」という厳しいもの。空中での迷彩効果を模索していた時期もある、ということ。 pic.twitter.com/hZgudmo1gM

2015-12-28 05:37:19
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Bunzo @Kominebunzo

1943年からの独本土への戦略爆撃は戦闘機数機と爆撃機1機が差し違えるような消耗戦。大損害で有名な空襲だけでなく、独戦闘機隊が事実上崩壊しても高射砲が健在であることと出撃回数の増大で重爆の損害はちっとも減らない。そんな戦いだった。 pic.twitter.com/UBuLIkBP4c

2015-12-28 06:49:09
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Bunzo @Kominebunzo

高射砲の射撃範囲は砲を中心とした半球状。高度をとれば半球のてっぺんを短時間で抜けられる。速度が上がれば撃たれる時間は短くなる。敵戦闘機との速度差が100km/h以上あっても、それでも少しでも速くする、軽くする意義はちゃんとあったpic.twitter.com/2Bfmg4aG6Z

2015-12-28 06:56:48
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Bunzo @Kominebunzo

戦争中期の迷彩改良研究は艶消しの迷彩塗装がもたらす抵抗の減少と塗料による重量増加を最小限にする目的で始まる。これは支那事変中の帝国海軍も改善課題として考えていて、事変中、性能的に今一つだった九六艦戦は迷彩を剥がされて銀地肌になる。大陸に送り込まれた零戦も迷彩を行わない。

2015-12-28 07:02:59
Bunzo @Kominebunzo

概ね5%台の損害が続くと巨大な戦略爆撃部隊もじきに消滅してしまう。あと数マイル速いか、あと数百フィート高度を取れれば損害が減るとしたらそこに注力されないはずが無い。増強される防御火器に相殺されてしまうにしても必死にやらざるを得ない。 pic.twitter.com/2spSSk6tIC

2015-12-28 07:09:45
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Bunzo @Kominebunzo

米陸軍航空軍の迷彩研究で爆撃機を少しでも速く、軽くする為の試行錯誤が始まるのが1943年3月頃、ちょうど北西アフリカ航空軍用迷彩規定が生まれて迷彩塗装が最も多様になる時期に迷彩の再検討が開始される。最初の提案は「透明塗料を塗ること」だった。何処かで聞いたような話だ。

2015-12-28 09:07:29
Bunzo @Kominebunzo

透明塗料を迷彩の上に重ね塗りするか、あるいは金属地肌にそのまま塗るかで抵抗減少と重量軽減を狙ったのだけれども、このとき、前提となった現状は、工兵隊規格の塗料を目分量で混ぜてガソリンで溶いて吹き付ける北西アフリカ迷彩だった。こうした点では相当野蛮なやり方に見えたことは間違いない。

2015-12-28 09:10:17
Bunzo @Kominebunzo

米軍内では迷彩塗料そのものも問題視されていたのに加えて下地の防錆塗料であるジンクロも「余計者」に見え始めていた。これも含めて塗らずに済ませばもっと軽くなると考え始め、ザラザラの迷彩塗装が無くなれば相当速くなる、との話が根拠のないまま急速に広まり、あのアーノルド大将の耳にも入る。

2015-12-28 09:20:11
Bunzo @Kominebunzo

ガッツもありしかも短気なアーノルド大将は各戦域の司令官宛に質問状を送る。ロンドン、ハワイ、ブリスベン、カイロの各司令部は約1か月かけて回答を用意する。内容は「迷彩をやめれば爆撃機が30km/h~40km/h速くなるぞ?」というもの。 pic.twitter.com/jf4ydDHvnZ

2015-12-28 09:23:52
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Bunzo @Kominebunzo

アーノルドの迷彩に関する質問に各司令部はこのように回答 「もし速度向上が本当なら迷彩は不要」(ロンドン) 「上面の迷彩は有用、側面及び下面は撤去可」(ハワイ) 「アフリカ迷彩の効果に満足」(カイロ) 「この戦域では迷彩は必要」(ブリスベン) それぞれに認識が違っていて面白い。

2015-12-28 11:33:28
Bunzo @Kominebunzo

米陸軍が迷彩の改善または廃止について悩んでいる一方で、英空軍は1機1機丁寧に迷彩を施しながらランカスターを送り出していた。 迷彩について英空軍には迷いが無い。 pic.twitter.com/fIuLeWrSfg

2015-12-28 11:36:05
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Bunzo @Kominebunzo

いくつかの司令部が迷彩を不要と判断した根拠のひとつはレーダーの充実。レーダー網があれば基地が奇襲を受ける可能性は少ない、というもの。そして塗装による迷彩が無くても擬装網があれば効果は同じとの認識もある。後者は支那事変の帝国海軍航空隊でも同じで「零戦は迷彩覆をかければ良い」とした。

2015-12-28 11:48:47
Bunzo @Kominebunzo

アーノルドが乗り出したことで一気に勢いを得た迷彩廃止論は確たる根拠が無いことを指摘され始める。事の起こりが3月、各司令部の報告が4月、そして5月に反対論が巻き起こる。最初は苦労して迷彩塗料を確保したマテリアルコマンドから、そして現地部隊からも反対意見が現れる。

2015-12-28 17:14:57
Bunzo @Kominebunzo

第8空軍は「1機当り30ガロン(113.6リットル)の剥離剤に200人/時間の工数をかける余裕が一体どこにあるのか?」非現実性を訴え「ろくな実験もしていないのに30マイルも速くなるのか?精々2~4マイル程度じゃないのか?」と疑う。現実に飛行機を飛ばしている方にリアリティがあった。

2015-12-28 17:17:34
Bunzo @Kominebunzo

実際に迷彩を剥離した機体を飛ばして実験すると3マイル程度しか速くならないことが判明し、迷彩廃止は一旦見送り。1943年6月にはT.O.07-1-1の改正版が通知されオリーブドラブ、ミディアムグリーン、ニュートラルグレーの「基本塗装」が再度確認される。アーノルド大将は納得したのか?

2015-12-29 03:29:32