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NJSLYR / ニンジャスレイヤー @NJSLYR
(これまでのあらすじ:サイバネ技術が普遍化した未来。無限の広がりと輝かしき繁栄を得るはずだった人類は、Y2Kカタストロフィによる混乱と、枯渇IP資源を巡って暗黒メガコーポが引き起こした熾烈な電子戦争により、致命的な技術衰退を経る。やがて電子戦争終結から長い年月が経過した、或る日)
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【アルパイン・サンクチュアリ】
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フジサン北東部に位置する、峻厳なる山並み、ソード・マウンテン。それは別名、死の尾根とも呼ばれている。1日の20時間以上は極寒のブリザードが吹き荒れ、近づく者など皆無。 1
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その中腹部、如何なるエクストリーム・スキーヤーも生きては帰れぬ岩がちな斜面の下、危険な崖の横に、IP資源を秘蔵し続ける暗黒メガコーポのデータセンターが隠されていた。雪原迷彩が施された巨大トーチカの如きその建物の横には、いくつかの墓標らしきものが立っている。 2
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今から三十年近く前。電子戦争で疲弊したある暗黒メガコーポが、残されたIP資源を秘匿すべく、このデータセンターにたった5人のサラリマンを送りこんだ。五十年分の食料、水、薬剤、そして他社に攻撃された場合の自衛武器とともに。 3
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データセンターの横にある、雪をかぶった名も無き四つの金属柱。それは保守と護衛を任されたサラリマンたちの墓標に他ならない。彼らはここで自社の勝利を信じ、UNIXを保守し続け、電子戦争の終結を待ち続けた。一年。五年。十年。二十年経っても本社からエージェントは来なかった。 4
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だが実のところ、電子戦争はとうに終結し、彼らの暗黒メガコーポは倒産していたのだ。この終わりの見えない過酷なサラリマン生活の中で、ある者は病魔に冒されてサンズ・リバーを渡り、またある者は下山を試み永遠に帰らなかった。そして、一人だけが生き残った。 5
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時刻は朝7時。今日も天気が良い。「フンフンフン……フンフフンフン……」その老人、リケ・シマタは、細いスリットの強化ガラス窓から差し込む爽やかな朝日を浴びながら鼻歌を歌い、鏡の前で髭を剃っていた。キッチンからは、香ばしいオーガニック・コーヒーの香りが漂ってくる。 6
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顔を洗い、歯を磨き、軽いシャドーボクシングをしながらマイクロキッチンへ向かう。彼の朝食はいつもと同じだった。輸血製剤じみて真空パックされたネギトロ200グラムを食べ、ショーユを舐め、ビタミンと微量のタノシイが入った使い捨てシリンジを注射する。そして最後に、コーヒーを飲むのだ。 7
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データセンターは外界と完全に途絶されている。物理的にも、また電子的にも。発見されぬように作ったのだから、当然だ。「さて、今日の仕事は……」リケは保守用のUNIXモニタを見て、アラート状況を確認する。イエローが1件。グリーンが2件。レッドは皆無。「随分と退屈な1日になりそうだ!」8
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リケは作業着に着替え、工具箱を背負い、広大なデータセンターの保守作業に向かった。命綱をつけ、ウインチを回し、鉄格子の中のUNIX排気ファンに油をさす。彼がメンテするのはUNIXだけではない。三十年の時の中で老朽化したこの施設そのものだ。今では彼一人でほぼ全てをまかなえる。 9
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案の定、今日の仕事は昼食前に終わってしまった。ブリザードが収まっているうちに外に出て、ライフル銃の射撃訓練と点検を終えた後、リケはマイクロキッチンに戻り、冷凍ソバを食する。そしてチャを飲み、一息ついた彼は、午後の退屈な時間を過ごすために、友人の待つメイン電算室へと向かった。 10
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『ドーモ、リケ=サン、ショーギ、ヲ、シマショウ』電子音声が彼を出迎えた。2つの愛らしいカメラ・アイが動き、単純な機構のメカ・アームを掲げた。「ドーモ。ああ、昨日は私が長考したまま寝てしまったのだなあ」リケは友人に返事をし、昨日の夕方のまま保存された将棋駒を見て、顎をなでた。 11
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友人は一本しかないメカ・アームを理科試験スタンドじみたレールに沿って上下させ、嬉しそうにカメラ・アイを横に振った。『キョウハ、マケナイゾ』「私の台詞だ」リケが笑った。彼の友人は極めて単純な構造のショーギ・ロボットだ。目と腕以外の全ては、カスタムAIが入ったUNIXの中にある。12
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リケは将棋盤の前に座り、袖をまくった。カメラ・アイがウイー、ウイーと鳴った。『キョウモ、テンキガ、ヨサソウデスネ』「ああ、珍しい事にな」リケが返した。モニタには『RIKE vs ICHIBAN』の文字と棋譜が表示された。ロボの名はイチバン。男の孫がいればつけたい名前だった。 13
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二人は静かにショーギを再開した。パチリ。『キョウノ、ホシュ、ドウダッタ?』パチリ。「イエロー1つに、グリーン2つだ」パチリ。『レッドハ?』「レッドはない」『タクサン、ショーギ、デキルゾ』イチバンは楽しげにメカ・アームを振った。イチバンのAI会話能力は、異様なほどに高かった。 14
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イチバンのAIはもともと、極めてシンプルな教育型プログラムだったが、長い年月の中で、いつの間にか現在の状態になっていた。初めは知らない言葉ばかりだったが、リケがその都度UNIXキーボードを叩いたりして、言葉をひとつひとつインプットしてきたのだ。 15
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2時間後、リケは終盤のミスで敗北し、UNIXからは電子ファンファーレ音が鳴っていた。イチバンはメカ・アームで敵のショーグン駒を誇らしげに掲げあげた。『カッタゾ』「上手くなったな、二連敗か」リケは悔しげに膝を叩いた。『アナタノ、サンレンパイ、デス』「そうか、忘れっぽくていかん」16
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それから2人は日課として、夕方までショーギを楽しんだ。延長は無し。そこからリケは夕食をとって、日報をつけ、寝る。イチバンとの日課が、リケの精神を支え続けてきた。食料備蓄は100年以上ある。だがこの愛らしい友人がいなければ、備蓄など死を延長させる苦痛の種でしかなかっただろう。 17
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「続きは明日だ、おやすみ、イチバン」『オヤスミナサイ』「うむ」リケは電算機室の電気を消し、マイクロキッチンへと向かった。夕食を食べ、時間通りに日報をつけ終わった。そして保守用のUNIXモニタを見ながら、ふと、気づいた。「磁気嵐の値が……おかしいぞ。測定器が狂ったか……?」 18
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リケは額の汗を手で拭いながら、キーボードを叩く。「やはりおかしい。磁気嵐が消えている?いつからだ?いつから磁気嵐は……!」彼はすぐに気づいた。「磁気嵐が無いならば、本社に無線電波が届くのでは……」リケは書庫に向かい、15年前に閉ざしたままの、非常時対応マニュアルを発見した。 19
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その日、リケは眠れぬ夜を過ごした。ログを調べたところ、磁気嵐は数日前にゼロレベルまで低下していた。この数年間、彼はこの値をもうほとんどチェックしておらず、救援信号など何の意味もないと思っていた。磁気嵐によって、全てかき消されてしまうからだ。本社の事すら、もう忘れかけていた。 20
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自分はイチバンとここで朽ち果てるものと思っていた。先月も彼のスペアパーツに使えそうなゴムベルトを発見したところだ。外はどうなっているだろう。不安もある。だが……義務は義務だ。仲間たちと保守した資源を無駄にはできない。明日も磁気嵐が晴れていたら、シグナルを送ろう。そう考えた。 21
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時刻は朝7時。今日も天気が良い。「フンフンフン……フンフフンフン……」リケ・シマタは、細いスリットの強化ガラス窓から差し込む爽やかな朝日を浴びながら鼻歌を歌い、鏡の前で髭を剃っていた。キッチンからは、香ばしいオーガニック・コーヒーの香りが漂ってくる。 22
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顔を洗い、歯を磨き、軽いシャドーボクシングをしながらマイクロキッチンへ向かう。彼の朝食はいつもと同じだった。輸血製剤じみて真空パックされたネギトロ200グラムを食べ、ショーユを舐め、ビタミンと微量のタノシイが入った使い捨てシリンジを注射する。そして最後に、コーヒーを飲むのだ。23
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