7ビットの心音
- qwerty_misp
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全てはここから始まった
豆太さん(@qwerty_misp)。全体像がまるでわからない巨大な何かのエンジニア。主食はプログラム。食べれないはずの料理が趣味で、作っては持て余しメンバーに振舞う。 #RTしてくれたフォロワーさんを自分の世界観でキャラ化する pic.twitter.com/KDT6Q2Rzqq
2013-12-27 13:55:09まさかの二年後
”ビー”というのが彼女の名前らしかった。「ビー」「なあに?」「この建物は何だ? これは建物なのか?」言うと、ビーは愛し気に目を細めて壁を撫でた。「これはね、ヒトよ。この建物は、大きなヒトなの」「……ヒト?」「ふふ、冗談」 #7ビットの心音
2016-01-19 23:19:54ビーが一歩歩くごとに、その膝はぎしりと音を立てた。彼女のそれが義足なのだと知るのは、もう少し先の話だ。「いつもここで、何をしてるんだ?」問うと、「彼を、造っているのよ」壁に伝う配線を撫でて、ビーはうっとりとほほ笑んだ。 #7ビットの心音
2016-01-19 23:21:27「ビー!」 溌剌とした声とともに、少年が頭上から顔をのぞかせた。真上の通路の柵に足を掛けてぶら下がっているらしい。 「あれ、そのこ汚いおっさん誰?」 言いながら私たちと同じ地面に着地し、手に持っていたつば付きのキャップを後ろ向きにぐいとかぶった。 #7ビットの心音
2016-01-19 23:22:51「ルート、こちらは――」 ビーの説明によると、彼は"ルート"という名のエンジニアなのだそうだ。この建物――"彼"の中には、ビーの足では行けない場所がいくつもある。そういう場所に潜り込んで機械そのものの修理をするのがルートの役目らしい。 #7ビットの心音
2016-01-19 23:23:46“彼”は軋み、唸る。この巨大なメカニックは、ここに住まう人々の部屋以外はほとんどが配線と、ギアと、そういうもので出来ているらしかった。ところどころにネジで止められた扉があって、それぞれにいくらかの英文字とハイフン、数字で採番がしてある。 #7ビットの心音
2016-01-19 23:24:33熱がこもっている場所は少なくなかったが、その対策なのかファンが回っている場所はひどく寒かった。通れる場所の幾つかには行き止まりがあり、ハンドルがあり、梯子があり、屈んでようやく通れそうな扉があったりした。 #7ビットの心音
2016-01-19 23:25:52「おっさん、あんまうろちょろすんなよ。迷子になったら探せねえぞ」「ここはそんなに深いのか?」「深くはないけど、人にわかりやすいようにはできてないんだ」おれは配線だの番号だのたどって帰ってこられるけど、とルートは胸を反らす。 #7ビットの心音
2016-01-19 23:27:27ルートがさらさらと書いてみせた地図を見るに、ここは建物で言うところの3階建てのような構造になっていて、直線的な一本の廊下の先に、枝葉のように細い道が分かれている。平面図で見ると、根のない木のような構造だった。 #7ビットの心音
2016-01-19 23:28:30見下ろした地図の端には、奇妙な空間があった。枝のように這う細い道が、そこだけを器用に避けている。「こっちに行くにはどうしたらいい」「そっちは電気信号にでもなんなきゃ入れねえよ」「ここはメンテナンスしていないのか?」 #7ビットの心音
2016-01-19 23:30:36「してないしできない。使ってない回路だから別にいいんだってさ。言われてねえけど多分、あの事故で壊れたんだと思う」「事故があったのか?」 #7ビットの心音
2016-01-19 23:31:11「おっさんあの事故知らないの?嘘だろ?国中しっちゃかめっちゃかになったのに」「……しばらく国を離れてたんでな」「だとしたってヒジョーシキだなあ。誰かに訊いたりしねえのかよ。いやでも目に入るだろ、外から来たんだから」「思いつかなかった」「案外マヌケなとこあるなー」 #7ビットの心音
2016-01-19 23:33:28「おれの両親はあれにやられたんだよ。気絶して目ェ覚ましたらぐちゃぐちゃになってた。ビーの両足もあれで無くなってる」「道を歩いててうっかり落としたみたいな言い方だな」「そうでもなきゃやってらんないだろ。もうみんな悲しむのに疲れてんだよ」 #7ビットの心音
2016-01-19 23:34:16「これは何なんだ? ビーは『人』だと言っていたが」「さあ。俺も機械だってことしかわかんない」「わからないものを、修理できるものなのか?」「俺は機械が機械らしく動けるように調整してるだけだよ。電流を調整して、ねじを締めて、ギアをはめ込んで」 #7ビットの心音
2016-01-19 23:35:47「もともとこれを造ったのは、ルートではないのか?」「俺じゃない。俺はビーのところで働く、ただの居候だよ」「じゃあ、誰がこれを?」「俺が知るもんか。っと、ここだ」 #7ビットの心音
2016-01-19 23:36:18「せんせー、飯だぜ」呼ばれて振り返ったのは、エプロンを身につけた白髪で痩身長駆の男だった。部屋の中にはイーゼルがあり、片手にパレットナイフを持っている。油絵の具のにおいがした。「おや、もうそんな時間か。そちらは?」「客。おっさん、こっちは先生」 #7ビットの心音
2016-01-19 23:36:58「先生?」「先生は絵描き先生だったり小説家先生だったりすんだ。おれはめんどくせえから先生って呼ぶ。ビーもだ」先生と呼ばれた男は薄い笑みを浮かべて「どうぞよろしく」と言った。 「随分手広いんだな」「器用貧乏なものでね」 #7ビットの心音
2016-01-19 23:37:46「先生はここで何をしているんだ?」「"彼"を観察してる」言って、壁にぺたりと掌を付ける。「彼を見ていると、沢山のことを思いつく。絵だけでも、文章だけでも、彼を表現するには足りないんだ」「な、面倒だろ?」 #7ビットの心音
2016-01-19 23:38:57「ビーは、食いもんは食わねえ。プログラムだけ食うんだ」 「プログラムを?」 「そ。そのくせ料理が趣味なんだ。変だろ?」 一旦言葉を切ってルートは口の中の食物を飲み下し、再び頬いっぱいに皿の上の食事を詰めると話の続きを始めた。「だからいつも俺らに飯を食わせんだ」 #7ビットの心音
2016-01-20 23:23:40「おかげで我々はいつもおいしい食事にありついているけどね」 「プログラムには、味があるのか?」 我ながら下らない質問だと思いながら問うと、ビーはそれを受けてくすくすと笑った。「味、と言っていいのかわからないけど」 #7ビットの心音
2016-01-20 23:24:12「プログラム食いながら、たまに小骨が刺さったみたいな顔してるよな」 ルートがからかうように言うと、ビーも「小さなバグとか、タイプミスとかはね」と返した。嘘か本当かわからないけどね、と先生が笑う。そのあまりにも自然な調子に、はあ、そうですかと納得しそうになる。 #7ビットの心音
2016-01-20 23:24:52「つうかおっさん、食事中も手袋外さねえの?」 ルートが口をもごもごと動かしながら私を指さした。 「潔癖症なんだ、失礼だが気にしないでくれ」 「俺は別に気にしないけどさ。食いにくそうだな」「慣れてるんだ」 #7ビットの心音
2016-01-20 23:25:36