女騎士ハラミを焼く#1 戦うのは嫌だ◆3

コテコテの中編ファンタジーツイッター小説です。 予備知識必要なし。バトル、戦略、そしてバトル! 主人公はカワイイ女騎士!  対するは異形の怪物。戦いの行方は……ただしこの女騎士、少々戦いが嫌いなようで。 前↓ 続きを読む
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減衰世界 @decay_world

_女騎士ハラミを焼く #1 戦うのは嫌だ

2016-01-13 17:46:21
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_翌日の騎士団は悲惨の一言だった。そこらじゅうでうめき声。消毒液の匂いが立ち込める。寒空の下寝転ぶ団員たち。テントでの感染を防ぐためだ。  肉に当たったのだ。不衛生な野外で肉を捌くので、よくあることだった。 21

2016-01-13 17:51:34
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_寒風吹き付ける野外とは打って変わって、医療器具のためにお湯を沸かす蒸し暑いテントの中。肉を食わなかったため感染を免れたセリマは、やはり雑用に追われていた。  布団にくるまって野外に転がされている仲間のために、湯たんぽを用意しているのだ。同じく感染しなかった技師も手伝う。 22

2016-01-13 17:54:39
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_技師はわざと聞こえる声で独り言を言う。 「ああ、困ったなぁ。新しい仕事が来てるのに、誰も行けないなんて」 「私に行ってほしそうね」  セリマは不愉快な消毒液の匂いに顔をしかめた。 「手柄になるよ、肉を食うチャンスだ。奪われることは無い」 23

2016-01-13 17:58:54
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_現在この地方を悩ます災厄。肉が足りない理由。それは、邪悪な存在に家畜が襲われているせいである。招かれざる客が1か月前現れたのだ。  湯たんぽを配った後、セリマは技師に連れられて会議用のテントにやってきた。地図を広げる。一帯は遊牧地帯だ。 24

2016-01-13 18:04:13
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_技師は白黒写真を三枚机に置いた。 「下調べは進んでいた。肉を食らう鎧らしいよ」  写真に写っていたのは不気味な肉塊。人型はかろうじてしているが、背中には大きな瘤のようなものが膨らんでいる。手足も丸太のように太い。こいつが家畜を食っているという。 25

2016-01-13 18:07:58
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「できるかな? ン?」  技師は期待する瞳でセリマを見る。会議室は冷え切っており、居心地の悪さもあってセリマは身震いする。イラッとしないでもない。  技師は前線に出ない。実際戦いを強いられるのはセリマなのだ。 26

2016-01-13 18:11:22
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_セリマは深くため息をつく。 「やるしかないでしょ、勝てばいいんでしょ。私も雑用ばっかで許される立場じゃないし。戦えばいいんでしょ、この」  言い放って、資料を丁寧に掴み会議室を出る。後に続く技師。やたら嬉しそうな笑顔を背中に感じる。 27

2016-01-13 18:16:54
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「やっと戦ってくれるんだね」 「戦いは嫌」  即答するセリマ。テントを出ると、寒風が吹きつけてくる。一度だけ振り返って笑顔の技師を睨んだ。技師は前線に出ずに、クロスボウで援護射撃するだけの仕事だ。 「人を矢面に立たせといて、よくそんな嬉しそうにできるね」 28

2016-01-13 18:20:55
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「僕は僕の戦場で戦っているさ。そして君の戦場で戦う君は美しいよ」 「言ってろ」  再び武器庫。技師のお下がりのクロスボウを構える。初めて構えたにしては、妙になじむような感覚。いい品だ。 「肉を食うためなの、仕方なくやってるの」 29

2016-01-13 18:24:55
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クロスボウの弦を張り、発射を確かめる。心地よい発射音。なるほど、彼の戦場もなかなかのようだ。  戦いは嫌だけど、我慢すれば自分も肉が手に入る。彼もそうなのだろうか。セリマは自問する。クロスボウのやけに美しい姿からはそうは感じなかった。 30

2016-01-13 18:28:48
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女騎士ハラミを焼く#1 戦うのは嫌だ (了) #2 肉の暴力 へ続く

2016-01-13 18:29:25