刀剣男士アヌビスと朱点審神者

葛　鈴子 @omutan

「ひ――よ――たり」暗く冷たい流れの中に打ち捨てられ、喚いていたのは最初の3年程だっただろうか。「――み――いむ――ここ――り」一度光を知りながら、もう一度闇に落とされた魂は摩耗し、そのまま消滅するのだと思っていた。「ふ――――なや―――」その恐怖さえ諦念にすりかわりかけた頃。

葛　鈴子 @omutan

声が、聞こえた。「ひふみよいむなやここのたり」聞き覚えのない韻律が、呼び声なのだと、震えた。「ふるべふるべゆらゆらとふるべ」小さな輝きが目の前に現れる。いつの間にか、暗く冷たい流れは消え失せていた。「ひふみよいむなやここのたり。ふるべふるべゆらゆらとふるべ」呼ばれている。

葛　鈴子 @omutan

何を呼んでいる。誰を呼んでいる。――それは刃を呼ぶ声だ。刃の魂を呼び覚まそうとしているのだ。声はどんどん近付いてくる。刃を呼ぶ声は――【俺】を呼ぶ声だ。【俺】は刃。刃は【俺】。ああそうだ、そんなことさえ忘れていた。【俺】は――。瞬間に夜明けの光に似た色の花びらが、見えた気がした。

葛　鈴子 @omutan

「――名は」男か女か、若いのか老いているのかも解らぬ声だった。顔も見えないそいつの声が、俺を呼んだのだけは判った。それで構わない。刃とは、使われるもの。振るわれ、斬るもの。人の身に押し込められたとて、それは変わらない。

葛　鈴子 @omutan

左手に、己自身たる剣を握りしめたまま、答えた。「――アヌビス。冥界の神。魂の審判者のビジョンを持つスタンド」「……すたんど？」ご同類らしい男が首を傾げた。「まあそこは気にすんな。俺を呼んだからには安心しな」にぃっ、と口角をあげる。「俺は刃。望むままに望むものを斬るだけよ」

葛　鈴子 @omutan

「歴史を変える、か」敵の目的を聞かされ、首を傾げた。「理解できない、と？」審神者(さにわ)と名乗った相手は得体の知れない声で問いかける。「……負けて悔しかったことはあったが、いかんせん長く経ちすぎた」肩をすくめてみせれば、気配が和らいだ。

葛　鈴子 @omutan

「貴方を呼んで良かった。悪いことではないが……他の刀たちの中にはどうしても、来歴と使い手へのこだわりが、少しばかり、その……」言葉を選んでいるらしいのを遮って笑った。「俺にだってこだわりはあるぜ？俺を使うからには、きちんと敵を斬らせてくれ」

葛　鈴子 @omutan

「……ああ、貴方くらい単純だと、実に助かる」「誉めてんのかばかにしてんのかどっちなんだ」「安心しているんだ」声は明るく聞こえた。「アヌビス。古き異国の名刀。今一度、頼む。私の剣となってくれ」「……おう、解った」

葛　鈴子 @omutan

「今が西暦2205年だろ？」指折り数えてみる。「そうだな、まあ700年ってところか」問いかけに答えれば、小天狗は笑った。「へえーそれじゃあ、アヌビスはぼくよりもとししたなんだねー」学んで曰く、『1192作ろう』の前に歴史から消えた同類は、何が楽しいのか俺を見て笑っている。

葛　鈴子 @omutan

「しっかし、異国の剣ねえ……」不躾な視線をぶつけてくる緋色の男と目を輝かせる男の間でため息が出る。「おんし、なんか特技はないぜよ？」「特技、なあ」言われて思う。そういえば試してなかった、と。「いいぜ、試させろ」「ッ！」緋色が束に手をかけるより早く、鞘から抜き放ち、宙を滑らせた。

葛　鈴子 @omutan

訛り男、いつの間にか銃口で俺を狙っている。緋色、不思議そうな顔をし、即座に腰に手をやる。「……どういう手妻だ？」「あのにやけ男やおっさんと変わらんさ。俺は『斬れる』んだ」「……そうか、じゃあ仕方ない……国弘ー！ちょっと針と糸持ってこーい！」

葛　鈴子 @omutan

首を傾げる訛り男に同じことをしてやれば、腹を抱えて笑っていた。が、その後審神者にしこたま起こられた。解せぬ。

葛　鈴子 @omutan

アヌビスＩＮ本丸妄想。石切丸とにっかりは苦手。獅子王とはわりと気が合う。どうたぬきは嫌いじゃないけど、アヌビスがきらびやかーんなのでちょっとだけ引いてる。ぜよはうるさいが昔の同僚を思い出す。長谷部とか宗三とか昔の男引きずってる奴らは「面倒くせー」って思ってる。

葛　鈴子 @omutan

「私の祖は、神でしたから」「はぁ？」首を傾げるアヌビスへ向け、審神者続ける。「人に風と火、製鉄を教えた、かつて鬼であった神。その二柱に授けられた知恵で最初に鉄を作った蹈鞴師であった神。その血を、継いでいるのです」 #書く予定なんて1つもない小説の一部を晒す