「掌編:狩人との出会い」

鹿屋のHさん「いや今思うと何で私あんなクソ恥ずかしい現場に居たんでしょうか…告白ってやっぱりもうちょっとムードとかそういうのが大事だと思うんですよ」
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Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「掌編:狩人との出会い」

2015-12-11 20:04:33
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「ふぅ…」ある春の昼下がり、大淀は退屈げに伸びをし、窓の外を眺めていた。設立され早数か月。この鹿屋基地もようやく軌道に乗り始めた。赤レンガから派遣された大淀の仕事も、漸くひと段落してきたところだ。 1

2015-12-11 20:08:33
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

この基地の長官は中々に食わせ者だと有名だ。旧軍上がりではあるが、旧軍主流派とは早々に縁を切り、独自に鎮守府内での影響力を増す様に行動している。目下の目的は異世界からの漂流者達から得られる技術のようだが、大淀から見ても特に人類に反する行動はとってはいない。 2

2015-12-11 20:13:15
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「早く仕事終わらせたいですね…」大淀は小さくそうぼやく。他人の痛くもない腹を探るのは好みではない。いい加減こんなスパイ紛いな任務は終わらせたいものだ。任期は7月まで。まだ先は長い。 3

2015-12-11 20:17:03
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「すみませーん」その時、外からかかる声。「はーい!」大淀は慌てて立ち上がり、控室から任務受付口へと向かう。大淀の表向きの仕事は、提督への任務振り分けである。 4

2015-12-11 20:19:02
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「お待たせしました」大淀は軽く髪を整え、笑顔を作る。「あっ、いえ。すみません、休憩中でしたか?」緑目に茶髪の少女が申し訳なさそうに言った。大淀はこの少女を知っていた。吹雪。先日見つかった“鎮守府に来る前から船魂を宿していた”艦娘。彼女も要監視対象だ。 5

2015-12-11 20:21:46
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「本日はどのようなご用件で」大淀は思考を億尾に出さず、対応する。慣れたものだ。このように仮面を被るのは。「えっと…何でしたっけ、司令官?」吹雪は隣に立つ大男に声をかけた。大淀も大男に顔を向ける。褐色肌にサングラス。古希めいた灰髪を後ろに撫でつけた筋肉質の偉丈夫。 6

2015-12-11 20:25:10
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

大男はポカンと口を半開きにしたまま、大淀を見ていた。大淀は笑顔のまま首を傾げる、「……司令官?」吹雪が男の顔を覗き込もうとした。「…んッ!?あっ、ああ…どうした?」男がどもりながら吹雪を見る。「どうしたって、ここに何しに来たんでしたっけ、私達」「今日の任務を、聞きに、だな…」 7

2015-12-11 20:28:31
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

大淀はこの男のことも知ってはいた。だが、この様なぎこちない喋り方をするような男であっただろうか?「今日の任務ですね」大淀は笑顔を崩さず、任務をまとめた紙を男に手渡す。「あ、ああ…」男はぎこちなく紙を受け取った。左顎下に古傷が見えた。そして頬が微かに赤い。赤い?大淀は訝しんだ。 8

2015-12-11 20:31:34
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

確かこの男は結構な酒好きらしいことは聞いていたが、まさか昼間から酒でも飲んでいたのだろうか?だが臭気からアルコール臭は感じない。「……司令官?」吹雪も、己の司令官の尋常ならざる様子に訝しむ。「……」男は紙を懐にしまい、サングラスを外した。「お嬢さん…」青い瞳が大淀を見た。 9

2015-12-11 20:34:39
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「はい?」大淀はリカルドの発言の意図を計りかねる。「…お名前は?」「大淀ですが…」「…………大淀、さん」「はい」男は目を閉じ、手を握り、そして開いた。やがて、意を決するように目を見開くと、男は大淀の手を掴んだ。「きゃ!」「大淀さん。私の名前はリカルド・ベレンゲルです」 10

2015-12-11 20:38:10
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「へっ、あの、存じておりますが…」「……正直に言います」リカルドは真摯に大淀を見た。意外とつぶらな瞳をしている。大淀はぼんやりとそんなことを思った。が、そんな思考は直ぐに吹き飛ばされた。「一目惚れしました。結婚を…前提……に、お付き合いしてくれませんか!」 11

2015-12-11 20:40:05
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

リカルドの声が任務受付に響く。手続きをしていた大勢の提督や艦娘が二人を見た。「ア…ア…?」唐突な告白劇に、吹雪は首を傾げた。「……」大淀はリカルドの発言の意味をじっくりと咀嚼し、吟味し、そして林檎めいて赤面した。 12

2015-12-11 20:42:34
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「え、ええっと…その…」大淀は震えた。大勢の目の前で当特に告白されたのだ。今、大淀のニューロンは羞恥と困惑で煮えくり返っていた。「……」リカルドは真っ直ぐと大淀を見つめる。 13

2015-12-11 20:44:48
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「ア……あの……」「……」吹雪が固唾を飲む。「へ、返事はちょっと待ってくださいイイイイイイ!!!!?」大淀のニューロンは羞恥の限界を超え、リカルドの手を振り払い、控室へと走り去っていった。 14

2015-12-11 20:46:36
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

受付口から喧騒が聞こえてくる。あの男の声も。大淀はパイプ椅子に座り込み、いまだ燃えるように熱い顔を両手で覆った。「しょ、初対面であんな…あんな大胆な…」大淀は呻く。踏み込まれた。全力で。大淀はそう思った。 15

2015-12-11 20:48:47
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

果たして次に会う時、自分は仮面を被れるだろうか。優秀で冷静な任務娘の仮面で彼に対応できるだろうか。((無理だ…))大淀はそう自答する。彼は鹿屋の提督だ。これから毎日顔を合わせるだろう。「明日から、どんな顔をすればいいですか…」 16

2015-12-11 20:50:17
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

これが、狩人リカルドと艦娘大淀の最初の出会い。やがて彼らは紆余曲折を経て、遂に結ばれるのだが、それはまた、別の物語である。 17

2015-12-11 20:51:24
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「掌編:狩人との出会い」おわり

2015-12-11 20:51:51