デイドリーム・ネイション #3

ネオサイタマ電脳IRC空間 http://ninjaheads.hatenablog.jp/ 書籍版公式サイト http://ninjaslayer.jp/ ニンジャスレイヤー「はじめての皆さんへ」 http://togetter.com/li/73867
2
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

(前回あらすじ:コトダマ空間認識者を「治療」する閉鎖施設アケガ・ターミナルに収容されたクロマに、アイザワは脱出計画を持ちかける。アイザワが東棟のUNIXをハックするとともに、クロマは西棟に渡り、アイザワの昔の仲間であるタネコを動かせというのだ。クロマは西棟に侵入し、職員を殴った)

2016-02-06 21:39:19
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ああ……」「席を立ったらいけないのでは?」他の収容者の中から、おずおずと声が上がった。タネコは顔をしかめた。「いけないッて何さ。ここは刑務所じゃないんでしょ?なら世界の終わりまで突っ立ってな」「ええと、僕らは、逃げます」クロマは説明した。「ご一緒する方はどうぞ」 1

2016-02-06 21:47:10
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

もはや振り返らない。二人は廊下に飛び出し、職員の出現を警戒しながら足早に進んだ。足を止めずクロマは問うた。「その……シツレイなんですけど、しっかりしてますね、随分」「なに?」「心の王国ですか」「ああ……アンタもしっかりしてると思ったけど。アイザワがそれをアンタにね?」「ハイ」 2

2016-02-06 21:53:47
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「とはいえ私も危ないところだった。あの野郎の名前を聞くまでは、殆ど染まってた。恥ずかしい姿を見せちゃった。どっち?」「この階段、上です」武器になるものを探すが、そういったものは施設から用心深く取り除けられていると見えた。「私達のクランでは心の王国の訓練を受ける。拷問に備えて」3

2016-02-06 21:59:33
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「クラン?ハッカーのですか」「そう。少数精鋭で、預金システムを電子的に攻撃していた。だけど、もう無くなった……アイツと私以外、皆死んだ。アイツのせいでね。それを、よくもヌケヌケと」「シツレイですが、ということは貴方の心の王国は」「そりゃあアイツに一発カマしてやるっていう気持ち」4

2016-02-06 22:04:22
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「コメントは差し控えます」「私について何て言ってた」「その……自分より上のハッカーだと」「当然よ」彼らは上階に到達。向かってくる職員を見つけて再び階段に身を潜め、気付かず角を曲がろうとしたところを二人がかりで叩きのめした。丁度その時、西棟でもアラートが鳴り始めた。ブガーブガー。5

2016-02-06 22:10:47
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

『第3映像室において職員へのアサルト行為、収容者数名の集団的反抗行動発生。東棟の状況に関しても、各職員はデータを同期し……』「これからヤバイですよ、多分」クロマは足を速めた。反抗行動のくだりが気になった。感化された収容者が出たか。好都合だが……チカマツ=サン。無事で居てくれ。6

2016-02-06 22:22:39
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

タネコはUNIXルームの扉の前に屈みこんだ。左目の眼球を裏返し、透明で平たいLANケーブルを引き出した。さながらテープワームめいていた。「どう、コワイでしょ。ここの奴らにもバレなかった」見張るクロマに笑いかける。クロマは青ざめ、タフであろうとした。「どうってことありませんよ」7

2016-02-06 22:25:21
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

タネコはUNIXルームのドアに直結した。「ザッケンナコラー収容者!」クロマは振り返った。階段方向!暴徒鎮圧装備の大柄な職員二人が、クロマ達に鎮圧銃を向けて警告した。「スッゾ!鎮圧しますよ収容者!」「スミマセン!」クロマはホールドアップした。タネコはその陰で目を閉じている。 8

2016-02-06 22:32:34
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

直結作業中だが、タネコが言うであろう言葉はわかりきっている。「時間を稼げ」だ。「スミ……スミマセン、これは何かの間違いなんです」クロマはもつれる舌を動かし弁明した。何か。何か材料はないか。「そもそも、見てください。僕は、そうだ、生体LAN増設もしていないんです。適合者だなんて」9

2016-02-06 22:35:09
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

武装職員二人は同時に首を傾げ、互いを見た。それから向き直った。「本当です。ほら!」クロマは遮り、ホールドアップしたまま頭を動かした。「ほ、ほら!ハッカーでもなんでもない!」職員のサイバーサングラスが冷たく光った。「収容の条件は非公式です」「スッゾ収容者!尋問を要する」 10

2016-02-06 22:40:29
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「アイエッ!近づくな!危ないぞ!」クロマは喚いた。キャバアーン!その時UNIX室のドアが開き、短い痙攣とともにタネコが覚醒した。武装職員が突撃しようとしたその時、階段の下からやや抑揚の薄い鬨の声が上がってきた。「「「ワオオーッ!」」」ナムサン!感化された収容者達だ! 11

2016-02-06 22:43:14
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ザッケンナコラー収容者!」「スッゾ収容者!」BLAM!BLAM!武装職員は彼らめがけ鎮圧銃を撃った。形状記憶カーボンの銃弾がX字に展開し、先頭の者達の四肢を打擲した。「アイエエエ!」「アイエエエ!」ナムサン!収容者はたちまち崩れ立つ。だがクロマ達はこの機に室内に滑り込んだ。12

2016-02-06 22:49:26
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ブガガブガー!今や西棟でも激しい警報音が鳴り響く中、タネコはUNIX室のメインデッキを見つけ出し、再び直結を行った。「スミマセン……スミマセン」クロマは強化カーボンフスマドアをロックし、外の叫び声を閉め出した。「何を今更弱気になってる!」タネコは叱責し、痙攣の後トランスした。13

2016-02-06 22:53:52
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

UNIXモニタ上ではウサギと蛙が鶴と亀をボーで攻撃する戦闘的グラフィクスが走りはじめた。クロマにはその進捗の状況は皆目わからない。出来ることは、白目を剥いて痙攣するタネコを、負担にならぬよう椅子に座らせる事くらいだ。「僕はどうする」彼は呻いた。「チカマツ=サン。死ぬなよ……」14

2016-02-06 23:01:13
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

タネコを振り返り、それから扉を見る。いまだ喧騒が聞こえてくる。どちらが優勢だ?チカマツを探しに飛び出す?否……否……今のタネコは無防備だ。そうだ、アイザワもだ。この部屋のロックが破られれば、クロマがまだしも抵抗できる。だが東棟のアイザワは……!「クッソ……どうすンだよ……!」15

2016-02-06 23:08:13
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「「「ウオオオーッ!」」」その時、歓声じみた鬨の声!クロマはハッとなった。収容者が勝ったのだ!安全を確保できる!クロマは祈るようにシャッターフスマを開き、外に出た。果たして、折り重なるように倒れる武装職員と複数名の収容者達!しかと立っているのはほんの数名に過ぎないが! 16

2016-02-06 23:16:45
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「脱走の手筈があります!」クロマは叫んだ。彼らを囮にした格好だが、謝罪は後だ。「今、ハッカーが西棟と東棟を同時にアタックしている。防衛システムを潰せば、我々の外の仲間が……」多分そうですよね?アイザワ=サン。クロマは勢いのままに言った。「すぐに攻撃をかけ、解放します」 17

2016-02-06 23:19:40
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ここまでやっちまったはいいが」一人が荒い息をつき、額の汗を拭った。拳の皮がめくれ、痛々しいさまだ。「後が無いぞ」「ローニン・リーグ」クロマは言った。「ここをアタックするために、彼らが既に準備を進めているんです」「信用できるんだな?」武装職員の装備を剥ぎながら、一人が尋ねた。18

2016-02-06 23:24:46
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

クロマは唾を飲んだ。そして言った。「なぜなら僕もローニンの一人だ。アンタ達を救出する作戦を行う為に潜入したトロイだ。だけど、外の連中が突入をかけるには、外を守る防衛ロボニンジャを停める必要がある。それまでは、自我を保っている者同士で、凌がなければならない!」見渡す。目。目。19

2016-02-06 23:30:14
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「……信じるさ」奪った電磁警棒の重さを確かめながら、先ほどの男が言った。負傷者の肩を貸す女が無言で頷いた。「どのみち限界よ。目を閉じていても映画が再生できちゃうんだから。最低すぎる」「だな」拳を怪我した男が力なく笑った。クロマは力強く笑い返した。「絶対、自由になりましょう」20

2016-02-06 23:37:05
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

一人。また一人。次々に膝をついた。彼らは意外そうに互いを見、クロマを見た。「え?」クロマは瞬きした。負傷した者から順に、瞳孔を拡大させ、虚ろな表情と化して倒れた。「え?」クロマは膝をついた。立っていられなかった。無駄だからだ。「おや?多少イキがいいな」近づいてくる影が言った。21

2016-02-06 23:40:59
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「何だこれ」疑問をつぶやくのがやっとだった。UNIX室のドア。大丈夫。再び閉まっている。クロマは立ち……いや、立ち上がっても仕方ない。己の感情にやや戸惑う。収容生活の中で自我に負ったダメージに、毒水のように染み入る無力感。目の前で影がアイサツした。「ドーモ。デプレッサーです」22

2016-02-06 23:44:11
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ああ」クロマは横向きに倒れた。口の橋から垂れたヨダレが頬を伝い、床を伝った。「まだ俺を見ている。なんとまあ」デプレッサーと名乗った影は腕組みしたまま肩を揺らして笑った。「ここの野菜どもが暴動の真似事というのも大変意外で面白かったが、お前も面白いな」「ニンジャ……ナンデ」23

2016-02-06 23:48:40