不知火に落ち度はない2016 お正月SP その1『桜の道程』

そんなわけで、今回は神通教官の特別編。彼女が歩いて生きた道程を示す過去話です。 よろしければのんびりごらんください。 前 落ちぬい小話まとめ(番外編) 続きを読む
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はじめに

※ この話は艦これ二次創作的な何かのネタ帳じみたものです。
独自設定がちらほら混じってるので、適当にご笑覧ください。

今回はお正月SPの過去話回です。

感想はハッシュタグ #落ちぬい か コメントまでいただけますと喜びます。

本編

不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

鹿児島県、枕崎市。 その岬から見る小さな島がある。 今の人口は100を数えるばかり。 本土からの移動で5時間はかかる。 土地の名前を口に出しても、だいたいが首をひねる場所。 だが、彼女はそこを離れるつもりはなかった。 あの時が来るまでは──。 #不知火に落ち度はない

2016-01-08 13:42:07
不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

物心ついたとき、彼女は理解していた。 両親はともに蒸発。 親戚は誰も居ない。 おまけに、家は山の中腹にある。 これは世間一般では、非常に特異な状況である、と。 だから──特に不思議には思わなかった。 #不知火に落ち度はない

2016-01-08 13:56:32
不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

例えば姉が、末の妹を背負ったまま学校に出ていたことも。 授業参観日に姉が変装していたことも。 そして、学校が終わると家の畑の世話をすることと、衣類の洗濯をすることも。 夜──広い道場で木刀を振っていたことも。 それらは、きっとほかの家ではあり得ない。 #不知火に落ち度はない

2016-01-08 14:00:38
不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

だから、少しばかり普通にあこがれることはあれど、友達を積極的に作ることはなかった。 クラスメイトは別の世界の住人で、話相手は姉妹と本とテレビだけ。 姉は寧ろ積極的に作れとは言っていたが、話がかみ合わないのを数度経験すればそれは、不可能だと悟っていた。 #不知火に落ち度はない

2016-01-08 14:03:29
不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

そうして成長するにつれ彼女は、必要以上のことをあまり喋らなくなった。 彼女はクラスの中では引っ込み思案というカテゴリの中に入り、その席を受け入れた。 普通の家庭というものを想像した上で喋るという行為。 そこにかかる多大なコストを省くために。 #不知火に落ち度はない

2016-01-08 14:10:18
不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

「桜は黙っててなんかよくわからない子だって、先生言ってたよ」 「……姉さんが喋りすぎなだけでしょう?」 「私は喋らないわけにはいかないのー」 心配だなぁ、などと夜遅く戻る姉と話したことを覚えている。 ただ、姉のように変人扱いされるのも避けたかった。 #不知火に落ち度はない

2016-01-08 14:17:06
不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

そういったものは、大概において攻撃の対象となるが、姉はそういった意味でも別物だった。 自己への攻撃も姉妹への攻撃も、すべて徹底してやり返した。 相手は子供も大人も選ばなかった。 しかし、恨まれることはなく、それで納得か──諦めさせる何かがあったらしい。 #不知火に落ち度はない

2016-01-08 14:21:31
不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

『あの宮本梓とその姉妹にちょっかいをかけてはいけない』 そういう防壁が張られた結果、桜は過度な接触を受けずに済んでいた。 無視されていたのかもしれない。 だが、彼女に取ってそれは幸いでしかない。 少なくとも、邪魔されずに本を読む時間が得られた。 #不知火に落ち度はない

2016-01-08 14:29:43
不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

加えて、離島だったのも大きい。 過疎化が進んだ結果クラスメイトの数はそう多くなく、小中が一緒になっていたため妹の面倒も見られた。 結果、下級生からは慕われる面が多かった。 『喋らないけど、優しい燕ちゃんのお姉さん』と、妹の友達からは呼ばれていた。 #不知火に落ち度はない

2016-01-08 14:37:42
不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

あまり喋らず、本とテレビが友達で。 妹の面倒を見て、姉の話につきあう。 次女という立場から、彼女はその位置に座っていた。 一方で末っ子の燕は成長するにつれ、アイドルに憧れていたが。 それも末っ子の権利なのだと、本から学んでいたため、見守ることにした。 #不知火に落ち度はない

2016-01-08 14:42:22
不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

将来何をするの? という質問に対しても、彼女はただこう答えた。 今のまま、姉妹で暮らします──と。 彼女には、未来を夢見る必要性がそもそもなかった。 本を読み、テレビを見て、木刀を振り、姉妹の相手をする。 その日常こそが、彼女を形成した全てだった。 #不知火に落ち度はない

2016-01-08 14:46:35
不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

競う相手は特になく。 語る相手も血縁以外は特に持たず。 学ぶことはさほどなく。 姉から受け継いだ剣術、というものを使う機会もない。 外界に憧れはあれど、出て行くつもりはなく。 小さな島の山の中、生きるにはそれで十分なことだった。 #不知火に落ち度はない

2016-01-08 14:50:56
不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

それが崩れたのは、彼女が小学生の終わりを迎える頃。 深海棲艦、と名を付けられた怪物が日本侵攻を開始したのがきっかけである。 最初夏のUMA特集等でお茶の間の話題程度だった黒い鯨や人影は、実体を持った脅威として報道され始めた。 #不知火に落ち度はない

2016-01-08 15:25:57
不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

世界で最初の交戦は海の向こうのアメリカから。 襲撃された米軍の空母の沈む光景が、CNNで報道されたのを皮切りに、日本でも目撃が相次ぐようになった。 日本最初の交戦は沖縄沖。 駐留米軍と共同作戦を行うも全滅との報道に、日本が揺れた。 #不知火に落ち度はない

2016-01-08 15:26:07
不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

政府は沖縄エリアからの住民の退去と、護衛艦および潜水艦隊の集結を指示。 可能な限りの艦隊攻撃により、押し返して沖縄海域を奪還する、という話で。 桜の住まうその島も──作戦範囲に入っていた。 戦後から鳴ることのなかったサイレンが、島に鳴り響いた。 #不知火に落ち度はない

2016-01-08 15:26:17
不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

一時避難のために学校の体育館に集まり、事情説明する役所の大人の声を聞いてやっと桜は理解した。 本の中でしか読んだことのなかった、非常事態がすぐそこまで来ていると。 集まる人々の不安が伝播し、体育館の中は重く張り詰めた空気へと変わっていた。 #不知火に落ち度はない

2016-01-08 15:33:02
不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

姉は少しでも家財を取ってくると席を離れており、不安を覚える妹を宥めながらそ彼女は見た。 誰かが持ち込んだテレビから流れる、報道特番を。 テレビの向こうに映る船舶の姿と、ずらりと並んだ海自の面々。 その中で年若い隊員が背を伸ばし、宣言する姿。 #不知火に落ち度はない

2016-01-08 15:41:46
不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

国民の生命と平和を守るため全力を尽くします── その年若い海兵は勇ましくそう告げ、敬礼を示す。 テロップには彼の名前、兵頭一也と書かれていた。 その敬礼の様子が、あまりに堂々としていたからか。 桜は心の底から安堵した。 #不知火に落ち度はない

2016-01-08 15:46:03
不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

これでもう大丈夫だと。 深海棲艦が何かはわからないが、もうこんな事は起きないと。 今は離れることになっても、またここに戻ってこられると。 今まで通り、姉妹であの山の中で暮らせるのだと。 桜はそう信じ、お願いします、とテレビに向かって頭を下げた。 #不知火に落ち度はない

2016-01-08 15:48:18
不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

その彼らが壊滅したと知ったのは、避難所での生活が始まってから一週間目の事。 テレビの向こうでは淡々とニュースキャスターが彼らの無残な敗北を語り、故郷の島の放棄が発表された。 そうして桜とその姉妹は、帰る場所を無くした。 #不知火に落ち度はない

2016-01-08 15:52:27
不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

桜はそのとき、これは悪夢だと思った。 目が覚めればいつもの日々の続きで。 避難所の人々の嘆きもかき消えて。 見知らぬ土地で暮らして行く苦痛も消え失せてくれると。 #不知火に落ち度はない

2016-01-08 15:56:19
不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

だが、翌日になっても何も変わらなかった。 ただ、先の見えない恐怖と、絶望的な現実を語るニュースキャスターの姿がテレビに映っていた。 #不知火に落ち度はない

2016-01-08 15:57:02
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