真田丸にみる国衆と家臣

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丸島和洋 @kazumaru_cf

真田丸。第3話より本格的に「国衆」がキーワードになります。日曜は上田シンポで不在なので、多少お話しをおきます。ものすごいざっくり言うと、複数の小領主を従えた領域権力ではあるけれど、自分の軍事力では領国防衛ができないため、戦国大名に従っている「ミニチュア戦国大名」を指します。

2016-01-23 00:52:31

国衆

丸島和洋 @kazumaru_cf

僕は生家の関係も有り、よく企業に喩えるのですが、戦国大名が本社なら、国衆は子会社のようなもの。一般社員である家臣とは異なります。国衆の当主は子会社社長ですから、親会社の経営会議には参加しません。これが譜代=家臣≒社員と、外様=国衆≒子会社社長との違いとなります。

2016-01-23 00:54:26
丸島和洋 @kazumaru_cf

真田家の場合ややこしいのは、幸綱・信綱は国衆として武田家に処遇されていました。ですので、武田家の行政に携わることはありません。しかし昌幸は、七歳で人質に出された後、奥近習に抜擢され、その後武田親類衆の武藤氏を嗣ぎます。

2016-01-23 00:56:09
丸島和洋 @kazumaru_cf

ようするに、子会社の子息が、親会社に研修にいったところ、社長に気に入られて私設秘書になったわけです。その後、順調に出世していき、武田家奉行人をつとめるようになります。会社で言えば、部長クラスの社員になった感じでしょうか。「信玄の両眼」と呼ばれたのはこの頃。

2016-01-23 00:58:10
丸島和洋 @kazumaru_cf

つまり昌幸は、国衆の子息でありながら、譜代家臣として処遇されたわけです。しかし天正3年、昌幸の兄信綱・昌輝が長篠で討死。昌幸は真田家に戻って家督を嗣ぐことになります。しかし彼は既に譜代家臣として処遇されていましたから、譜代家臣の身分のまま国衆の当主となりました。真田家が

2016-01-23 01:00:02

国衆と譜代家臣の両方の性格を持つ真田家

丸島和洋 @kazumaru_cf

つまり昌幸が家督を嗣いだことで、真田家は国衆と譜代家臣の両方の性格を持つようになったわけです。会社で言えば、昌幸は株式会社「武田」本社の部長をつとめながら、子会社有限会社「真田」の社長を兼任したわけです。

2016-01-23 01:01:49
丸島和洋 @kazumaru_cf

さて、真田家は幸綱の代から、上野吾妻郡の軍事指揮権を与えられていました。内政権を与えられなかったのは、譜代ではないから。しかし昌幸が家督を嗣いだことで、内政権も与えられる様になります。昌幸はそこからさらに出世し、家老に登り詰めた上で沼田城を攻略します。

2016-01-23 01:03:27
丸島和洋 @kazumaru_cf

これにより、昌幸は居城岩櫃城のある吾妻郡と、沼田城のある利根郡の軍事・行政権を獲得しました。立場としては「城代」です。会社でいえば、上田市に本社がある有限会社「真田」の社長昌幸が、親会社株式会社「武田」の群馬県北部営業担当取締役になったようなもの。

2016-01-23 01:05:08
丸島和洋 @kazumaru_cf

しかし、武田家が滅亡したことで、昌幸の「家老」という地位は失われます。昌幸は岩櫃城・沼田城を持っていますが、この時点では武田家から管理を任されていたに過ぎません。真田家自体の本領はあくまで信濃小県郡で、同地の国衆です。これが、「真田丸」第3話スタート時の状況となります。

2016-01-23 01:07:57

外から見ると譜代家臣に見える本国の国衆

丸島和洋 @kazumaru_cf

じゃあ小山田・穴山はどうなの?ということですが、彼らも国衆です。ただ、本国の国衆である点が、真田や木曾とは異なります。本国の国衆は、譜代という性格を兼ねる傾向にあり、小山田・穴山も同様でした。

2016-01-23 01:09:13
丸島和洋 @kazumaru_cf

ですので穴山は御一門衆筆頭、小山田は御一門衆末席と御譜代家老衆を兼ねるようなあまり類例のない位置にいました。ポイントは、彼らはあくまで国衆という自意識を持っているが、他からみたら譜代家臣と同様にみえる、ということです。

2016-01-23 01:10:45
丸島和洋 @kazumaru_cf

この立場は難しい。国衆が戦国大名に従っているのは、領国保全のためです。ですので、大名の軍事力に期待できなくなれば、別の大名に乗り換えます。これは裏切りではありません。国衆とはそういうものなのです。

2016-01-23 01:11:59
丸島和洋 @kazumaru_cf

ようするに、親会社(戦国大名)で粉飾決算が判明し、公取が入って、株価が連日ストップ安で取引が成立しない、となったら、連鎖倒産を免れるために他の会社に支援を求めて動き出すのが「国衆」ということです。

2016-01-23 01:13:07
丸島和洋 @kazumaru_cf

問題は、穴山と小山田の立場です。彼らは、国衆家当主として領国を守る「責任」があります。武田滅亡時の動向は、そうした立場に起因します。しかし、第三者=織田の眼からすると、彼らは譜代家臣と映った。実際、重臣として活動していますから。

2016-01-23 01:14:40
丸島和洋 @kazumaru_cf

信長は小山田信茂のことを「家老」として書状に書いています。ですから、小山田「謀叛」は、「国衆」として動いたものではなく、「譜代家臣の裏切り」と捉えられてしまったわけです。

2016-01-23 01:16:36
丸島和洋 @kazumaru_cf

なお、戦国大名は国衆領には基本的に介入しません。税なども、軍役・伝馬役など大名領国全般に関わるものに限られます。裁判も、国衆領だけでは完結しないもの(裁判相手が他の国衆領の住人とか)で、上訴されなければ解決に乗り出すことはありません。自治領たる所以です。

2016-01-23 01:21:17
丸島和洋 @kazumaru_cf

このあたりがご理解いただけると、また違った角度からドラマを愉しんでいただけるのではないかと思います。以上、用語解説「国衆」編でした。

2016-01-23 01:21:27
丸島和洋 @kazumaru_cf

補足。第一話の発端となった木曾義昌の裏切りも、武田家に従っていては、国境を接する織田がいつ攻めてくるかわからない。しかしその際、今の武田に援軍を送る能力があるのか?というのが発端です。これは武田からすれば「裏切り」「謀叛」なのですが、木曾はあくまで国衆の論理で動いたということ。

2016-01-23 01:25:47