- anokazenikike
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昔々のお話です。あるところに例えようもなく邪悪で、重い重い、許されざる罪を犯した罪人がいました。罪人は裁きを受け、死後地獄に落とされます。しかし、地獄とは罪人が思っていたような場所ではなかったのです。
2016-02-23 12:30:52そこは、生きていた頃と何一つ変わらない世界。変わらない宇宙。そこで罪人は、望んだだけで森羅万象あらゆるものを思い通りに改竄するチカラをいつの間にか手に入れていました。
2016-02-23 12:31:07そのことを把握した時、罪人はすぐに欲求の赴くまま、栄耀栄華を極めた退廃の時間を過ごします。若く健康なまま、不老不死、美食美女は欲しいだけ、世界の王。宇宙の王と。しかし、そんなものは砂上の楼閣でしかありません。
2016-02-23 12:33:0510年、100年はあっという間に過ぎました。万知を納め、総ての娯楽を遊び尽くすと、やってくるのは、如何なる病魔よりも辛く苦しい猛毒……退屈の足音。
2016-02-23 12:35:16千年、万年も瞬きの間です。罪人は思い付く限りに手を尽くしましたが、精神を蝕み苛む退屈は全く解決しませんでした。自死を試みたこともありましたが、肉体が滅んでも、罪人の精神、魂は改竄能力に関係なく。不変不滅となっていました。
2016-02-23 12:38:31億、劫の時も過ぎ去ります。罪人の情動は磨耗していましたが、決して狂うことはなく。あくまで人間であった頃のまま、ずっと。精神が宇宙を漂っていました。
2016-02-23 12:40:34ある時罪人は、小さな違和感に気付きます。最初は頭が働かず、反応することもなく。しかし違和感はどんどん大きくなり、暗闇を眩しい光で照らすような、無視できないレベルにまで成長します。罪人は、本当に久しぶりの受肉を行い、その正体を確かめに行ったのですが……。
2016-02-23 12:53:14それは果たして、如何なる慈悲によるものだったのでしょうか。ともあれ罪人は歓喜し、咆哮し、感謝の涙を流しました。そして感謝の証として、その赤ん坊へ名を贈りました。優しき者。優者(ゆうしゃ)と。
2016-02-23 12:57:02この子なら、あるいは。無間地獄へ堕とされた、独りぼっちの王。間王たる自分を、殺し得る存在へ育ってくれるのではないか。期待した罪人は、すぐさま自らへあらゆるヘイトを集めるよう星を丸ごと改竄し、舞台を整え。そしてーー
2016-02-23 12:59:29異世界召喚とは即ち、それが無許可で行われた時は、世界間における誘拐犯罪である。故に事前の調整打診、念密な連絡と厳格な滞在時間の決定が義務付けられている。しかし、ただひとつの例外として、神格存在による魂の管轄ごと書き換えてしまう召喚があった。いわば国籍、戸籍が変えられてしまうのだ。
2016-02-23 12:25:32甚大なチートという甘い餌で釣った上で、神々がその召喚を行うのは、実のところかなりくだらない理由だった。自世界の管理に退屈し、膿んだ精神の憂さ晴らしとして、新しい視点で世界を語り直す語り部としての役目を期待しているのだ。そうして神々は、彼彼女らを主人公に据えた物語を楽しむ。
2016-02-23 12:27:46しかしそれが物語であるならば、良作と駄作の差が生まれてくる。"視聴率"を一定期間で得られなかった召喚者はチートを取り上げられ、誰にも顧みられないまま存在ごと抹消される。半ば黙認されてきたこの行為は、近年異世界で成功を収め力をつけた召喚者たちによって問題視する声が上がっている。
2016-02-23 12:29:45