2010年3月14日

『3月の戦い と 春のシチュー』 【clum】

折館迅と岡本玲/並列独白/ 18 tweets × 2 人分 ふたりが交互につぶやく形での #twnovel 。 3月中旬の2日間にわたる戦いの話。 春野菜を使ったクリームシチューの話でもある。
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clum @clum_memo

西高に足を踏み入れるのは二度目になる。推薦試験の結果は想定内だった。先週の穏やかな陽気が嘘のような冷たい朝の空気を吸い込む。うちの中等部からこの公立高を受験する人間はごくわずかで、他の公立中の黒い学ランの中、紺のブレザーはやたらと目立つ。敵陣だ」と身が震えた。 #twnovel

2010-03-09 20:01:07
clum @clum_memo

週の春めいた暖かさが息を潜めて、凍るように張り詰めた空気がわたしの指先を冷やしていく。今日からまたしばらくは寒くなるんだろうな。久しぶりに袖を通したコートにくるまって、学校へ向かう。うん、今日の晩ご飯はシチューにしよう! すてきな思いつきに足取りが軽くなる。 #twnovel

2010-03-09 21:38:56
clum @clum_memo

任は推薦の結果に落胆していたけれど、正直あれで受かるとは俺は思っていなかった。結局、最後は自分の力が全てだ。大丈夫。部活を引退してからはそれなりに勉強もしてきた。けれど、自分の受験番号が貼られた席に座ると、急に周りが頭のいい人間ばかりに見えて、焦った。 #twnovel

2010-03-09 23:23:32
clum @clum_memo

っとあったかい格好をしてくればよかった。じっと席に座りっぱなしで授業を受けてると、足の先から感覚が消えていく。膝にのせたコートをかき寄せて小さくうずくまる。あたかかくても眠くなるけど、寒くても眠いなぁ。うとうとしながら、シチューに入れる具のことばかり考えてた。 #twnovel

2010-03-10 15:43:58
clum @clum_memo

日目は国理英の三教科。二日目は数社の二教科に加えて、また面接がある。とはいえ、今回は集団面接なので随分と楽なものだ。周りの空気にさえ飲まれなければ。試験自体は嫌いじゃない。あの静かな空間にペンの走る音だけが響くのが好きだ。部活の試合と似た緊張感が、好きだ。 #twnovel

2010-03-10 16:26:58
clum @clum_memo

月に入ると、スーパーに並ぶ野菜の種類が一気に春めいてくる。葉っぱがうす緑色のやわらかい春キャベツに春白菜。煮込むととろける新玉ねぎに、皮ごと食べるとおいしい新じゃが。冬のそれとはまた違う、春のシチュー。ミルクの中に野菜がとけちゃってるシチュー。 それを作るんだ。#twnovel

2010-03-10 18:41:00
clum @clum_memo

学のなかではほとんど言葉も交わしたことがないような、違うクラスのヤツらと休み時間を一緒に過ごした。同じ高校を受けるという、ただそれだけで、妙な仲間意識が芽生える。そうして一日目が終わったが、妙に落ち着かずなかなか寝つけなかった。今までになく頭の芯が冴えていた。 #twnovel

2010-03-10 19:56:38
clum @clum_memo

の日家に帰ると、いきなり家族で食事に行くことになった。お父さんの気まぐれには慣れてるけれど。わたしのシチュー計画は延期。でも明日こそは! 学校の帰りにスーパーに寄って、たくさんのお野菜を抱えて帰ろう。今は一日中家で遊んでいるだけの兄を、樹を一緒に連れて行こう。 #twnovel

2010-03-10 19:59:58
clum @clum_memo

日目を終えて家路につくと、それまで意識の外にあった疲れと寒さに身体が支配された。空腹と睡魔が追い討ちをかける。気付いてしまうと、もう駄目だった。誰もいない冷たいあの部屋に帰りたくない。そう思った。公衆電話に噛り付き、指が覚えてる6桁の番号を、素早く押した。 #twnovel

2010-03-10 21:22:53
clum @clum_memo

校からの帰り道。近くのスーパーで樹と待ち合わせてお買い物。ついつい買い過ぎたお菓子を袋いっぱいにつめこんで、並んで歩く。もう一つの袋には鶏肉と野菜がいっぱい。白いスーパーの袋の上に、小さな白い雪がひとひら。今年最後の雪なのかな。春はまだ、もう少し先。 #twnovel

2010-03-10 22:54:55
clum @clum_memo

衆電話の受話器からは長い呼び出し音しか聞こえない。襟元から入ってくる冷たい空気に怯えながら、受話器を握り締める。 #twnovel

2010-03-11 16:10:18
clum @clum_memo

話が鳴ってる。野菜の泥で汚れた手を慌てて洗う。濡れた手を拭くタオルが見当たらない。電話が鳴ってる。エプロンで拭けばいいことに気付いて、ひとり恥ずかしくなる。あれ? 今度は電話が見つからない。 #twnovel

2010-03-11 16:11:15
clum @clum_memo

験勉強に追われて、最近は一言も言葉を交わせていなかった。怒っているのかもしれない。そこに考えが至って、やっと受話器を戻す。公衆電話に背を向けて、俺は駆け出した。 #twnovel

2010-03-11 22:30:15
clum @clum_memo

り止んだ電話探しは後回しにして、シチュー作りを再開。野菜とお肉の味がしっかりと閉じこめられるように、ぎりぎり一口と呼べる大きさに切る。軽く炒めて、お鍋に放りこむ。あとは本を読みながらお鍋を見守るだけ。お鍋の中で野菜とお肉がことことおいしくなるのを待つだけ。 #twnovel

2010-03-11 22:31:50
clum @clum_memo

した距離じゃない。これくらいなら走って行ける。降り出した雪を浴びて走りながら、何をどう話せばいいのか考えた。相談もせずに違う高校を受けると決めたこと。それを、ギリギリまで黙っていたこと。どこからどう話せばいいのかわからない。やっぱり、怒っているだろうか。 #twnovel

2010-03-11 23:20:41
clum @clum_memo

鍋のくつくつという音を聞きながら、彼のことを考える。窓の外はまだ少しだけ雪が降ってる。こんなに寒いのにまだ頑張ってるのかなぁ。シチューをたっぷり、お鍋いっぱいに作って待ってるからね。早くおいで。フライパンで溶かしたバターに小麦粉を加えてかき混ぜる。いいにおい。 #twnovel

2010-03-11 23:21:59
clum @clum_memo

の家を目前にして、足取りが重くなる。原因は部活引退後の運動不足か。いや、違う。自分で勝手に抱えてる罪悪感のせいだ。試験は良くできていた。俺は西高に行くことになるだろう。高等部にそのまま進学する玲とは別に。だけど、俺は自分の行きたい進路を選んだ。だから。 #twnovel

2010-03-11 23:55:43
clum @clum_memo

つふつと泡立つフライパンの中に、牛乳を少しずつ加えていく。とろりと固まりだしてすっかりホワイトソースらしくなってきたので、自然に笑みがこぼれる。市販のルーより少し手間はかかるけど、手をかけた分おいしくなることをわたしは知ってる。お料理だけじゃなくて、何でもね。 #twnovel

2010-03-11 23:57:09
clum @clum_memo

関の前に立つと、空腹の胃袋に効く晩飯のにおい。湯気にのって届く温かいにおい。何故か安心する。とにかく話そう。話さないと何もはじまらない。玲が怒っていたとして、満足のいく謝罪が俺に出来る保証なんてないけれど。においにつられるようにして、チャイムを鳴らした。 #twnovel

2010-03-12 00:25:03
clum @clum_memo

上げにコンソメでこっくりした味をつけて、お鍋の中にそろりとおとすと、ホワイトソースは野菜の煮汁にとけて広がった。そしてまた、わたしは火の番。においにつられて台所に入ってきた樹の、つまみ食いを止める番人と兼業で。ふいに、チャイムの音がした。樹が玄関へと向かう。 #twnovel

2010-03-12 00:28:12
clum @clum_memo

が開いて、樹が呆れた顔で立っていた。「……よく来れたな。試験終わったばかりだろ? 」家の中に招き入れられる。「ちょうど玲がシチューを作ったとこ。……食べたいんだったら、自分で何とかしろよ」これまでになく不機嫌そうに、背中を向けたままの玲が、そこにいた。 #twnovel

2010-03-12 01:09:02
clum @clum_memo

が開く音と、樹の呆れたような声が遠くから聞こえる。「……よく来れたな。面接終わったばかりだろ? 」廊下を歩く足音が近づいてくる。「ちょうど玲がシチューを作ったとこでさ。当然食べていくよな」樹と一緒に、折館くんが台所に入ってきた。スーツのネクタイを緩めながら。 #twnovel

2010-03-12 01:10:16
clum @clum_memo

験、終わったの? 」シチュー鍋を見つめたまま、玲が言う。「ああ」短い返事しか返せない俺にため息をついて、樹が二階へと消えた。玲はまだこっちを向かない。「ごめん」「…何が? 」「他所を受験するって決めたこと」玲がこっちを向いた。目はまだ合わせてくれない。 #twnovel

2010-03-12 01:22:50
clum @clum_memo

「面接、終わったの? 」シチュー鍋の火を止めて言う。ああ」折館くんの短い返事を合図に、樹が台所を出ていく。折館くんが続けて言った。「ごめん」「…何が? 」「今回もあんまり上手くいかなかった」折館くんが小さな声で言う。うつむいたままだから、顔が、表情が見えない。 #twnovel

2010-03-12 01:23:39
clum @clum_memo

「どうして? 」玲が泣きそうな声で言う。どうして謝るの? 」涙がにじむ目でまっすぐに俺を見る。「わたし、そんなことで怒ってるんじゃないのに! 」シチューの鍋が吹きこぼれる。火を止めて、玲が言った。「ごめんなさい。試験で疲れてるのに、こんなこと言って…」 #twnovel

2010-03-12 02:21:41
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