裸の犬が首輪付けて歩いてる!◆2
_広大な帝都の中心地。地価も高い、まさに一等地にその家はあった。3階建ての豪華な家で、ビルの隙間にひっそりと佇んでいた。 ベルを押すミクロメガス。隣に座るは犬のシーラ。返事が無い。使用人がいてもいいはずだが。遅れて、弱弱しい声で返事があったので中に入る。 11
2016-01-25 17:23:26_玄関近くのリビングにベッドが用意してあり、酷く痩せた老人が臥している。 「その制服、教導院のモンか。葬式はいらんぞ! 帰れ、帰れ! ゴホゴホッ」 幽鬼のような目で睨み、追い返そうとするが、ふりふりと尻尾を振るシーラを見て表情が変わる。 「フランソワーズ……?」 12
2016-01-25 17:29:10_老人はわなわなと震え、ベッドから上体を起こしシーラに向かって手を差し伸べる。 「おお……フランソワーズ! 帰ってきてくれたんだな……教導院の兄ちゃん! お前フランソワーズをどうするつもりだ! 返せ! フランソワーズを返せ!」 口から泡を飛ばし、叫ぶ老人。 13
2016-01-25 17:34:20_どうやらシーラのことをフランソワーズという犬と勘違いしているらしい。クシュスが言うには、老人と犬のイメージが混入したという。しかし、犬の姿は見当たらない。 ミクロメガスは困った顔で思案する。老人を見る。病に侵され、死相が浮かんでいる。部屋を見渡す。荒れ果てた室内。 14
2016-01-25 17:38:43_恐らく、この老人は孤独なのだ。誰も身の回りの世話をせず、看病にも見舞いにも訪れないのだろう。 ミクロメガスはシーラを抱いて、静かに言った。 「シーラ。一晩預ける。いい子にしてるんだよ」 彼はシーラを置いて、一礼し、家を去った。 15
2016-01-25 17:42:52「おお……フランソワーズ。こちらにおいで」 シーラは素直に老人のベッドに駆け上り、その脇に大人しく座った。老人はしっかりとシーラを抱きしめ、静かに泣いていた。 「ありがとう……帰ってきてくれたんだね、フランソワーズ」 そして、日が暮れていく。 16
2016-01-25 17:46:30「フランソワーズ……お前だけだよ。ワシの傍にいてくれるのは。女は追いかけても逃げていく。友人だと思っていたら、裏切られる。誰もがワシの隣を通り過ぎていった。ただ……お前だけが、いつもの散歩で、必ずワシの隣を歩いてくれた……」 シーラは老人の濡れた頬を舐める。 17
2016-01-25 17:51:14_老人は上体を起こし、サイドテーブルの紙に何かを書き始めた。懺悔は続いている。 「お前をまだまだ可愛がってやりたかった。寂しかったろうに、夜泣きしたお前を叱ってすまん……もっとおやつを上げればよかった。散歩をサボった日もあったなぁ……すまん……すまん……」 18
2016-01-25 17:56:01_翌朝、眠りについた老人が目覚めることは無かった。シーラは老人が冷たくなっても離れることは無く、一晩を共にした。 シーラは物音に気付いて耳を立てる。誰かが家に入ってきた。主人の足音でも匂いでもない。 「おっ、ジジイ、くたばったようだな」 19
2016-01-25 18:01:39_詰襟を着た粗野な男。服は着崩している。男が土足で床を踏むたびに、魔力の風が巻き起こる。魔法使いだ! 「いい家じゃねぇか。ゴミを片付けて、改装するかね」 その言葉に、老人に対する敬意は無かった。 20
2016-01-25 18:05:41