「デッドムーン・オン・ザ・レッドスカイ」 #6

翻訳チームによるサイバーパンク・ニンジャ活劇小説「ニンジャスレイヤー」リアルタイム翻訳 (原作:Bradley Bond-san & Philip Ninj@ Morzez-san) ニンジャスレイヤー公式ファンサイト「ネオサイタマ電脳IRC空間」 http://d.hatena.ne.jp/NinjaHeads/ 続きを読む
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ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

第1巻「ネオサイタマ炎上」より 「デッドムーン・オン・ザ・レッドスカイ」#6

2011-01-23 20:58:32
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

建造途中で遺棄された、グラントリイ・ブリッジの西端部。その周囲に広がる港湾エリアと倉庫エリアを抜けてしばらく進むと、廃墟と化した無人地帯に行き当たる。かつてタダオ&ヒロシ重工が、グラントリイ・ブリッジ完成後に商業施設を誘致すべく大規模なジアゲ活動を行った一帯だ。

2011-01-23 21:01:33
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

無人地帯の中心部には、枯れススキが裏寂しげに風に揺れる、丸い小さな丘が一つ。その上には江戸時代から続くダルマ・テンプルと大仏が佇み、重金属酸性雨に浸食された無数のハカバを見下ろしていた。現在、ダルマ・テンプルにはカンヌシもレッサーボンズもおらず、朽ちるままとなっている。

2011-01-23 21:06:41
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

汚染された黒雲によって窒息寸前の満月が落とす青白い光の下で、ダルマ・テンプルへと続く石段を静かに駆け登る一人の男。その体は赤黒いニンジャ装束に覆われ、口元は「忍」「殺」と刻まれた鋼鉄メンポで隠されている。五個目のトリイをくぐると、ようやく本堂がニンジャスレイヤーの前に姿を現した。

2011-01-23 21:10:29
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

頂上に達した彼は、耳を澄まし、周囲に伏兵がいないことを確かめると、キツネ・スフィンクスに挟まれた石畳の道を抜けてエントランスへ向かう。誰もいないはずの本堂の内部には、不気味な電子ボンボリの灯りが赤く揺れていた。酸性雨にも耐える見事な一本松が、警告を発するようにざわざわと揺れた。

2011-01-23 21:16:45
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ニンジャスレイヤーは、ここで待ち受けるものがソウカイヤの罠であることを知っている。知りながら、あえて一人でこの決戦の場に赴いたのだ。意を決して正面エントランスのフスマを空けると、テンプル内部には厳かなフューネラル的儀式の準備が万端に整えられていた。

2011-01-23 21:24:03
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

数日前、彼がスガワラノ老人と出会った日の夜。妙な胸騒ぎを覚えたフジキドは、夕刻の訪れとともにスゴイタカイ・ビルの屋上へ登った。そこに残されていたのは、スガワラノ老人の物と思しき竹ぼうきが一本。偽名を使って清掃員らに聞き込みを行うと、やはりその日から老人が姿を消したことがわかった。

2011-01-23 21:28:06
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

フジキドの心は打ちのめされた。ネオサイタマの空を再び覆いつくした黒雲が、彼の胸にも垂れ込めてきているかのようだった。あの時の気の緩みが、一時の油断が、何の関係もない老人を……いや、ニンジャであることも省みずに一人の人間として好意を持ってくれた老人を、危険に追いやってしまったのだ。

2011-01-23 21:32:22
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

スガワラノ老人の行方を追うのは、ニンジャスレイヤーの持つ情報網だけでは不可能であった。しかし3日後、マキモノを持ったソウカイヤのニンジャが、スゴイタカイ・ビルの屋上で佇むニンジャスレイヤーの前に現れたのだ。

2011-01-23 21:34:38
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

スリケンのみでこのニンジャを殺したフジキドは、マキモノを奪い取り、それを開く。『ドーモ、ニンジャスレイヤー=サン。スガワラノ老人を救いたければ、今日のウシミツ・アワーに、ネオサイタマ南西部にあるダルマ・テンプルを一人で訪れよ。ムハハハハハハ!』ラオモト・カンの達筆が踊っていた。

2011-01-23 21:38:09
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ニンジャスレイヤーの胸の内には、再び憎悪の炎が燃え上がっていた。彼はこの怒りを燃料とし、いかなる罠が待ち構えていようとも突破する覚悟を決めて、単身ダルマ・テンプルへと向かったのだ。

2011-01-23 21:39:55
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

だがこれは、いかなる罠か? 百畳近い畳敷きのテンプル内に、敵の気配は無い。紫の花で造られたハナワや、白紙のショドーなどが壁沿いに並び、正面にはデコレーション・ケーキじみた様子で無数の白い花や黄金ブッダが飾られている。その中央に供えられているのは、ニンジャスレイヤーの遺影だった。

2011-01-23 21:47:54
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

何たるアンタイ・ブディズム的光景か! しかもタタミは赤と黒の二色があり、マスゲームめいた精緻さで「死」の文字を描いている! さらに天井に吊るされたスピーカーからは、ネンブツ・レディオ局の有線放送が流れてくるのだ! コワイ! 常人であれば発狂はまぬがれないであろう恐怖の空間である!

2011-01-23 22:39:41
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「今日が己の命日と言いたいか……!」フジキドは大股でデスタタミに踏み込んだ。だが罠の発動する気配は無い。柱にかけられた大時計に目をやると、ウシミツ・アワーまではあと十分ほど。待つとしよう。必要以上の怒りを抑えるためにも。フジキドはデスタタミの中央に座し、チャドーの呼吸を開始した。

2011-01-23 22:43:48
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

デッドムーンが駆る武装霊柩車は、いよいよ港湾エリアを抜け、ダルマテンプルのある無人エリアへと到達していた。3Dナビゲーション情報によると、目的地まではあと3分足らず。偏頭痛は去り、先程よりもニューロンがよく働いた。「……皮肉なもんだな」とデッドムーンは呟く。

2011-01-23 22:53:53
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「どうした?」とカメラヤクザが問う。「何でもない」とデッドムーンはレディオのボリュームを上げ、心の中で独りごちた。((このエリアはナビなんか無くても走れるさ。この辺りの寂れた住宅地は、かつてどうしようもなく無力なガキだった俺が住んでいた、忌々しい街じゃないか。ブッダファック!))

2011-01-23 22:57:05
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「丘が見えたら石段を駆け上れ。正面エントランスから突っ込め」ヤクザは一切の感情が篭らない平坦な口調で言う。「フスマを突き破れと?」デッドムーンが驚いて問いただす。「そうだ。テンプルを制圧したニンジャスレイヤーに奇襲を仕掛けろ」カメラヤクザが不気味なフォーカス音を発しながら答えた。

2011-01-23 23:02:43
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「その情報はどこから来ている?」とデッドムーン。「無線IRCだ」とヤクザ。「提供しろ」「駄目だ。これ以上の情報は運び屋には渡さん」。デッドムーンは舌打ちした。だが、クライアントの意向は絶対である。「戦闘が始まったら余計な口を出すなよ、クライアント=サン。ここからはプロの仕事場だ」

2011-01-23 23:06:37
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

速度をいささかも緩めぬまま、武装霊柩車ネズミハヤイは石段を疾駆した。そしてトリイ。丘の頂上。エントランスから漏れる電子ボンボリの光。カメラヤクザの前に、ジェットコースターめいた衝撃吸収バーが再び現れた。「しっかり掴まっておいてくれよ、クライアント=サン!」

2011-01-23 23:10:25
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

時速200キロで迫るクロームシルバーのボディが激突し、重厚なフスマが木っ端微塵に粉砕された。カメラを内蔵した4基のヘッドライトが、別々の生き物のようにターゲットを捜し求める。敵はすぐに発見された。直結LANケーブルを介して、デッドムーンのニューロンにも瞬時にその映像が転送される。

2011-01-23 23:15:18
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

敵はテンプルに敷き詰められたタタミの中央で正座し、エントランス側に背を向けている。ニンジャ装束を着ているので、恐らくこれがニンジャスレイヤーだろう。どうする? 銃か? 火炎放射か? いや、背後を向いて正座姿勢ならば、轢き殺してネギトロにできる! …ここまでの思考、僅かコンマ4秒!

2011-01-23 23:20:31
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

分厚いタイヤでタタミを焼き焦がしながら、デッドムーンの武装霊柩車は一直線にニンジャスレイヤーへと突き進んだ! カメラヤクザもニンジャスレイヤー轢死の決定的瞬間を捉えてトコロザワ・ピラーのラオモト・カンに映像をリレイすべく、インプラントされたデジタルカメラのフォーカスを絞る!

2011-01-23 23:23:08
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「スゥーッ! ハアーッ! スゥーッ! ハァーッ!」おお、ナムサン! 正座して目を閉じたままチャドー呼吸を繰り返すニンジャスレイヤーは、背後から接近してくるクロームシルバーの捕食獣に気付かないのか? 死の激突まであとタタミ10枚、5枚、3枚! 「スゥーッ! ハァーッ!」

2011-01-23 23:25:58
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「…ブッダコスモス……ユーアーインザスペース…」デッドムーンはレディオから流れてくるエレクトロ・ダークポップを口ずさみながら、ニンジャスレイヤーが正座していた場所を……通過する! 何故だ? 手応えが無い! フロントガラスに血飛沫も飛び散っていない! ニンジャスレイヤーは何処へ?

2011-01-23 23:32:25