月下の執着#2 月の光の、眩しい夜◆2(終)
「やった……とうとうやったんだ」 マイラは呆然とその場に立ち尽くしていた。冷静に考えれば、すぐさま撤収した方がいいだろう。彼はそうしなかった。そもそも、冷静だったらこんなことはしない。 彼は静かに、達成の味を噛みしめていた。 41
2016-02-16 17:11:00_満月の光が、優しく彼を包み込んでいた。祝福していた。身体が燃えるように熱い。息が白いほど、冷え切っている夜なのに。自然と涙があふれていた。 「馬鹿だよ、俺は……本当に、馬鹿だったよ」 42
2016-02-16 17:19:32_マイラは今まで生きてきて、一番満たされた顔をしていた。見つかったら終わりだ。社会的立場も危うく、きついペナルティも課せられる。 それでも彼は、初めて自分らしく生きて、自分らしく振舞えたのだ。理想と現実の間で引き裂かれそうだった心が、初めて一つになった。 43
2016-02-16 17:30:15_屋根から、雪の塊がどさりと落ちた。そこでようやく、マイラは我に返った。冷静になって、撤収を考え始める。早く身を隠し、自宅へ戻らなくてはならない。 血なまぐさい匂いを感じた。闇の向こうを見る。……誰かがいる! 44
2016-02-16 17:34:26_そこには、パラファラガムスがいつもの無表情で佇んでいた。マイラは、何も違和感を覚えなかった。 「パラさん、あんたやっぱり……見届けてくれたんだね。さぁ、帰ろう……」 そうして、彼の一生に一度の冒険が終わった。 45
2016-02-16 17:38:36_次の日、パラファラガムスは未明のうちに旅立った。マイラはゆっくりと2度寝をして、起き上がり、キノコを焼き、バターを塗ってかぶりついた。いつもより3割ほどおいしく感じる。 朝刊を見て、自分が載っていないことに安堵する。代わりに、通り魔の続報。 46
2016-02-16 17:42:37_通り魔……切り裂きロングソードは、変死体で発見されたというのだ。しかも、自分が儀式を行った、あの詰所跡近く。 記事を読み進める。通り魔は身体を斬られた状態で見つかったという。ということは、当然誰かに殺されたということだ。 47
2016-02-16 17:47:28_剣で斬られた……ここで、マイラは次第に違和感を深めていく。切り裂きロングソードのせいで、街は警戒状態だった。当然帯刀などできるはずもない。 なのに、あの観光客……パラファラガムスは堂々と、鎧兵の前でも帯刀していた。それに誰も反応しなかった。 48
2016-02-16 17:52:49_あの晩……儀式を行った後に、姿を現わしたパラファラガムス。彼は返り血を浴びて堂々と立っていた。それに、マイラ自身も違和感を感じなかった。 あの後、マイラの家に帰って剣の手入れをしていたパラファラガムス。何にも不思議に思わなかった。 49
2016-02-16 17:57:06(パラさんは魔法使いだったんだ。そして、あの晩俺を守ってくれた。きっとそうだ) 最後に、マイラは納戸の扉を開けて手製の鎧を見た。そして扉を閉めて、鍵をかけ……もう、二度と夜中に鎧を着て出歩くことは無かった。 彼はもう、満たされたのだから。 50
2016-02-16 18:07:34【用語解説】 【切り裂き七人衆】 「切り裂き~」の名を持つ変態怪人。7人は活躍した時代も場所もバラバラだが、性癖が似ているのでひとまとめにして扱われる。彼らは皆アーティファクトの刃物を操り、人々を恐怖に陥れるが、全員魔人パラファラガムスの剣の相手となって殺されている
2016-02-16 18:10:46