- tasobussharima1
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ブッシャリオン、今回はちょっと伏線を詰め込んであるので情報過多かもしれない(後の展開をご存知の方は、詰め込む理由がわかるかと思いますが) #徳パンク
2016-01-08 21:15:46「徳とは何か。それを徳エネルギーと切り離して語ることは最早できない。仏教のみならず、功徳に近い概念……『善行に報いる』という信仰は既に人類に普遍的なものだ」 埃っぽい本だらけの部屋。大きな机の上には、既に動かぬ情報端末。その前には、皺だらけの頭の禿げ上がった老人が座っている。
2016-01-08 21:04:09「即ち、元来人類が形而上作用として持っていた法則を強化し、物理現象として作用するようにしたもの……それが徳エネルギーの正体だ」 ぶつぶつと呟きながら、禿げ頭の老人は机の端で書き物をしている。横脇には紙資料の束。記されているのは難解な数式と曼荼羅めいた図、『覚醒者』のタイトル。
2016-01-08 21:08:07「間違っては、いなかった筈だ。だが儂は後悔しいている。徳エネルギーを通常動力へ変換する『マニタービン』。あれさえ発明しなければ、少なくとも徳カリプスの発生は……っ!」 「おじいちゃん、体に毒ですよ」 興奮し立ち上がろうとした老人に、孫娘が駆け寄って諌める。
2016-01-08 21:12:08「……いつもすまんのぅ」 互いの気遣い。実に美しく、徳の高い光景だ。だが既に齡80を数えるこの老人こそ、徳エネルギーの権威にしてチベット仏教の高僧、ラマ・ミラルパ20世である。 「それは言わない約束でしょ」 そう言って孫娘は微笑む。この高僧は彼女のただ一人の縁者であった。
2016-01-08 21:16:06「爺さん、爺さん!まだボケてるか!」 「邪魔するぞ」 そこへ慌ただしくドアが開き、入ってくる男が二人。クーカイとガンジーである。 「ソクシンブツを見つけてきた。これで三ヶ月は持つぞ!」 「……そうか。良かった」 老人の皺だらけの目元が微かに綻ぶ。
2016-01-08 21:20:08「徳ジェネレータを動かしてくれ。爺さんじゃないとダメなんだ」 捲し立てるガンジーと老人の間に、娘が割り込む。 「ガンジーさん、お爺ちゃんは疲れてるのよ」 「……いや、ジェネレータの所へ搬入しておいてくれ。今晩にでも見てみよう」 だが、老人はそれを更に制した。
2016-01-08 21:24:08「よろしく頼むぞ」 老人はこうして、身分も名前も隠してこの街に身を寄せ、徳ジェネレータのメンテナンスをして暮らしている。 「しかし、爺さんくらい徳があれば、自給自足だってできるだろうに。有り難いのは確かだが、なんで採掘屋の街なんぞにいるんだか……まぁ、有り難いのは確かだけどよ」
2016-01-08 21:28:04「年寄りには、色々とあるんじゃよ。それに、自分のためにしか使わぬ徳は、錆び付く」 「ガンジー」 「……そうかい。じゃあ、ぽっくり成仏しないようせいぜい気を付けてな」 老人は、嘘を言った訳ではない。何故彼が、小さな街で埃を被っているのか。それには、様々な理由がある。
2016-01-08 21:32:05徳の自給自足……ソクシンブツ一歩手前みたいな生活をすれば十分可能なのかな。二人暮らしで互いを思いやるというのは確かにやりやすそうだ(この発想が既に徳から遠い気がする #徳パンク
2016-01-08 21:35:38-------- 二人の若者が立ち去り、『孫娘』も自分の部屋に戻った後。 「……徳カリプス。ポテンシャルとして蓄積された徳雪崩による、連鎖的集団解脱現象」 老人は再び机に向かい、誰に聞かせるともなく呟く。彼の隠遁は、決して徳カリプスを引き起こした負い目のみによるものではなかった。
2016-01-08 21:36:04ポテンシャルとして蓄積された徳雪崩による、連鎖的集団解脱現象 字面だけ見ればなんかいい事みたいに見えるけど。解脱できるんだし。でもこの世界では解脱するために徳を積んでるんじゃなくてエネルギーが欲しいだけだから解脱できても誰も喜ばないのか #徳パンク
2016-01-08 21:38:32「衆生は、行き詰まりつつあるのやもしれぬ。だが……それでも。取り残された1人として、あやつを許すわけには、いかぬ」 老人……ミラルパ20世は、何事かを書き留め、机の中に仕舞う。彼の同胞の多くは徳カリプスにより成仏し、この世界から消え去った。
2016-01-08 21:40:09