【お買求めは】三浦秀之氏告知「五色の虹~満州建国大学卒業生達の戦後」20151218【店頭で】

《序章》最後の同窓会と呼ばれたその会合は二〇一〇年に開かれた。開宴時間は正午ちょうど。時計の針が午前11時半を回ったあたりから、彼らはぽつりぽつりと集まってきた。清楚なスーツに身を包み、多くが片手に杖をついている 彼らは日中戦争当時、日本が満州国に設立した最高学府「建国大学」の卒業生たち。日本政府がその傀儡国家における将来の国家運営を担わせようと、日本全土や満州全域から選び抜かれた、いわば戦前戦中の「スーパーエリート」たちである 彼らは日中戦争当時、日本が満州国に設立した最高学府「建国大学」の卒業生たち。日本政府がその傀儡国家における将来の国家運営を担わせようと、日本全土や満州全域から選び抜かれた、いわば戦前戦中の「スーパーエリート」たちである
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三浦英之 「太陽の子」に新潮ドキュメント賞 @miura_hideyuki

① 【告知】最新刊「五色の虹~満州建国大学卒業生たちの戦後」が発売されました。第13回開高健ノンフィクション賞受賞作。満州に存在した幻の大学。五民族から選抜されたスーパーエリートたちの過去と現在の物語。扉詞と序章の要約版を掲載します pic.twitter.com/zmZCXSmZUH

2015-12-18 20:53:53
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②《扉詞》最近訃報を受け取った。友よ、君を何と呼べばいい。小林軍治か、それとも熊谷直介か pic.twitter.com/BpwwvzvUZ9

2015-12-18 20:57:14
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③小林軍治と会ったのは建国大学の入学式。六年間寝食を共にした。柔道三段の君はたくましく見えた。熊谷直介に会ったのは敗戦後のシベリア。極寒地の炭坑で「クマガイという頭の切れる男がいる」と聞き会ってみて驚いた。「なんだ、小林じゃないか」 pic.twitter.com/9euFwF49N1

2015-12-18 20:59:05
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④君は笑った。「俺はここでは熊谷直介。人間が入れ替わったんだ」。別の抑留者から聞いた。故郷で病弱の妻子が待っていると泣き続けている抑留者がいた。帰国が決まっていた君は彼を「小林軍治」として送り出し、以来彼の名を名乗っているのだと pic.twitter.com/wrG69cjAQl

2015-12-18 21:00:46
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⑤零下の炭坑現場でも君は冗談を忘れなかった。48年、帰国した舞鶴港で言ったね。「よし、そろそろ小林軍治に戻っても良かろう」。数十年後、君の奥さんが話していたよ。「その後本物の熊谷さんがお見えになり、泣きながら感謝しておりました」 pic.twitter.com/sgVwCsC1tc

2015-12-18 21:03:27
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⑥友よ。九一歳になった今でも私は君のことを誇りに思う。君のような心意気を、自己犠 牲の精神を、今この国の若者はどれだけ持ち合わせているだろう。君と誓った「いい国をつくろう」。その行く末をもう少し見定めてから、私は君のもとへ逝こう pic.twitter.com/99ScMDPvaD

2015-12-18 21:04:39
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⑦《序章》最後の同窓会と呼ばれたその会合は二〇一〇年に開かれた。開宴時間は正午ちょうど。時計の針が午前11時半を回ったあたりから、彼らはぽつりぽつりと集まってきた。清楚なスーツに身を包み、多くが片手に杖をついている pic.twitter.com/Dss5lgwEiG

2015-12-18 21:09:57
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⑧照れ笑いする者、私をにらむ者。彼らの表情は私に彼らが歩んできた幾つもの「道」を連想させた。「道」はすなわち「呼び名」の数と一致している。彼らは半世紀間、実に様々な「呼び名」を与えられてきた。「神童」「秀才」「侵略者」「東洋鬼子」… pic.twitter.com/HqCUElQ9a4

2015-12-18 21:13:17
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⑨彼らは日中戦争当時、日本が満州国に設立した最高学府「建国大学」の卒業生たち。日本政府がその傀儡国家における将来の国家運営を担わせようと、日本全土や満州全域から選び抜かれた、いわば戦前戦中の「スーパーエリート」たちである pic.twitter.com/VOOvPT9OlL

2015-12-18 21:14:48
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⑩彼らには極めて実験的な教育が施されていた。日本、中国、朝鮮、モンゴル、ロシアの各民族から選抜された若者が首都新京に集められ約六年間、異民族と共同生活を送った。寮に振り分けられ、生活のすべてを異民族と共に実施するよう求められていた pic.twitter.com/qgHVUN5zsP

2015-12-18 21:18:01
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⑪ 彼らが目指したもの。それは満州国の国是「五族協和」の実践。日本は国の実権を事実上すべて握りながらも、「五民族が手を取り合って新しい国を作り上げよう」というスローガンを意図的かつ戦略的に国内外へと掲げた。建国大学はその広告塔だった pic.twitter.com/iNLoYMLeJE

2015-12-18 21:23:57
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⑫そして皮肉なことに日本が創設した初の「国際大学」でもあった。日本人は定員の半分に制限され、残りは中国、朝鮮、モンゴル、ロシアの学生たちに割り当てられていた。語学が授業の三分の一を占め、独、仏、露、モンゴルなどの言語を選択できた pic.twitter.com/J1e1aKvh23

2015-12-18 21:26:53
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⑬戦前戦中の風潮からは想像もつかないある特権も付与されていた。言論の自由である。五族協和の実現のためには互いの感情を正しく理解する必要があるとして、開学当初から中国人や朝鮮人学生を含むすべての学生に言論の自由が認めていた pic.twitter.com/74quC5Xwa5

2015-12-18 21:29:44
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⑭ 特権は独自の文化を生み出す。寮内では毎晩「座談会」が開かれ、日本政府に対する激しい非難が日本人学生へと向けられた。彼らは、政府が掲げる理想がいかに矛盾に満ちたものであるのかを身をもって知り抜いていた、極めて希有な日本人でもあった pic.twitter.com/X1TSmLOjts

2015-12-18 21:32:33
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⑮ そんな彼らの複雑な思いを内包したまま、建国大学は満州国の崩壊と共に歴史の闇へ姿を消す。開学八年しか存在し得なかった大学を今記憶している人はほとんどいない。資料の多くが焼却され、卒業生たちも記録されることを望まなかった pic.twitter.com/fWYTSy5llw

2015-12-18 21:36:03
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⑯最後の同窓会は穏やかな雰囲気で幕を開けた。参加者は一二〇人。一期生から八期生の卒業生たちがそれぞれの入学年度に分かれて腰掛けていた。開会の挨拶は村上和夫。杖をつきながら壇上に上がり、「これから最後の同窓会を、はじめま―――――す」 pic.twitter.com/bQ6i0zCgRm

2015-12-18 21:38:53
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⑰次いで壇上に上がったのは同窓会長の藤森孝一。戦後全国の卒業生を束ねてきた藤森は最後に少しだけ時間を与えていただきたいと列席者に乞うた。「姚峻峰、閻鳳文、傅振東、彭秀、李文鶴、呉寛用、チムトルヂ、トガルジャッブ、コルニーロフ……」 pic.twitter.com/I7XUdOwwyY

2015-12-18 21:41:12
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⑱会場にざわめきが走る。列席者たちは知っている。藤森が読み上げた二二人はもう誰一人生存していない。建国大学出身者約一四〇〇人のうち生存が確認されているのは三五〇人。戦後出身者を見舞った悲劇により今も多くの同窓生が安否さえ摑めていない pic.twitter.com/suoipSTxE8

2015-12-18 21:45:37
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⑲建国大学出身者は戦後、大学が有していた特殊性を理由に自国で激しく弾圧された。日本人学生の多くはシベリアに送られ、偏見から帰国後も高い学力と語学力を有しながらも多くが相応の職種に就くことができなかった pic.twitter.com/3J2gyD7pcW

2015-12-18 21:48:16
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⑳もちろん日本人はまだ良い方だった。中国人やロシア人、モンゴル人の学生たちの多くは「日本の帝国主義への協力者」と見なされ、逮捕されたり、拷問を受けたりした。極北の僻地で何十年間も強制労働を強いられた pic.twitter.com/pu41IK5eMO

2015-12-18 21:50:01
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㉑彼らは抑留先から戻ると各国に散った同級生の連絡先を探った。仲間たちが今、どこでどんな暮らしを送っているのか。激しい戦闘や過酷な労働によって体や精神を傷めてはいないか、金銭的に苦しい生活を強いられてはいないか――。 pic.twitter.com/i84P8lVa5N

2015-12-18 21:52:28
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㉒彼らが残した同窓会名簿。私は二〇一〇年秋、各国に散った卒業生たちの「過去」と「現在」を集めるため、日本、中国、韓国、モンゴル、台湾、カザフスタンの各地を訪ね歩いていく「旅」に出た pic.twitter.com/vpEYig7eyg

2015-12-18 21:56:33
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三浦英之 「太陽の子」に新潮ドキュメント賞 @miura_hideyuki

㉓これは日本が満州国に作り出した国策大学に関する記録であり、学生たちが戦後、どのような人生を送ったのかを綴ったドキュメント。それは紛れもなく平和とは何かという認識ですらうまく持てなくなってしまっている、私たち「日本人」の物語だ pic.twitter.com/RCF8bJbj4B

2015-12-18 21:58:41
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三浦英之 「太陽の子」に新潮ドキュメント賞 @miura_hideyuki

㉔《著者からのお願い》もしわがままを聞いてくれるなら、どうかネットではなく地元の書店で買ってほしい。私は日本の豊かな出版文化の中で育った。それは地域の書店があったからこそ。この国の書店文化を守りたい。本はいつも私のそばにあった(終) pic.twitter.com/Hw97SGg6Fo

2015-12-18 22:01:05
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三浦英之 「太陽の子」に新潮ドキュメント賞 @miura_hideyuki

(番外)最新刊「五色の虹」。最初の書評は建国大学を舞台とした「虹色のトロツキー」の著者安彦良和さんから頂きました。 gakugei.shueisha.co.jp/image/kikan/go… 「虹色のトロツキー」は読み始めると徹夜です。ご注意を。 pic.twitter.com/jVZzEHntGF

2015-12-18 22:28:53
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