【三ツ者忍法・野々村隠れの術！】TPP担当大臣・甘利明の収賄バンザイ！その４

http://mainichi.jp/sunday/articles/20160125/org/00m/010/001000d

野党の体たらくで順風満帆に見えた安倍政権が、甘利明・経済再生担当相の「ワイロ疑惑」で、いきなり黄信号が点滅だ。最重要閣僚の醜聞だけに、コトは深刻。参院選勝利、そして憲法改正を目指す「安倍カレンダー」が総崩れしそうな雲行きなのだ。

「（週刊誌の）記事を読んだが、業者本人が証言している以上、かなり厳しい」

　自民党の国対幹部は、『週刊文春』の発売当日、番記者たちとのオフレコ懇談でこう本音を漏らした。

　スキャンダル発覚の場合、国対はまずは否定して、防御態勢をとる。ところが、今回ばかりは「身内（党内）でも逃げようがないと思っている者が多い」（自民党国対メンバー）と言うのだ。

　党幹部らは表向き、「説明責任を果たして職務をまっとうしてほしい」などと“援護射撃”をしているが、ウラでは「辞任の可能性は高い。いつどんな辞め方をしても政権への打撃を最小限にするのが重要だ」（派閥領袖(りようしゆう)）などの声が多い。

　何より頭を抱えているのは官邸だ。安倍首相の側近議員の一人は言う。

「首相は『安倍カレンダー』をいったん凍結せざるを得ないでしょう」

「安倍カレンダー」の中身については後述するが、今回、永田町を激震させた「政治とカネ」のスキャンダルが発覚したのは、安倍首相の“盟友”で政権の最重要閣僚である甘利明・経済再生担当相―。

　甘利氏はアベノミクスのまとめ役で、長年の懸案だった環太平洋パートナーシップ協定（ＴＰＰ）合意も仕切った。さらに安倍首相と麻生太郎・副総理兼財務相、菅義偉官房長官に甘利氏が加わった４人が盤石な体制を組んできた。

　その甘利氏が、千葉県内の建設業者と独立行政法人「都市再生機構」（ＵＲ）のトラブルで口利きをして、その見返りに甘利氏と自身の秘書が業者から現金を受け取ったという疑惑が、１月21日発売の『週刊文春』で報じられたのだ。

　記事中には、大臣室で甘利氏に現金50万円を直接手渡した様子なども報じられている。業者は現金以外の接待を含め、甘利氏側に１２００万円をつぎ込んだという。だが、今回の記事が異例なのは、冒頭の国対幹部が「かなり厳しい」と言うように、現金を渡したという業者自身が名乗り出て、実名告発している点だ。

　秘書や甘利氏との接触の様子ややりとり、現金を大臣室で手渡した時の甘利氏の表情などがこと細かに報じられ、さらに業者は領収書のコピーなど証拠類、50時間以上の音声記録などを残しているという。

　信憑(しんぴよう)性はきわめて高いといえよう。

　前出の国対メンバーの話。

「業者が持っているとされる数々の証拠によって口利きが立証されれば、あっせん利得処罰法違反になる。業者が実名告発したということは、自分も刑事罰を受けてもいいと覚悟を決めたということ。甘利さんや秘書に依頼したことが裏切られたことに、相当な恨みがある。これは本気だ」

　また、自民党のベテラン職員は言う。

「週刊誌報道が一発で終わるはずはない。第２弾、第３弾と新たな話や状況証拠を次々に出してきます」

　甘利氏のカネ醜聞が報じられる―永田町にそんなウワサが駆け巡ったのは、発売前からだ。とくに１月19日、甘利氏は思い余って安倍首相の元に駆け込んだ。

「週刊誌側が、甘利事務所や秘書に確認を取ろうとした。当初、甘利さんは自分たちで対処しようとしたが、それができずに安倍首相に相談。官邸は大慌てで記事の内容を探ったり、告発している千葉県の業者や建設団体、ＵＲなどをあたったようだが、すでに記事はでき上がり、業者も一歩も引かないことが分かって諦めざるを得なかった」（自民党幹部）

　官邸の衝撃は大きかった。安倍首相側近は、

「首相は表面的には表情を崩さなかったが、それはショックが表に出ないようにした演技だ」

　と話す。では、首相が描いていた「安倍カレンダー」とは何なのか。自民党ベテラン議員が解説する。

「順風満帆のカレンダーですよ。昨年の安保法制で下がった支持率も回復し、首相は自信に満ちていた。５月には首相最大の見せどころ、伊勢志摩サミットを華々しく成功させ、その勢いで参院選になだれ込めば大勝できる。野党協力がモタモタしているから、場合によっては衆参ダブル選挙で長期政権の基盤をつくることも考えていました。その先には憲法改正もあります」

　ところが、である。この「安倍カレンダー」が、“甘利爆弾”で狂い始めたというのだ。「国会は６月が会期末ですが、実質的には５月のゴールデンウイークまでに終わらせる。つまり１２０日程度しかないというのが、官邸や党国対の『ウラ日程』。５月に入ったらサミット一色。加えて安倍首相は、４月から５月にかけて中国やロシア訪問も計画している。その窮屈な日程内で、２大テーマの軽減税率問題とＴＰＰ問題を終わらせなければならない。ところが、そのＴＰＰ担当相は甘利さん。このままだとＴＰＰ審議にまったく入れない」（前出のベテラン職員）

　野党は、民主党が特別調査チームを作るなど“甘利醜聞”を徹底的に追及する構えだ。となると、政府・与党がいくら審議を始めようとしても、その前に「甘利醜聞の審議」「甘利氏の証人喚問」などを求めるのは確実。また、最終的に本人は“シロ”だとしても、公設秘書の疑惑を晴らすことは困難だろう。国会空転は確実だ。野党が審議拒否などして、与党だけで審議を強行しようものなら、肝心の内閣支持率が下がる恐れもある。

「結局、甘利さんをＴＰＰの答弁者にするわけにいかない。つまり、辞任させるしかない。といって、ＴＰＰをまとめたのは甘利さん。新大臣が答弁できるかどうかは非常に疑問です。問題発言でもすれば、再び農業団体の“反ＴＰＰ運動”に火が付くかもしれない」（前出のベテラン職員）

　自民党の選対幹部が話す。

「たとえ甘利さんが辞めても、新たな事実などが出てくれば、４月の衆院北海道５区補選（町村信孝氏死去に伴う）や地方選挙に影響する。これらに敗北すれば、安倍首相は衆参ダブルという決断はできないでしょう。参院選も危うくなる」

　では、安倍首相は“甘利爆弾”をどう処理するのか。首相周辺は話す。

「２月４日にニュージーランドで行われるＴＰＰの署名式までは甘利さんに任せようという思いがあるようです。これまでの恩義でしょう。でも世論が黙っているかどうか……」

　安倍政権の内情に詳しい経済産業省ＯＢは手厳しい。

「本来、ＴＰＰは関税を撤廃して自由に公平な競争をしよう、というものです。そのトップが特定業者からカネをもらったとなれば、言語道断。日本の信頼自体が問われます。そんな醜聞大臣が12カ国の関係閣僚が出席予定のＴＰＰ署名式に出れば、世界中から笑われますよ」

　甘利氏は、閣議後会見（22日）で「１週間以内に記憶を確認し、お話しする」と期限を区切って説明責任を果たすとしている。だが、前出の経産省ＯＢは「すぐに辞任すべき」と憤る。自民党の中には、他にも“醜聞大臣”がいる。選挙区内で有権者に香典を配った公職選挙法違反疑惑と下着ドロボーの“過去”を指摘される高木毅復興相（ともに事実を否定）だ。今夏に選挙を控えるベテランの参議院議員は「一刻も早く、２人セットで処理すべき。そうしなければ、参院選は勝てない。株価も怪しくなっているだけに、安倍首相は冷徹になるべきだ」と話す。

　それにしても、である。事実関係が報じられた通りだとすれば、「この時代にこんなスキャンダルが出ること自体、信じられない」と呆(あき)れるのは、自民党内の３回生議員。

「甘利さんは、大臣室では現金を受け取っていないと釈明するが、渡したほうの描写は生々しい。まるで、江戸時代の悪代官と越後屋の世界ですよ。大臣室で露骨に口利きとは、前近代的な“ワイロ政治”です」

　甘利氏といえば、旧山崎派（山崎拓・元副総裁）の跡目争いに敗れて派閥を飛び出し、仲間数人とともに活動を続けてきたが、安倍首相に乗る形で這(は)い上がった政治家だ。政策については「通産・商工族」（自民党幹部）との評価がある一方で、「経産官僚の振り付け通りに動いてくれる」（前出の経産省ＯＢ）という皮肉な見方もある。そして、カネに関しては「２世議員で選挙もカネにも苦労しないボンボン」（甘利氏の選挙区の民主党地方議員）、「苦労知らずで、何事においても脇が甘いと自分で苦笑していた」（地元後援会の幹部）といった声がある。総じて言えば、「２世の軽さ。今回、自身が潔白だったとしても秘書への教育などが甘い。他人任せの政治家だということです」（前出の民主党地方議員）。

　安倍首相にとって、態勢の立て直しは、まずは甘利氏に引導を渡すこと。だが、それでも「安倍カレンダー」は修正を余儀なくされる、というのが自民党内の一致した見方だ。

「告発者の会話録音や口利きの証拠で、公設秘書はあっせん利得処罰法違反で立件される可能性があります。甘利さんは現金を受け取ったのか、それがどんなカネだったのかなど不明な点も多い。長期戦は必至ですね」（前出の国対幹部）

　甘利氏への追及が続けば国会は大荒れとなり、ＴＰＰ審議はモメにモメるだろう。参院選や衆参ダブル選の行方を含め、「甘利爆弾」が政権崩壊の序章になりかねない。