グラウンド・ゼロ、デス・ヴァレイ・オブ・センジン #6

床材を喰らいながらアンブッシュを仕掛けようとしたデスドレインが頭を撃ち抜かれ、爆発した。暗黒物質の身代わりだ。ガンドーはもう一方のマグナムを天井に向ける。デスドレインが天井材を喰らいながら出現する。そこでガンドーは咳き込んだ。引き金を引けなかった。デスドレインが落ちてきた。68
2016-01-06 00:42:06
暗黒物質がガンドーの腰から下を呑み込んだ。デスドレインは真っ黒な眼窩を見開き、耳まで口を裂けさせた。「残、念!」「……!」ガンドーは銃を持ち上げようとする。持ち上がらない。ガンドーの耳鼻喉に暗黒物質を流し込む。「アバーッ!?」叫んだのはデスドレイン。その身体が不意に痙攣する。69
2016-01-06 00:45:57
001010010100101001アズールは透明の獣とともに暗黒物質の海を蹴って跳びかかり、デスドレインのもとに到達した。デスドレインはアズールを打ち落とそうとしたが、LAN直結したガンドーの身体がかすかに動き、押さえこんだ。獣が顎を閉じる。デスドレインは逃れようとする。70
2016-01-06 00:47:45
ガンドーの身体が動き、それをなお阻む。あえて身を晒すかのごとく。透明の獣はデスドレインとガンドーを顎門にとらえた。黒と赤の血が噴き出した。アズールは至近距離だ。デスドレインに49マグナムを撃ち込んだ。0100100100101 (71
2016-01-06 00:50:11
フオオオオ、フオオオオ……。高速走行する新幹線車内、身体にへばりつくような速度感。「オイ」ガンドーは向かいに座ったアズールに話しかけた。「その銃と」少女の膝の上の49マグナムの片割れを示し、それから自身の額を示す。「この……いや、ここじゃねえな今は……とにかく彼女を頼む」72
2016-01-06 00:54:49
アズールは空色の目をガンドーに向けた。ガンドーは頷いた。「悪いがお前しかいねえ、今頼めるのはな。いいか、ヴァレイ・オブ・センジンだ。センジンの底へ走れ。ここはニューロン速度だ。現実にはコンマ何秒も経っちゃいねえ。ここを抜けたら、脇目もふらずお前のワン公を谷底めがけ走らせろ」 73
2016-01-06 00:57:23
00101001ガンドーは49マグナムをデスドレインの額の傷にねじり込んだ。「AAAARGH!」デスドレインはぬばたまの目から黒い液体を迸らせた。「ガイオン!ショージャノ!カネノオト!」老いた声のチャントが二者を包み込んだ。「ああ悪いが爺さん、悪霊退治は初めてじゃねえんだ」 74
2016-01-06 01:04:00
「ショッギョ、ムッジョノ、ヒビキアリ!」「うるせえ爺だ。ガイオンをやらせるわけにゃいかねえんだよ」記憶ではないシキベは、今そこに在るのだから。それからガンドーはデスドレインに向かって言った。「テメェを憎むべきか、憐れむべきか、よくわからねえ」彼は引き金を引いた。BLAMN! 75
2016-01-06 01:07:46
010100100010ガンドーの右脚が暗黒物質に引きちぎられて宙を飛んだ。それでも彼はLANケーブルを引き抜かなかった。アズールは走る透明の獣の背にしがみつき、振り返った。黒い濁流が私立探偵タカギ・ガンドーを呑み込んだ。デスドレインは叫び続けていた。76
2016-01-06 01:13:30
禁禁禁禁禁禁それでも暗黒物質は止まらなかった。それは黒い奔流となってキョートの前線基地を蹂躙しつくし、キョート・ワイルダネスの地に溢れた。アズールの獣は速度を上げた。不可視の身体に獣のカラテがみなぎり、足元の濁流を蹴り渡った。アズールは歯を食いしばった。彼女は前を見ていた。 77
2016-01-06 01:18:17
「AAAAARGH!」デスドレインは叫び続けた。黒い海の下、押し潰されたガンドーはもはや見えず、デスドレインの首元にはちぎれたLANケーブルがぶら下がっている。アズールは彼らを振り返りはしない。アンコクの海が溢れる。獣は駆け続ける。ネオサイタマ前線基地を駆け抜ける。 78
2016-01-06 01:21:56
逃げおおせる者はいるだろうか。考える暇も必要もない。彼女は暗黒の海を背に、荒廃したヴァレイ・オブ・センジンの奈落を目指す。「ゴアアアアオオン!」獣が吠え、跳んだ。彼女は闇に吸い込まれた。暗黒の海が地表を洗った。ガイオン・シティの観測所は、地平にわだかまる異変を見た。 79
2016-01-06 01:24:43
禁!……しかし、そこまでだった。黒い奔流は突如その勢いを失い、張力を失い、地に拡がった。デスドレインの身体から暗黒物質が流れ落ちた。彼はゆっくりと己の生み出した滅びの海へ、仰向けに沈んでいった。 80
2016-01-06 01:27:53
……アズールはジゴクめいたセンジンの谷底で夜を明かした。崖の横穴で透明の毛皮に包まれ、丸くなって眠った彼女は、日の出と共に目覚め、苦心して再び這い上がった。彼女は黒い水平線を見渡した。まるでコールタールの沼沢地。太陽の横には黄金の立方体が静かに自転し、0と1の風が水面を洗う。81
2016-01-06 01:32:46
あまりに奇妙な情景。ガイオンは無事だろうか?まず彼女はそう思った。彼女のニンジャ視力は、遠く水平線付近で蠢く一つの影を見た。タクティカルゴーグル越しに確認する。それは熱蒸気を発する鎧を着込んだニンジャの姿。とぼとぼと歩いている。彼女にとって無意味だ。 82
2016-01-06 01:39:33
彼女はタクティカルゴーグルを下ろした。キョート側の前線にはただひとつ、アキラノ・ハンカバが座していた塔だけが、アンコクに呑まれず残っていた。ハンカバ・カブキはアンコクを寄せ付けなかったのだ。 83
2016-01-06 01:43:21
かくして、センジン地方とその周辺は、有害な黒い沼の横たわる、ものいわぬ土地と化した。グラウンド・ゼロに近づくことができる者はおらぬだろう。アズールは49マグナムの弾倉を開き、閉じた。彼女は銃の重みを感じていた。ひときわ強い01の風が吹き付け、彼女の長い髪をなびかせた。 84
2016-01-06 01:47:37