丸子の一番長い日

キャンジャニ学園×関ジャニ∞ @canjani8kanjani

1 病院内は走らないでください そんな張り紙を横目に目いっぱいの速足で歩く。 消毒薬の匂いがする廊下。 指定された病室の前で止まった。 大倉忠義…ここだ…。 震える手でノックしてみる。 【はい、どうぞ】 大きく深呼吸して扉を開けた。

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2 目に飛び込んで来たのは、青白い顔でベッドに横たわる忠義の姿。 それを見てスッと血の気が引く。 体がカタカタ震えて吐き気が込み上げてきて目の前が真っ暗になった。 【丸子ちゃん！？】 遠くなりそうな意識を繋ぎ止める声。 『…おばさま』

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3 傍らの椅子に腰かけてた、忠義のお母さん。 駆け寄って来て、座り込みそうな私の背中をそっと支えてくれた。 【大丈夫？丸子ちゃん？】 『おばさま…忠義は…？』 あんな青白い顔して生気のない忠義の顔なんて見たことない。 怖くて、気付いたらギュッとおばさまの手を握り締めてた。

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4 【大丈夫よ。寝てるだけ】 椅子に座らせて、まだ震えてる私の背中をそっと撫でてくれる。 【命に関わることじゃないし、1週間くらいで退院できるって先生言ってたわ】 『一週間も…』 【言ったかしら？腸閉塞ですって。急性のものだから心配ないわ】 それを聞いてホッと力が抜けた。

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5 『腸閉塞で入院した』 留守電に、その言葉だけ入ってた。 私は久しぶりに皆で遊んでて、着信に気付かなくて。 慌ててかけ直しても電話は繋がらない。 コールも鳴らないし、返って来るのは無機質な機械音だけ。 何度も繰り返すその姿を見て、とりあえず帰れって皆に促されて家路につく。

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6 腸閉塞って何？ 手術？酷かったら死ぬ？ 電車の中で調べても目に入ってくるのはそんな怖い言葉ばかり。 留守電に入ってた忠義の声。 力なくて、今にも消え入りそうな微かな。 それを何度も聞き直す。 これが…これが最後のなんて、嫌だよ…。 込み上げる涙を堪える。

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7 何度も大きく呼吸をして震える体を抑えつける。 （…子、…丸子！） 『…え？』 肩を揺さぶられて顔を上げると、目の前に心配そうに覗き込む倉子の顔があった。 『…倉子？』 （あんた大丈夫？） 『倉子、何でここに…？』

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8 （あんたが心配でついてきたんじゃない。赤信号渡ろうとするしエスカレーター逆乗ろうとするし…あんたが先に死にそうな勢いよ） 『っ…倉子ぉ…！』 （あーもう！こんなとこで泣くんじゃないの！） 『忠義が…ただよ…』 （…うん） 『死んじゃったらどうしよう…っ！』

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9 （…大丈夫よ。今までそんな傾向なかったんでしょ？） 『でもっ…！』 （ほら…これにも殆どは絶食だけって書いてあるじゃない） 『でもっ…でも…』 （でもじゃないの、大丈夫だって。あれでしょ、食べ過ぎなのよアイツ） 地に足がつかない私の手を倉子が引いて歩く。

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10 （大体入院先も言わないってアイツ何考えてんの？電話してきたんならちゃんと言えっての） そうだ…入院ってどこに？ 相変わらず電話は通じないし、忠義の家の電話も誰も出ない。 病院がどことか見当もつかないし…周りの病院片っ端から電話かけて入院してないか聞いてみる？

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11 でもそんなことして教えてくれるのかな…？ ていうか、忠義どうなってるの？大丈夫なの？手術？ ねえ…誰か教えて…。 一度止まった涙がまた込み上げてくる。 その時、電話が鳴った。 忠義からの着信音。 『もしもしっ！？忠義！？』 慌てて電話を耳に押し付ける。

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12 【もしもし？丸子ちゃん？】 『えっ…？』 電話の向こうから聞こえてきたのは、優しい女の人の声。 忠義のお母さんだった。 心配してると思って…って連絡して来てくれた。 その足で教えてもらった病院へ向かう。 倉子は病院の入り口まで着いて来てくれた。

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13 『えっ…帰るの？』 （私はいいわよ） 『でも…』 （おばさん、大丈夫だって言ってたんでしょ？じゃ怖がることないじゃない） 『でも…一人じゃ…』 （忠義が逢いたいのはあんたでしょ…？） 『…』 （顔ぐしゃぐしゃでぶっさいくだけどね、今）

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14 ぶっきらぼうな言葉とは反対に、綺麗にたたまれたハンカチで顔を優しく拭ってくれる。 （行ってきなさいよ） 『倉子…』 （ほら） 『…ん。ありがとう…』 （一個貸しよ） 背中を押されて自動ドアをくぐった。 大きな病院。 忠義の病室まで遠い。

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15 電話では時間がなかったから最低限の話しかしなかった。 大丈夫よって言われたけど、それでも嫌な考えが頭の中をぐるぐる回る。 私を落ち着かせるためだけに言った言葉だったら？ 実は手術中とか…もしかしたら危なくて会える人呼んで、とか…？ 心臓がドキドキして呼吸が浅くて早い。

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16 人懐っこい笑顔。大きな笑い声。あったかくて大きな手。 なくなっちゃうなんて、嫌。 あの映画見に行こうって言ったじゃない。 あそこのランチバイキングにも。 一緒に旅行も行こうって。 まだまだ行きたいこともやりたいこともたくさんある。 全然出来てないことだって。

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17 ううん、そんなのどうでもいい。 忠義が傍にいてくれたらそれでいい、それだけでいい。 それが叶うならなんでもするから…なんでも言うこと聞くから…。 だから…だから忠義！死なないで！ 叫び出しそうな自分を必死で抑える。 そうして辿り着いた忠義の病室。

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18 おばさまは優しく相槌を打ちながらずっと聞いてくれた。 【ごめんねぇ、心配かけて】 『…いえっ…大丈夫なら、もう…もう…』 【食べ過ぎよ、ただの。おなか弱いくせに食い意地張ってるんだから】 仕方ない子ねぇっておばさまが笑った。

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19 【大体忠義も電話したんなら病院くらい言ったらいいのにね。そんな中途半端なことだけ言われたら逆に心配になるだけだわ。丸子ちゃんが胃に穴開いて入院するわよ】 『ふっ…うっ…』 【…お父さんもそういうとこあるのよねぇ…。ホント馬鹿よね、男って…】

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20 心底呆れたように言うから、思わず吹き出しちゃった。 【…あ、笑った】 『…』 【も、大丈夫？】 『…はい…すいません』 【いいのよ】 頭を撫でてくれるその手が忠義に似てる気がする。 【…ありがとうね、こんなバカ息子のことそんな好きでいてくれて】 『そんなっ…』

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21 【忠義、言うのよ。丸子ちゃんの笑顔が可愛いって。大好きって】 『やっ…そんな、こと…』 何言ってんの、忠義…。 恥ずかしくて思わず手で顔を覆った。 【私もそう思うわ】 『そんな…』 私も、いつも優しいおばさまが大好き。

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22 【だからもう笑ってあげて。目覚めたときそっちの方が嬉しいわ、きっと】 『…はい』 【…ん、可愛い】 ふんわり笑う顔も忠義に似てる。 少し胸があったかくなった。 【あ、そうそう。丸子ちゃん、これから1週間くらい何か予定ある？】 『え？いえ…普通に学校あるだけですけど…』

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23 【よかった！じゃあ忠義が入院してる間の世話頼めないかしら？】 『え！？』 【私、明日からお父さんと一緒に出張行かなきゃいけなくて。どうしても外せないし、何か絶対妻同伴なんですって】 『え、でも…』 【困ってたのよ。間悪い子だわ、本当に…】 『…』

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24 【どうせ食べれてもしばらくお粥とかだし、面倒なことはないと思うの。洗濯物持ち帰って洗って交換してくれるだけでいいんだけど…ダメかしら？】 『…それ、なら…』 【よかった！じゃあ今から荷物取って来るから付き添っててくれる？1時間くらいで戻って来るから】 『あ、はい』

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25 【ありがとう。あ、何かあったら電話してね】 そう言って電話番号教えてもらって、おばさまは足早に出て行った。 ふうって息を吐いて、椅子に座って忠義の顔を覗き込む。 近くで見ても血の気のない顔。 その頬に触れてみる。 あったかい。 呼吸だってしてる。 ちゃんと生きてる。