- tokoshiratohime
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辰の刻 とこは枡の中に敷き詰められた真綿の中で目を覚ましました。人間だった頃の癖で目を擦り、しかし瞼はぴたりと閉じまだ開きませんでした。それでも朝日の温かさを全身で感じ取ることは出来たので、とこはにょーんと上に伸びをしました。
2016-01-16 18:00:18「とこ、お早う」 朝日が遮られると同時に上から夫の優しい声がして、とこは両手でそっと掬い上げられました。 おはようございます、のわ様。 「朝餉が出来ていますよ」 わぁ…あ、私まだ口がないです。 とこは一瞬両手を上げて喜びましたがその手を口に戻しておろおろしました。
2016-01-16 18:03:33「大丈夫ですよ、神の食事に口は要りません」 首を傾げるとこを豆座布団の上に下ろすと、太郎太刀は軽く手を叩いて給餌を呼びました。 すると太郎太刀の前には黒い犬が二匹、とこの前には白い鼠が二匹、朝餉を乗せた盆を持って廊下から現れました。
2016-01-16 18:07:01並んで座った二人の前に食器を置き終えると犬と鼠はそれぞれの神を食器の向こうから金色の扇で扇ぎ始めました。 すると朝餉の良い香りが二人の鼻に届き、それだけで心と腹が満たされるような感じがしました。 「感じではなく実際これが私達の食事なのです。神は供えられたものの香りを頂くのですよ」
2016-01-16 18:10:18とこがすすーっと大きく息を吸ってみると料理の味も温かさもしっかりと感じることが出来ました。ついでにそこにある食材が生まれてからここに来るまでの経緯と、材料と料理を作ってくれた人間と、太郎太刀の料理から自分の分をより分けてくれた鼠の信仰心、そして、自分の事を想う夫の笑顔を見ました。
2016-01-17 17:18:06人間として生きていた頃に感じた食事の美味しさが何倍にも膨れ上がって、とこは開かない目からほろほろと涙をこぼし何度も息を吸いました。 おいしい、おいしい、と泣き続ける妻の頭を太郎太刀は人差し指でそっと撫でてあげました。 水分と共に香りと想いを失った料理は再び外に運ばれていきました。
2016-01-17 17:21:07あ、あれは捨てられてしまうのですか!? 「いえ、運んでくれた彼らが食べてくれますよ」 あ…そうですか…安心しました。 ほっとして力が抜けると少し潰れる妻を太郎太刀はそっと両手で抱えました。 「さて、洗面をしたら神事に参りましょう」 洗面必要なのですか?
2016-01-17 17:27:57いよいよ初仕事ですね!頑張ります! 「…いえ、お前はまだですよ」 えっ 「生まれたばかりですから存在するだけで精一杯ですし…そもそも貴方はまだ神として認知されていません」 えっ!?そ、そうなんですか 「神職の者達には貴方が生まれた事を伝えてありますが…」
2016-01-17 17:31:10「願いを掛けられるようになるにはあと300年は必要かと」 えー…じゃ、じゃあ私は何をすれば… 「私の膝にいればいいのです。まずは大きくなって、人の姿を取り戻しましょう。それから少しずつ私の仕事を手伝ってくれれば構いませんよ」 ち、ちなみに人の姿になるまでどのくらい… 「7年です」
2016-01-17 17:33:247年も掛かるんですか!? 「掛かりますよ」 早まったりしませんか…? 「しませんね。人の信仰でもあれば別ですが今のところ食事からしか力をつけられませんし、貴方には寄る辺となるべき神話もありませんし」 神話、ですか? 「どんな神か分からない者に人は願いを託すことは出来ません。」
2016-01-17 17:36:25「戦で逸話が出来た私と違いお前の話は世間には内緒のものですから…300年経って故事、神話として語られ始めて信じられるでしょう。」 はぁ… 「それまで私と次郎で育てて差し上げますから、安心して下さいね」 ………次郎様いらっしゃるんですか!? 「ええ、宝物殿の入口に飾られています。」
2016-01-17 17:39:20次郎様会いたいです!お、お話出来ますかっ? 「ええ、起きたらお前が目覚めたのを感じ取り会いにくるでしょう。さあ、その前に顔を清めますよ」 はい!
2016-01-17 17:40:38