女騎士ハラミを焼く#1 戦うのは嫌だ◆2
_野営地に焚火が燃える。鎧を下ろし、自衛用の小剣を提げた騎士たちが、草を刈った地面に腰を下ろし歓談する。 肉が焼ける匂い。騎士たちは山羊を解体し、それぞれ肉を切り取って焚火であぶっていた。炎の照り返しがセリマの顔を照らす。 11
2016-01-12 19:16:24_セリマの属する騎士団は30人程度の、小規模な騎士団だ。セリマは肉を皿に切り分け、皆に配っていた。 別にセリマが世話焼きなわけではなく、持ち回りなだけだ。戦果を挙げた勇敢な騎士は雑用から外されることが多い。セリマは相手した盗賊が少なかっただけだ。 12
2016-01-12 19:37:56_今回は20人も盗賊を切り殺した騎士がいた。彼は金の口ひげを撫でて、青いストライプのマントを翻した。 「今回の盗賊団壊滅の報酬はかなりのものだ! アーティファクトの戦果も多い。皆、遠慮せずに肉を食えよ!」 セリマは一切れも肉を食えていない。生臭い匂いは嗅ぎ飽きた。 13
2016-01-12 19:41:16_さっきから不要な皿を回収しては洗い場に持っていき、また皿に生肉を取り分けて配るのみ。 それに気づいた金ひげのエリートが、わざわざ彼女の隣にやってきてやってきて偉そうなことを言う。 「なんたる無様。肉を食えるように努力しろ。お前は頭がいいんだからできるはずだ」 14
2016-01-12 19:45:23「ハイハイ。頑張りますよ」 生返事をしてさっさと作業を終える。十分なくらい働いた。生臭い匂いを嗅ぎすぎてすっかり食欲がない。どうせ自分の分の肉は無い。 騎士団の野営テントに休みに行くと、武器庫に明かりが灯っていた。覗くと、セリマの折れた剣を見ている若い技師がいる。 15
2016-01-12 19:48:52_若い技師はアーティファクトの分析を担当する騎士団員だ。青白い痩せた顔を綻ばせ、興味深そうに言う。 「銃弾が当たったわけじゃない。何らかの過負荷だ。バリア上のプロテクションに引っかかった奴と似ている。この鋏の正体だ」 技師が持つのはセリマの手に入れた鋏。 16
2016-01-12 19:53:33_技師は鋏を撫でながら陶酔した声で言う。 「かなり複雑なプロテクションを構築するために、想像もつかない構造に挑戦している……最高だ」 「がらくただよ。バリアが危なすぎる。腕が吹っ飛んだらどうするんだ」 セリマはうなだれる。肉もなければ剣もない。ガラクタだけがある。 17
2016-01-12 19:58:53「僕のクロスボウをあげるよ。装備を更新して古いのが余ったんだ。愛用しててさ、いいもんだよ」 技師は倉庫からずっしりとしたクロスボウを抱えてきた。傷が多く古いが、優しく落ち着きのある色をしている。まるで古くから家にある椅子のような落ち着き。 18
2016-01-12 20:02:48_どうして戦わなければ生きていけないんだろう。自問の果てに答えが出ず、セリマはため息をつく。 戦場を思い出す。セリマは必死に泥水の地面を這いずり回っている。剣は折れ、掴んだのはゴミ同然のがらくた。 喉に血の味を思い浮かべる。生臭い匂い。まるで生肉のようなルール。 19
2016-01-12 20:07:19_技師のクロスボウは、そんな乾いたセリマの心に初夏の風のような潤いを与えてくれた。 「はぁ、まだ戦わなくちゃいけないか」 「戦っている君が好きだよ」 不健康そうな技師は、心をくすぐることを言う。受け取ったクロスボウは、ずっしりと重く確かな信頼感があった。 20
2016-01-12 20:14:22