ほしおさなえさん(@hoshio_s)の140字小説49

ほしおさなえさん(@hoshio_s)の140字小説49 その490~その499です。 48⇒ http://togetter.com/li/935345 50⇒ http://togetter.com/li/935351 続きを読む
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ほしおさなえ @hoshio_s

140字小説その490。

2015-08-30 06:31:30
ほしおさなえ @hoshio_s

夕方、畳に座っていると亡き妻がやってきた。妻の身体は透けて声もせず、わたしの声も届かないらしい。黙って並んで座り、外を眺めている。生きることがおそろしくなり、目を瞑る。目を開くと妻の姿は消えている。さびしかった。なにもかもいたのかいなかったのかわからない。土塊のように生きている。

2015-08-30 06:32:19
ほしおさなえ @hoshio_s

140字小説その491。

2015-08-31 18:40:21
ほしおさなえ @hoshio_s

ポケットにはいるほど小さくなった象を連れて旅に出た。むかしいっしょに行った場所を順々に訪ねていく。象はにこやかだが目に映る風景は澄んでいる。大きかったころの象はよく旅をしていた。いまもどこかに行きたいのだろう。ふたりで列車の窓から風景を見る。象がいなくなったあとも続く世界を見る。

2015-08-31 18:41:13
ほしおさなえ @hoshio_s

140字小説その492。

2015-09-04 13:58:50
ほしおさなえ @hoshio_s

みずいろの夢を見た。みずいろの湖に大きなみずいろの箱を沈めていく。中身はわからない。大切なもののような気がして、思い出すのが怖い。箱が沈む。すっかり見えなくなったとき、夢に閉じ込められたと気づいた。あれは出口だったのだ。わたしもみずいろになり、これからはここが現実なのだと思った。

2015-09-04 14:00:31
ほしおさなえ @hoshio_s

140字小説その493。

2015-09-08 16:24:37
ほしおさなえ @hoshio_s

雨が降っているから、ひどい雨が降っているから、僕は家に閉じこもって、灰色の空を見ている。出かけなければだれとも出会えないのに、なにもはじまらないのに、今日はもうだれとも会えなくても、なにもはじまらなくてもいいように思う。ひとり珈琲をいれて、季節が過ぎていくのをじっと見送っている。

2015-09-08 16:25:15
ほしおさなえ @hoshio_s

140字小説その494。

2015-09-12 17:37:07
ほしおさなえ @hoshio_s

窓から鳥がはいってきて眼鏡を差し出す。かけてみると景色が急に瑞々しく見えてびっくりする。いつもと同じ風景なのに、決してたどり着けない遠い場所に見える。子どものころはなにもかもこんなふうに見えていた。気がつくと鳥はいない。眼鏡もない。鳥の目をもらったのか。ただ景色だけが輝いている。

2015-09-12 17:37:40
ほしおさなえ @hoshio_s

140字小説その495。

2015-09-16 21:39:04
ほしおさなえ @hoshio_s

空が暗くなり、ここからはひとりで行く、と象が言う。これは自分だけの道だから、と。知ってる。象がもう戻らないこと。僕がそれを受け入れられないこと。ずっとふたりで歩いてきた。象の道は象と僕の道だ。だけど僕は進めない。道に阻まれている。闇に象が消える。最初から象なんかいなかったように。

2015-09-16 21:39:41
ほしおさなえ @hoshio_s

140字小説その496。

2015-09-25 08:37:14
ほしおさなえ @hoshio_s

雨が降ってる。ぽつんぽつんとわたしの心にも落ちてきて、丸いしみを作る。なつかしいあれこれがにじむ。だれかにしてもらったこと。だれかに伝えたかったこと。忘れていたことまでが浮かび、満ち、海になる。その海を見ながら、これがわたしの形なのか、こんなに大きかったのか、と少しびっくりする。

2015-09-25 08:37:40
ほしおさなえ @hoshio_s

140字小説その497。

2015-09-26 22:58:50
ほしおさなえ @hoshio_s

薄曇りの日、部屋の隅に人の形の影がしゃがんでいるのが見える。窓の外を眺め、寝そべったり頬杖をついたり、鼻歌を歌ってるみたいに揺れたりする。楽しそうだ。わたしにはなにも聞こえないけれど。それがだれなのか、なぜそこにいるのかわからないが、楽しいなら好きなだけそこにいたらいい、と思う。

2015-09-26 22:59:36
ほしおさなえ @hoshio_s

140字小説その498。

2015-09-27 21:47:29
ほしおさなえ @hoshio_s

月がきれいだった。生きるのが面倒になって、いやになって、僕が生きてることになんの意味もないように思えて、でも空を見上げたら月が信じられないほどきれいで、そもそもすべてのものに意味なんてないのだと思った。月がきれいだった。意味がなくてもかまわないと思った。生きてたっていいと思った。

2015-09-27 21:50:23
ほしおさなえ @hoshio_s

140字小説その499。

2015-09-29 22:05:22
ほしおさなえ @hoshio_s

ずっと窓を開けているのに、待っているものがやってこない。なにを待っているのかわからないからかな。いつか来るのかな。もう来たのに気づかず逃してしまったのかな。それとも来ないまま一生終わるのかな。空が高くて、それでもいい気がしてくる。いつのまにか季節だけが過ぎて、鱗雲が広がっている。

2015-09-29 22:06:07