二十歳になれなかった妹たちへ

川内姉妹の成人式ネタを書きたかっただけ
7
深海さかな @dzurablk_kai

「成人式ねえ・・・」 こたつの中で川内は、寝起きの悪い寝ぼけ眼をテレビに向けていた 画面の中では、晴れ着袴姿の若人たちが式典に参加している様子がしつこいくらいに流れている 「楽しいもんなのかねえ・・・」 そのとき、ちゃんちゃんこ姿の背中に声がかかる #二十歳になれなかった妹たち

2016-01-11 11:03:53
深海さかな @dzurablk_kai

「お姉ちゃん、早く起きてー!!」 「私たちこれから演習ですから、冷蔵庫の中のもの、適当に暖めて食べててください!」 「二度寝しちゃダメだからねー!?」 バタバタと慌ただしく出ていく物音が過ぎ去ると、川内はこたつに突っ伏した #二十歳になれなかった妹たち

2016-01-11 11:04:41
深海さかな @dzurablk_kai

「・・・あの子らは、どう思ってるんだろう」 うつらうつらと途切れがちな意識に浮かぶのは、妹たちのかつての姿 自分とは異なり、進水日から20年を迎える前に戦没した、軽巡神通と那珂 まあその自分も、二十歳を迎えて三日でソロモンの海に没したが #二十歳になれなかった妹たち

2016-01-11 11:07:04
深海さかな @dzurablk_kai

「やっぱり、気にしてんのかなー・・・」 見た目ではそんな様子は微塵も見せないが、しかし姉としてのその心配は杞憂と言って笑い飛ばせるものではなかった 現に、同じ大湊基地の自衛隊員たちは今日こうして成人式に出席しているというのに、 #二十歳になれなかった妹たち

2016-01-11 11:08:51
深海さかな @dzurablk_kai

艦娘だけ演習など可愛そうだ 「・・・よし」 川内の眠気が一気に覚める 「なら、私が姉として!! ここは成人式を企画してやろうじゃないの!!」 #二十歳になれなかった妹たち

2016-01-11 11:09:59
深海さかな @dzurablk_kai

「んー、成人式って何すればいいんだろう・・・」 とりあえず部屋を出てきたものの、街を歩きながら川内はさっそく難問に突き当たっていた 「宴会みたいなもんなのかな・・・」 成人式後の飲みすぎで飲み屋が荒れるということくらいは、聞いたことがある #二十歳になれなかった妹たち

2016-01-11 11:14:00
深海さかな @dzurablk_kai

「じゃー、まずお酒でも買いに行くかー」 川内はまず、近くのスーパーに向かうことにした #二十歳になれなかった妹たち

2016-01-11 11:15:07
深海さかな @dzurablk_kai

「お、川内型の姉御じゃんか」 「こんな時分に珍しいのがいるな」 スーパーの酒屋コーナーにつくとバッタリ、木曾と天龍に出くわした 「ちーっす!」 「なんだ、お前も酒飲むのか」 「いやー、私じゃないんだけどね」 「・・・はっはーん」 #二十歳になれなかった妹たち

2016-01-11 11:16:49
深海さかな @dzurablk_kai

木曾がイタズラっぽい眼差しを向ける 「さてはあの、戦闘狂ツインズだな?」 「昼間あんまり働かないもんだから、遂に買い物係にされたか」 「そうそう、神通がすっごく怖くて・・・って、違ーーーう!!」 ケラケラと笑う二人 #二十歳になれなかった妹たち

2016-01-11 11:18:40
深海さかな @dzurablk_kai

「知ってるよ、この姉バカ」 「どうせ俺たちみたいに成人式にかこつけて、あいつらに酒飲ませる腹だろ」 「妹思いだよな、ほんと」 あんまり誉められると恥ずかしいので、川内は論点をずらすことにする 「ねえねえ、初めて飲むお酒って何がいいのかな?」 #二十歳になれなかった妹たち

2016-01-11 11:20:33
深海さかな @dzurablk_kai

「んー」 「そうだなぁ・・・」 悩んだ天龍が手に取ったのは、スミノフと書かれた四角いビン 「これなんか安上がりでいいぞ」 「なにこれ? ヴォカ?」 「なんだお前、ウォッカ飲んだことねえのか?」 「いやあ、お酒はあんまり・・・」 #二十歳になれなかった妹たち

2016-01-11 11:21:47
深海さかな @dzurablk_kai

「こうな、冷凍庫で凍らせてシャーベットみたいにして一気に飲むのが通なんだよ な?」 天龍が振り返った先では、木曾がオレンジ色の綺麗な瓶を手にしている 「ウイスキーなんてのもオススメだぞ」 「それ、おいしい?」 「ああ、少し高いが一等イカした酒だ」 #二十歳になれなかった妹たち

2016-01-11 11:23:18
深海さかな @dzurablk_kai

「これって、このまま飲んでいいの?」 「俺らはそうするよな」 「だな」 「んじゃ、これにする!!」 二人に礼を言うと川内は重い瓶を二本、かごに放り込み、食品コーナーへと向かった #二十歳になれなかった妹たち

2016-01-11 11:26:57
深海さかな @dzurablk_kai

「んー、ご飯は何にしようかなあ・・・」 生鮮食品コーナーで頭を悩ます川内 酒にあうつまみなんて作ったことはないし、そもそも料理なんて妹たちに任せっきりでどうすればいいのかさっぱりわからない その時だった 「あら、こんなところに珍しいですね」 #二十歳になれなかった妹たち

2016-01-11 11:28:45
深海さかな @dzurablk_kai

そこに立っていたのは、鳳翔だった 「お買い物ですか」 「あーうん、まあ、そんなとこです」 古参の軽空母に川内はぺこりと会釈をすると、事情を話した 「それはいい考えですね おつまみなら、こんなのはどうでしょう?」 #二十歳になれなかった妹たち

2016-01-11 11:31:50
深海さかな @dzurablk_kai

鳳翔は懐からいつも持ち歩いているレシピ集を取り出す 「ゴマ・・・サバ?」 「はい、福岡の方で食べられている料理です」 「これ、生なんです?」 「ええ、鯖の刺身にゴマと醤油ベースのタレがかけてあって、甘味と油分のバランスがどんなお酒にも合うんですよ」 #二十歳になれなかった妹たち

2016-01-11 11:33:30
深海さかな @dzurablk_kai

なるほど、美味しそうだ 「鳳翔さん、ありがとっ!」 川内はさっそく鮮魚コーナーへと駆け出す 「あっ、でも1つ注意があって、タレの調合がすごく難し・・・行っちゃいましたか 慌ただしいですねえ」 #二十歳になれなかった妹たち

2016-01-11 11:35:03
深海さかな @dzurablk_kai

後には、困り顔の鳳翔だけが残されるのだった #二十歳になれなかった妹たち

2016-01-11 11:35:15
深海さかな @dzurablk_kai

「よーし、作るぞー!!」 部屋に帰った川内は、割烹着を着込むと腕捲り(のフリ)だけしながら、気合いを込めて食材たちと対面する 「あ、ウォッカとウイスキーは冷凍庫に入れとこっと」 2本の瓶を放り込み、まずは鯖をさばく事から取りかかる #二十歳になれなかった妹たち

2016-01-11 11:39:12
深海さかな @dzurablk_kai

「ええと、鱗をおとして頭を取る・・・うへえ、やることが多い」 川内はとりあえず、ピーラーを使い鯖の鱗と皮を剥ぐ だが滑りもあってなかなか捗らない 「・・・こんなもんでいいっしょ!」 川内は青い皮を残したまま鯖のエラの辺りを包丁で一息に切り落とした #二十歳になれなかった妹たち

2016-01-11 11:41:51
深海さかな @dzurablk_kai

「次は・・・三枚下ろし?」 スマホを操作しながらの慣れない料理に手を焼きつつも、エラから包丁を入れる 開いた鯖の断面ではズタズタになった背骨があちこちの肉に食い込んでいたが、とりあえずその処理も保留 「あ、鯖って寄生虫がいるんだっけ?」 #二十歳になれなかった妹たち

2016-01-11 11:44:04
深海さかな @dzurablk_kai

川内はボウルにお酢の原液をなみなみと張ると、鯖を放り込み、とりあえず下ごしらえを終えるのだった #二十歳になれなかった妹たち

2016-01-11 11:44:38
深海さかな @dzurablk_kai

「さってと、部屋も飾り付けるか!」 押し入れの中からクリスマスの電飾を取り出すと、川内は天井の四隅に釘を打ち、コードを片っ端からかけていく 「んー、めんどくさいから蛸足使うかー」 こたつのコンセントの刺さる延長コードから分岐させ、電力も確保 #二十歳になれなかった妹たち

2016-01-11 11:47:52
深海さかな @dzurablk_kai

「よーし、あとは・・・」 川内は最後に、横断幕を作る こたつの上に並べた色画用紙に踊るクレヨンの、「祝!成人!!」のいびつな文字 だが、飾ってみればなんとか様にはなりそうだ 「思いの外、時間がかかっちゃったなあ・・・」 #二十歳になれなかった妹たち

2016-01-11 11:49:42
深海さかな @dzurablk_kai

窓の外は既に夕暮れ、そろそろ妹たちの演習も終わる頃だろう 「あとは料理を出すだけだし、あの子達を待ってればいっか・・・」 川内はそう呟くと、急速に頭をもたげた睡魔に従い、暖かいこたつに潜り込むのだった #二十歳になれなかった妹たち

2016-01-11 11:51:27