アンエクスペクテッド・ゲスト #6

ネオサイタマ電脳IRC空間 http://ninjaheads.hatenablog.jp/ 書籍版公式サイト http://ninjaslayer.jp/ ニンジャスレイヤー「はじめての皆さんへ」 http://togetter.com/li/73867
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ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

【アンエクスペクテッド・ゲスト】#6

2016-01-12 22:41:01
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

完全なる夜と落ち着かぬ静寂が、スガモ監獄島を包み込んでいた。デッドエンドの発射したロケットランチャーの一撃を受け、カンゼンタイは爆煙の中に消えたのだ。だが死体は残されていない。爆発四散したのか。それとも逃げ、潜伏したのか。デッカー達は本能的に悟っていた。奴はまだ死んでいないと。1

2016-01-12 22:48:44
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

次第に、不穏な噂が囚人達の間を駆け巡り始めた。孤立状態の監獄島に突如ニンジャが現れ、スリケンを投げ、囚人を狩り殺しているという。何故ニンジャが?カタナやヌンチャクは使わないのか?そもそもニンジャが実在するのか?……仮に実在するとしたら、どうだ。……自分たちは、狩られる側だ。 2

2016-01-12 22:53:26
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

血も涙もない重犯罪者たちが、恐怖に呑まれ始めていた。夜の恐怖。不条理の恐怖。ニンジャの恐怖に。こうした極限状況下においては、疑念がデマを呼び、パニックや暴動の火種を生み出す。さらに停電、爆発、破壊、変死……姿見えぬ破壊工作者、コーゾのとる行動が、彼らの恐怖をなおも煽り立てた。 3

2016-01-12 22:59:51
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

恐怖は暴力へと変わり、牙を剥く。総合棟内のブッダテンプル内で看守が殺され、血の魔法陣が描かれた。アンタイブディズム・ブラックメタリスト囚人らの間で誇大妄想が増幅され、暗黒神に生贄を捧げたのだ。スモトリ・ギャング団も看守と小競り合いを開始していた。看守同士の喧嘩も各所で頻発。 4

2016-01-12 23:07:28
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

負傷したスポイラーは、破壊工作を受けた場所の復旧作業を支援。タフガイは即時対応のために中央棟で待機しつつ、こうした暴動の火種を拳で消して回った。デッドエンドは姿見えぬ破壊工作者を探しつつ、各棟を巡回し、囚人たちを暴力と恐怖で黙らせた。 5

2016-01-12 23:15:01
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

だがデッカーたちの活躍をもってしても、大集団を完全にコントロールすることはできない。マッポの数が圧倒的に不足していたのだ。囚人たちは棟内で待機するよう命じられたが、彼らはレミングスめいて自分から外の暗がりへと出て、ニンジャに襲われ、短い悲鳴だけを残して姿を消してゆくのだった。 6

2016-01-12 23:17:57
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

一方その頃、地下大監獄へと続く非常階段を3人の囚人たちが降っていた。「非常識」と書かれたLED誘導灯に虫が飛び込み、焼け焦げ、バチバチと火花を散らす。「タロ、やっぱりテメエは来るな、危険すぎるぜ」"拾い物"の暴動鎮圧散弾銃を持つヤマヒロが言った。「テメエの刑期はあと3ヶ月だろ」7

2016-01-12 23:33:29
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「でも…」タロが返答に窮した。彼はイシカワに肩を貸しながら、不安そうな顔でヤマヒロの後ろを歩く。暗闇の中で靴音が鳴る。ヤマヒロは汗を拭い、続けた。「あの跳躍力、俺も驚いたがよ、ありゃニンジャだ。デッカーのニンジャだぜ。なら謎の化物ニンジャも、あいつらが殺してくれるかもしれねえ」8

2016-01-12 23:42:39
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ここまでの経緯を説明せねばならない。ニンジャ怪物の出現を知ったヤマヒロたちは、脱走のために二手に分かれた。3人は地下懲罰房群へ向かい、伝説の囚人ハッカー、サイモンジ・ヤナギダを探し出す手はずだ。だがここに到達する途中、地上で作戦行動を取るデッカーニンジャらを目撃したのである。 9

2016-01-12 23:50:02
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「テメエはこんなアブねえ橋を渡らなくたって、合法的にシャバに出られるんだぞ。ニンジャのことは忘れて、何か他の、マットウな世界で生きろや」ヤマヒロが言った。「…‥いや」タロは小さく笑い、首を横に振った。「ニンジャの事を忘れるなんて、できないッスよ。弟たちは結局、ニンジャなんで」10

2016-01-12 23:59:51
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「そうか、でもな。俺たちと脱走したら、もうヤクザしか道がねえんだぞ?」「そのために俺に声をかけてくれたんじゃないんですか?」タロはイシカワを支え、石段を下った。「さっきも言ったろ」ヤマヒロは暗闇に銃口を向けながら、進み、溜息を吐いた。「テメエはヤクザするにゃ優しすぎンだよ」 11

2016-01-13 00:05:49
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ヤクザが駄目なら、何か他のを考えますよ。俺、バカだから、まだ思いつかないッスけど」タロは強い表情で言った。「とにかく今は、皆で生きて出たいんッスよ。ニンジャにビビるのも、ニンジャに任せるのも、もうしたくないんッスよ。だから」「よし」ヤマヒロが唸った。3人は階段を下りきった。12

2016-01-13 00:16:30
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

壁に「不如帰」と書かれたショドーとLAN端子穴。イシカワは懐から取り出した小型キーボードを繋ぎ、ハッキングを開始した。「頼むぜ、イシカワ」「これ10万円」「出れたら纏めて払ってやるよ」「グッドビズ」イシカワは無表情にタイプを続けた。タロは頼もしげに彼の指先のフローを見ていた。13

2016-01-13 00:23:29
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

タン、タタン、タタタン、タタ、タタン、スッ、スッ、スッ……タタタタタタタタタタタ……ターン。ほぼ完全な暗闇の中で、イシカワは魔法めいた高速タイプを行った。タロは息を飲んだ。それは正真正銘のブラインド・タッチであった。ピボッ。電子音が鳴り、ロックが開いた。「簡単なタスク」 14

2016-01-13 00:30:29
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ガゴンプシュー。3人は隔壁を抜け、蒸気漂う多層懲罰房へ。ここはまるで巨大な宇宙船内部のようだ。そこかしこで、赤色非常LEDボンボリが音もなく回転している。カン、カン、カン……狭苦しい回廊の床は網目状の鋼鉄となり、足音も変わった。プシュー。後方で先ほどの隔壁が自動的に閉じた。 15

2016-01-13 00:40:01
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ゴンゴンゴンゴン……蜘蛛の巣のように張り巡らされた奇妙なスシ・コンベアが、野放図に広がり無人化された多層懲罰房の非人間性を代弁する。「ここはどの辺だ」とヤマヒロ。「中階層あたりだね」「サイモンジの独房は?」「伝説が本当なら、岩盤のある最下層」「よし、なら急ぐぞ」「うわッ」 16

2016-01-13 00:46:29
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「どうした、タロ?」ヤマヒロが振り返った。「スンマセン、何か、この辺の床がオモチみたいにベタベタしてて、靴が……」「イシカワ、何踏んだか見えるか?」「暗くて見えない。しかし妙だね」イシカワの声は微かに震えていた。「おい、妙って、何がだよ……?」「独房が、どれもモヌケのカラ」 17

2016-01-13 00:53:01
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

イシカワの耳はサイバネが効いている。ソナーめいて周囲の物音を探知できるのだ。「……少し照らすか?」ヤマヒロは散弾銃に備わったサイバーライトに指を伸ばす。可能な限り光は放ちたくなかった。強烈な光は、自分たちの位置を知らせることにもなるからだ。「1秒待った」イシカワが制止した。 18

2016-01-13 01:02:01
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

(((ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ、ヤバイぞ)))イシカワの魂は既に悲鳴をあげ始めていた。何か巨大な、心音めいたものが、闇の中で脈打っていたからだ。(((見るな、見るな、見るな)))それは、地下懲罰房の中空構造の中にぶら下がり、何十本もの触手を垂らす、カンゼンタイの繭であった。 19

2016-01-13 01:11:06
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

イシカワの耳はサイバネが効いている。ソナーめいて周囲の物音を探知できるのだ。「……少し照らすか?」ヤマヒロは散弾銃に備わったサイバーライトに指を伸ばす。可能な限り光は放ちたくなかった。強烈な光は、自分たちの位置を知らせることにもなるからだ。「1秒待った」イシカワが制止した。 18

2016-01-14 22:31:17
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

(((ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ、ヤバイぞ)))イシカワの魂は既に悲鳴をあげ始めていた。何か巨大な、心音めいたものが、闇の中で脈打っていたからだ。(((見るな、見るな、見るな)))それは、地下懲罰房の中空構造の中にぶら下がり、何十本もの触手を垂らす、カンゼンタイの繭であった。 19

2016-01-14 22:31:22
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

シューッ……。ガスマスクの排気弁から微かな呼吸音が漏れる。コーゾである。ひととおりの破壊工作を終えた彼は、カンゼンタイの状態を確認すべく、また地下懲罰房の闇の中に戻っていたのだ。彼は今10メートルほど離れた上の足場から、中央の吹き抜け構造部を通し、3人の囚人を監視していた。 20

2016-01-14 22:38:31